第2回Reライフ文学賞の三宅威仁さん「生き方を変えて不幸を乗り越える姿を描いた」

読者賞の永田俊也さん「人の目に触れて初めて小説に」

2023.05.26

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(左から)授賞式に参加された三宅威仁さん、特別選考委員の内館牧子さん、永田俊也さん=伊藤菜々子撮影

 3月10日に東京都内で開かれた「Reライフフェスティバル2023春」で、第2回Reライフ文学賞の授賞式が開かれました。全国から1878件の応募があり、三宅威仁さん(大阪府)の「八色ヨハネ先生の思い出」が長編部門の最優秀賞に選ばれました。Reライフ読者会議メンバー選考委員が選ぶ「Reライフ読者賞」は、永田俊也さん(東京都)の「最後の噓(うそ)」に決まりました。

 授賞式に出席した三宅さんと永田さんの受賞あいさつをご紹介します。

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<目次>

長編部門最優秀賞「八色ヨハネ先生の思い出」 三宅威仁さん受賞あいさつ

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長編部門の最優秀賞を受賞した三宅威仁さん

 第2回Reライフ文学賞、長編部門最優秀賞を受賞するというような身に余る光栄に浴することになりました三宅と申します。しかしながら、自分の書いたものの欠点というのがわかっておりますから、本当に受賞したんだろうか、この作品でいいんだろうかという思いにずっと捕らわれております。内館牧子先生には、もったいないようなお褒めのお言葉を頂戴いたしまして、なんとお礼を申し上げていいのかわかりません。誠にありがとうございました。

 それからReライフ読者会議の選考委員の皆様方からも大変好意的な講評をいただきまして厚く感謝申し上げます。最終選考には7作残ったと伺っております。いずれも甲乙つけがたい作品であったと思います。私が受賞したのは単に運が良かっただけです。

 「八色ヨハネ先生の思い出」という作品ですけれども八色ヨハネ先生というのは架空の人物でして、私は学校で教えているんですが、私の先生方、あるいは先輩方、あるいは同僚、そして自分自身の体験を組み合わせて作り上げた架空の人物なんですけれども、人生の半ばにおいて家族を亡くすというような大変な不幸に見舞われた人であります。

 私たちは生きている間に様々な不幸に見舞われるわけです。特に納得がいかないのは真面目にひたむきに生きている人に不幸が起こる。今も世界中を見回しますと、戦争であったり、地震のような自然災害であったり、ちょうど明日は「3.11」の日でして12年前が思い出されますけれども。あるいはパンデミックであったり、犯罪であったり、そういう大きなことでなくても私たちの人生には小さな細々した不幸が身に降りかかってくるわけです。

 なぜ真面目にひたむきに生きている人が人生の半ばで不幸になるのか、その答えは誰にもわかりません。世の中はそうなっているとしか言いようがないわけです。問題はそれをどうやって耐え忍ぶかということです。私が描きたかったのは、自分の生き方を変えることによって、その不幸を乗り越えることができたような人物。無意味な不幸を意味のある不幸に解釈し直すことによって、また前向きに生きていくことができるようになった人物を描きたいと思いました。それが成功しているかどうかはわかりませんけれども。

 一つ心配しておりますのは、初めから終わりまで、実はキリスト教の聖書に絡めて書いてあるんです。キリスト教徒の方が読んでいただくと面白いと思っていただけるんじゃないかと思いますが、日本に暮らしている99%の人はキリスト教徒ではないのでして、そういった方々に読んでいただいて面白いと思っていただけるのかなと。印刷して出版していただいても、売れ残るんではないかなと思うんです。私、実は学校の先生をやっているんですけれども売れ残りましたら私の教えている学生に無理やり買わせますので、ぜひご連絡していただきたいと思います。「単位を出さない」と言って脅したら買ってくれると思いますので。

 今年で67歳になります。人生は終わったと思っておりました。しかしながら、こんな素晴らしい賞をいただいたということは、もうひと働きせよという天啓、天からのメッセージかと思っております。けれども、ここではしゃいででしゃばりますと、老害の人と言われますので、あくまで控えめに謙虚に、これからも残りの人生で生きていこうと思います。今まで散々好き勝手なことをやってきましたので、残りの人生は私の物語の主人公のように、少しでも世のため人のために役立つように生きて行きたいと思っております。それもあくまで謙虚に控えめにということでして、あんまり「世のため人のため」と言いながら、でしゃばる人にろくな人はおりませんので、控えめに生きていこうと思います。執筆活動の方も細々と、ということになるかとは思いますが、これからも続けてまいります。精進いたします。皆様本当にありがとうございました。心よりお礼申し上げます。

(2023年3月10日、授賞式で)

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Reライフ読者賞「最後の噓」 永田俊也さん受賞あいさつ

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Reライフ読者賞を受賞した永田俊也さん

 初めまして、永田と申します。私は1987年に大学を卒業し、そのまま母校の職員として16年7カ月勤務いたしました。後半の8年間は大学病院の人事課で仕事をしていました。40歳になるのを前に思うところありまして、こちらの道へと足を踏み出したと言えば聞こえがいいんですが、実際のところは踏み外したような・・・そんな次第でございます。

 「最後の嘘」は、その大学病院を舞台にした小説です。連作の中の一編として退職後に書きました。もちろん完全なフィクションですが人事に長くいた者として、この話を人に見せるのは相応の年月がたってからと決めていました。今回、朝日新聞の募集記事をたまたま目にしまして、ご縁あってこちらに立たせていただいている次第です。

 私が一番うれしかったこと、それは一般の読者の審査員の皆様にこの話を読んでいただけたことです。選んでいただいたことではなく、読んでいただけたこと。小説というのは人の目に触れて初めて小説になると私は考えます。本が好き、読書が好き、物語が好き。そんな皆様が七つの作品を真剣に読んで意見を戦わせてくださった。これは、ものを書くことを志す者にとってこのうえない光栄なことでございます。今回、審査に当たってくださった全ての皆様、そして関係者の皆様に7名のうちの1人として心からお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

(2023年3月10日、授賞式で)

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 Reライフ読者賞の「最後の噓」は、近日中にReライフ.netで公開します。最優秀賞の「八色ヨハネ先生の思い出」は、文芸社から年内に書籍として出版される予定です。

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