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神戸の実業家・松方幸次郎が美術品を買い集めた狙いとは 

読者会議メンバーが観た「松方コレクション展」

更新日:2019年10月17日

 神戸の実業家・松方幸次郎が戦前に欧州で買い集め、時代の荒波の中で名作の数々が散逸、焼失、接収と苦難の歴史を歩んだ「松方コレクション展」(東京・国立西洋美術館)を鑑賞したReライフプロジェクト読者会議メンバーの感想を紹介します。

 作品を通して知る世界の歴史
 日本、イギリス、フランス……。正に「流転」という形容がふさわしい、各所から集められた多彩な展示であった。各地で作品たちが体験してきた歴史。
 当初は正直、いとうべき戦争からの漁夫の利で集めた金持ちの道楽、という先入観を持っていた。しかし、松方の、海外の文化を理解すべきだという「志」や、直接晩年のモネを口説いた「情熱」を知るにつけ、見方が変わった。
 肯定的な目線で鑑賞するとなおさら、それぞれの作品自体が持っている魅力に加え、歴史をさかのぼっている感覚がその魅力を立体的にさせてくれるようだった。
 いつの時代も、いや今だからこそ、自国だけでなく、他国の文化を理解しようとする気持ちは大事である。純粋に芸術作品として鑑賞すべき、と言われるかもしれない。しかし、作品を通して世界の歴史を知り、向き合うことも、作品に新たな「価値」をつけ、鑑賞する人の心を豊かにするのではないか。そう思わせてくれる展示会であった。(神奈川県 升井洋士さん 60代)

 作品との久々の再会、鮮明な記憶がよみがえった
 私が初めて本物の西洋絵画に触れたのが、確か中学生の頃に岡山で開催された「松方コレクション展」でした。岡山から汽車で1時間も離れた田舎に住む私にとって、西洋絵画は画集の中のもの、サイズはどんな作品もB5止まりでした。父に連れられ、薄暗い展覧会場で見た西洋絵画の数々は、大きく、美しい色合いで、深く記憶に残りました。
 今回、うかがって驚いたのは、半世紀以上前の会場で見た絵画の多くを記憶していたことでした。かくも鮮烈な印象を残していたことに深い感銘を覚えています。
 松方氏の「私には絵が分からない・・・日本人に本物の絵を見せたい、西洋の文化を日本人に見せたい・・・」の思いは、見事に実を結んでいるようです。
 ちなみに、当時中学生だった私が最も感銘を受け、好きだと思った絵は、「貧しき漁夫」でした。なかなか渋い中学生だったようです。年を重ねた今、この絵は少し重く感じられました。
 一緒に行った夫は、ゴッホの「アルルの寝室」を見て、「どこがいいのか分からない」とつぶやき、「じっくり見れば変わってくるよ」と伝えたところ、ホントに長時間見ていました。「何か良いような気がしてきた」との感想を残し、会場を後にしました。(東京都 藤原芳子さん 60代)

 居並ぶ西洋の名品から感じた幸次郎の幅の広さ
 私は以前ドイツで仕事をしていた。その時できるだけ多くの美術館に足を運んだ。美術や社会の教科書に掲載されていた、小さな写真でしか見たことのない絵画や彫刻を目の当たりにしたとき、西洋の文化を感じ、しばらくその場を離れることができなかった。
 私がこう思うのだから、まだ外国にだれもが自由に行き来できなかった当時、多くの人々に本物を見て西洋を感じてもらいたいという幸次郎の思いは人一倍強かったと思う。
 今回、西洋美術館で幸次郎が収集した作品を目にしたとき、幸次郎の幅の広さを感じた。彼が集めた多くの作品は散逸したり焼失したりした。それらの全容が解明され、日の目を見ることを切に願うものである。(千葉県 本多成人さん 60代)

 150点余の作品群に思いをはせる
 いつまでも記憶に残るであろう、すばらしい展覧会だった。150点余の作品群に見入り、松方幸次郎の数奇な運命に思いをはせているうちに3時間以上が経過していたが、あまり疲労は感じなかった。
 維新の元勲の息子に生まれた幸運があったとしても、松方が残した功績の大きさはゆるがないと、改めて痛感した。巨富や名声を得ても、社会貢献とは無縁の実業家のほうが圧倒的に多いのだから。
 それにしても、収集した約3千点の美術作品の多くが散逸・焼失したことは、さぞかし無念だったに違いない。幻の「共楽美術館」を引き継ぐ形になった国立西洋美術館の活動に期待し、これからも足を運びたい。(神奈川県 村上徳さん 60代)

 所蔵先の美術館にも行ってみたい
 世界各国から集まった年代や地域、作者もバラバラな松方コレクション。音声ガイドでは絵画へ対する松方の思い、歴史、エピソードを知ることができた。
 また、キャプションには各作品が購入された年、場所が記されており、作品の歴史を感じた。作品をこんな見方で鑑賞したのは初めてだったと思う。返還されなかったり、売却されたりした作品などはゆっくり見ておこうとついつい欲が出た。いつか所蔵先の美術館にも行ってみたいと楽しみも増えた。
 一番見たかった「睡蓮、柳の反映」は、睡蓮の水面に浮き上がって見えるピンクの花が素晴らしく修復の技術に感動した。受け継がれていく作品の数々は後世へ伝えたいという熱い思いを持った人々の存在があったからなのだと感じた。(神奈川県 飯田京子さん 50代)

 半世紀ぶりに松方コレクションを鑑賞 よみがえった喜び
 今から50年近く前にもなりますでしょうか。私が小学校低学年の頃、母に連れられて巡回していた松方コレクション展を、山形の美術館に見に行ったことがありました。
 小さい頃から絵を描くのが好きだった私に本物の絵を見せてくれようと、電車とバスで2時間近くかかる小さな田舎町からわざわざ連れて行ってくれた美術館。たぶん生まれて初めて見る本物の絵画の迫力、美しさに、幼いながらも圧倒されたことをいまだに覚えています。
 確かその時のポスターになっていた絵は、エミール=オーギュスト・カロリュス=デュランの「母と子」でした。それが気に入って母にねだってポストカードを買ってもらい、宝物のように大事に机の上に飾って眺めていたことが、今回再びその絵の前に立った時によみがえってきて、懐かしさに胸が震える思いでした。
 昔は今ほど本物の絵画を見る機会もなかった山形の田舎町で、絵が好きな娘のために遠くの美術館まで連れて行ってくれた母に感謝です。おかげで今でも絵を見るのも描くのも好きで、そして今は私が自分の子どもたちの手を取り、美術館に連れて行くことが出来ています。
 今回も中2の娘を連れて松方コレクションを見に行かせていただきました。娘はモネの絵を気に入って、やはり幼かった私のようにポストカードを1枚買って机の上に飾っていました。いつかこの娘も、自分の子どもを連れてこの絵を再び見に来ることがあるのかな? そう思うと、なんだか不思議な気持ちです。
 こうして絵が好きっていうDNAは自然と受け継がれていくのでしょうか。懐かしい思い出とともに、胸が熱くなる展示会でした。ありがとうございました。(神奈川県 川上さち子さん 50代)

 作品鑑賞に、姉との邂逅 充実の一日に
 前日に、NHK Eテレ日曜美術館で「松方コレクション展」が放送された。そのせいか、チケット売り場には大勢の人が列をなしていた。私は招待券のおかげですんなりと入場できた。松方コレクションは高校1年生の時、九州の田舎で見た。初めて触れた文化であった。残念ながら当時の絵の記憶は何も残っていなかった。あれから、もう半世紀もたったのだなあ。今回、ゴッホの「アルルの寝室」の色遣いや空間のゆがみ、ルノワールの「アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)」の中央の女性の足には魅了された。久しぶりに会った姉と鑑賞後、かも南蛮そばを食べた。心に栄養をいただき、充実の一日となった。(千葉県 菅野えり子さん 60代)

 存在感ある作品群に絶妙な調和
 列強国が軍備増強を競っていた時代に造船業で莫大(ばくだい)な富を得た松方氏。そんな彼のコレクションの代表作は優雅なモネの絵画とばかり思っていた。
 だが、今回の展覧会で印象に残ったのは、第1次世界大戦を描いた小さな作品群であった。エドマンド・ジョセフ・サリヴァンの《正義の支配》、チャールズ・ド・スージィ・リケッツの《解放されたイタリア》、チャールズ・ヘイズルウッド・シャノンの《芸術復活》などを購入した彼の真意は何だったのだろうか?
 勝手に推測すれば、単にヨーロッパで起こった戦争記録としてではなく、実業家という立場から、この戦争に加担したという複雑な思い、そして何より、兵器ではなく絵筆を希求した芸術家らの崇高な魂を見逃すことが出来なかったからではないだろうか。20点にも及ぶ大戦を描いた絵画は、百年を経た今もなお、多くのエネルギーを放っている。松方氏のメッセージも添えて。
 平面の世界に広がる立体感、絵画から聞こえてくる水音、足音、人々のおしゃべり、遠くで鳴る汽笛……。西洋美術館常設展おなじみの絵画も、今回初めて鑑賞したムンク《雪の中の労働者たち》やマネ《嵐の海》などの大作も、一つ一つの作品が存在感を主張しつつも不思議と調和が保たれいる。長く松方コレクションを所蔵し管理してきた西洋美術館の強い思い入れが現れていた。(茨城県 石井雅美さん 50代)

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