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かけがえのない存在の死を通して気付く、生きることの意味 

読者会議メンバーが観た映画「駅までの道をおしえて」

更新日:2019年10月17日

 朝日新聞Reライフプロジェクトでは、読者会議メンバーを映画の試写会にご招待し、鑑賞後に書いていただいた感想を紹介しています。今回の作品「駅までの道をおしえて」は、直木賞作家・伊集院静の同名の小説が原作。愛犬の帰りを待ち続ける少女と、先立った息子との再会を願う老人。共にひとりぼっちだった2人が出会って、大事な何かを探す旅に出かける・・・。今、逢いたい相手がいる全ての人に贈る、新たな希望と出発を描いた物語です。

Reライフ読者会議メンバー限定/映画「駅までの道をおしえて」試写会の模様=2019年9月30日、東京・朝日新聞本社で

 夫の死を乗り越え、私も1歩踏み出したい!
 何の予備知識も持たずに、この映画を見てしまった私。初めは見ているのが苦しくて、逃げだしたくなったのでした。
 「今は遠くに行っているだけできっと帰って来る」「今は遠くに行ったきり、戻ってきていないだけ」。この2人のセリフは、1年10カ月前に夫を亡くした私の気持ちを、代弁してくれているみたいでした。夏の終わりのシーンでは、時の流れを感じました。そう、人は永遠に生き続けることはできないのです。
 控えめで上品な音楽と、なんとも愛くるしい主演のお嬢ちゃん。私を次第にグイグイと画面に引き付けてくれました。実は、私にはフルートを習っている小4の孫娘がいます。昨年の夫の一周忌には彼女の提案で、小さな家族音楽会が実現しました。そしてこの6月には、その孫娘から「今年の曲はFoorinの『パプリカ』よ!しっかり練習しておいてネ、おばあちゃん」と、宿題をだされ、目下12月の三回忌に向けてハーモニカを練習しているところです。まさか、その「パプリカ」を歌っているお嬢ちゃんが、この映画の主演だったとは。
 近いうちにもう一度、今度は孫娘と一緒に、この映画を見に行く予定です。それが、夫の死を乗り越えて私が前に進むための第一歩になる気がします。逃げ出さないで良かった。(神奈川県 古瀬明子さん 70代)

(c)2019映画「駅までの道をおしえて」production committee

 とことん悲しんだ末に実感できる心境とは?
 少女のみずみずしい感性と、老人の何とも言えない渋さが映画を魅力的にしている。そして、少女の成長を見守る大人たちの優しさが胸にしみる、静かで優しい映画だった。
 広い原っぱ。レトロな喫茶店。バックに流れるアンプラグドなギターやピアノの音色。か細く優しい歌声。それらの全てが、気持ちを穏やかに優しくする。
 人は誰でも、大切でかけがえのない命の死に直面する。それを、どう乗り越え生きていくのか。そして死者は、大切な相手にどうして欲しいと願っているのか。そんな双方向からの問いかけが、作品を豊かなものにしていると思う。
 この映画を見ていて、私が好きな方丈記の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし……」というフレーズを思い出した。これは、現実にきちんと向き合って、とことん悲しんだり感じたりした時に実感できる心境のように思う。
 ずっと忘れないでね。でも、ずっと悲しまないでね。そして、人生を楽しんでね。死んだら私は、きっとそう思う。そんなことを考えながら、離れて暮らす母や息子、そして天国にいる父のことを思った。(東京都 星野まり子さん 60代)

 二者を結びつけたものは?
 果たしてこれを現実逃避と言えるだろうか? 少なくとも彼らは、意図的に意識をそらすことはしていなかった。今はここにいないだけで「絶対に会える」と、信じて疑わない。そしてそこには、喪失感や虚無感、失望といった類いの消極的な言葉は存在しない。彼らの心を支えていたのは「現実を受け入れない」信念から導かれる「希望」だけだ。
 環境こそ違えど、同じ立場であった彼らが共に選択したのは、「奇跡」という、ある種飛び道具的なイマジネーションだった。ただし、この感情が穏やかに育まれたのは、少女と老人に対して周囲が優しいまなざしで接していたからに他ならない。そんな優しさが土台になっていたからこそ、彼らは安心して希望を見いだせたのだろう。
 舞台となったジャズ喫茶「Lady bird(英語でテントウムシのこと)」は、少女とルーを結びつけたキューピッドであるテントウムシと重なる存在であり、作品の良い隠し味となっていたように思う。(埼玉県 広田俊郎さん 50代)

(c)2019映画「駅までの道をおしえて」production committee

 亡き人を慕ういとおしさがあふれる映画
 人生は出会いと別れの繰り返し。悲しい別れは陰となり、出会いの喜びの光とコントラストを織りなす。そのコントラストが深く細やかなほどに、心は美しい色合いを描いていく。
 愛犬を亡くして立ち直れない少女が、息子を亡くしたことを信じられない老人と出会い、悲しみを分け合ってゆく。そして老人も息子の元に旅立ってゆき、少女は残される。
 映画は亡くなったものとの日常を回想シーンとして淡々と描いていくのだが、見るものはふと涙ぐんでいる。悲しみをゆっくり深く慈しむことは、人生を宝石に変えてくれる。その輝きが次の新たな駅へすすませてくれる光になる。亡き人を慕ういとおしさが泉のようにあふれる映画だった。(千葉県 沖雅子さん 70代) 

 生きている者の使命とは?
 「駅」は、出会いと別れの交差点。そして「線路」は、過去と未来をつなぐ糸だ。人は誰も、心の奥底に小さな「思い出箱」を持っている。そして、その「思い出箱」を時々開けては、自らがたどってきた“幸せな時”を確かめる。
 「生きる」ことの意味は何だろう。それは、思い出と思い出を結びつけ、つかの間の邂逅(かいこう)を懐かしむこと。そして、時の流れの中でかけがえのない「今」を託されていることを自覚することではないか。私は、この映画を見てそう思った。「今日」という一日、「今」という一瞬を大切に生きることこそが、生きている者の使命なのだ。
 いつか私も列車に乗り込み、ホームに残るいとしい人たちに手を振る日が来る。その時、「悔いのない人生だった」と笑顔で言えるよう、「今」を懸命に生きて行きたいと思った。(埼玉県 小島英樹さん 60代)

 心温まる映画
 愛犬を突然の病気で失った少女と、息子を幼いうちになくした老人。2人とも心にぽっかり穴が開いて、考えることは楽しかった頃の思い出ばかり。
 昔読んだ、映画の原作者・伊集院静さんのエッセーによれば、妻の夏目雅子さんを亡くした時は、まさにそのような状態だったそうです。
 私は昨年、96歳の母を見送りましたが、介護期間もあったため、心の準備ができていました。心の準備もなく、大事な人や家族同然のペットを亡くしたとしたら、そのショックはとても大きいことと思います。
 共に愛する者を失った少女と老人が知り合うことで、お互いが少しずつ癒やされてゆく様子を描いた、心温まる映画でした。主役を演じた少女が、とても上手で可愛かったです。(東京都 山本純子さん 60代) 

(c)2019映画「駅までの道をおしえて」production committee

 ファンタジーの力
 この作品は、犬と少女と老人が紡ぎだすファンタジーである。この映画を見て、改めてファンタジーには人の痛みや悲しみを癒やす力があることを知った。
 作中には、いくつもの死が描かれている。いわば、死と再生の物語である。しかしながら、登場する人物の多くは寡黙だ。寂しげな背中が、孤独な横顔が、むしろ雄弁に心のうちを語る。少女はいかなる時も、決して涙を見せない。口を真一文字に引き結び、子どもとは思えないほどの険しく厳しい表情を見せる。それだけに、愛犬ルーと戯れる時の表情は幼く、明るく、その対比が際立って印象的だ。
 有村架純さんのナレーションも、成長した少女のイメージに合っていた。久しぶりに京急線に乗って、海を見に行きたくなった。海に行ったら、私も懐かしい人たちに会えるかもしれない。(神奈川県 半田淳子さん 50代)

 やっぱり神様はいるのかな?
 とにかく一番は、サヤカを演じたちせちゃんの可愛らしさ! 演技とは思えない自然体の表情が魅力的でした。フセさんの「神様はいない」の言葉は重く、共感出来ました。
 「大切な人が次々いなくなる」サヤカに、私は何年か前の自分を重ねていました。愛犬、父、義父、そして母との別れが続いて「ああ、私のいとしい大切な人が、私のことを思ってくれる人が、こうして次々いなくなっちゃうんだぁ……」と、喪失感でいっぱいだった私に。1人になると、ふと涙が出たものです。
 でも、長男の結婚が決まって、可愛いお嫁さんが来た時、「ああ、こうやって大切な人が増える事もあるんだ」と、とてもうれしく幸せな気持ちになりました。やがて孫も生まれ、次男のお嫁さんも迎えることができて。
 辛い別れがあったからこそ、このありがたい幸せを大切にしたいと思う。フセさんだって可愛いサヤカと出会えた。そして、人の心にそっと寄り添えるサヤカなら、これから先の人生にたくさんの出会いがあることだろう。「やっぱり神様はいるのかな?」。そう思って生きていきたい。(埼玉県 岡田道子さん 50代)

(c)2019映画「駅までの道をおしえて」production committee

 切ないけれど、温かい気持ちになる映画
 人には誰しも大切な人がいて、その人との別れは悲しく辛い。私にも、そんな経験がある。空っぽになってしまった心。喪失感。どんなに手を伸ばしても、もう2度とその人に触れることはできない絶望感。その心の空洞は、何者にも埋めることはできない。
 この映画に出てくる少女や老人も、やはりそんな思いを抱えている。2人の間には、歳を超えた友情がいつしか芽生え、互いをおずおずと癒やしていく。
 私たちも、いつかはあの駅へと向かうのだろう。送る方も送られる方も涙を一杯ためて。でも、最後にはかすかなほほ笑みが浮かぶはずだ。切ないけれどどこか温かい気持ちになる、希望の光が見える素敵な映画でした。(東京都 池辺節子さん 50代)

 お涙頂戴物語ではない!
 けなげな犬を題材にした、お涙頂戴物語ではなかった。生きていく上で避ける事の出来ない「死」というイベントに、正面から向き合った物語だった。
 愛犬や、親しい老人の死を乗り越えてゆく少女の姿は、身近な「死」に対して十分な稽古が積めていない「大人」に向けられた、格好の手引書になると思う。
 ノンフィクション作家の柳田邦男が言う「死者の物語を聴きとめる」こと。その物語を消化し、映画の中で少女が思い出の品を片づけたようなプロセスを経ること。さらに大事なのは、そうした時間の先にある日々を、どう過ごすのかということだ。
 自分の人生に残された時間は、確実に短くなっている。「その時間を、意味あるものとしてどう使うつもりなのか」と、映画に問いかけられたような気がした。(神奈川県 升井洋士さん 60代)



2019年10月18日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開。125分/2019年
原作:伊集院静「駅までの道をおしえて」(講談社文庫)
脚色・監督:橋本直樹
出演:新津ちせ 有村架純/坂井真紀 滝藤賢一 羽田美智子 マキタスポーツ/
余貴美子 柄本明/市毛良枝 塩見三省/笈田ヨシ
主題歌:「ここ」コトリンゴ
企画・制作:GUM・ウィルコ
配給・宣伝:キュー・テック
〈公式ホームページ〉https://ekimadenomichi.com/

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