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遺産相続が、遺産「争族」にならないために<下> 

遺言書の作り方

更新日:2017年03月01日

三井住友信託銀行のフェロー主管財務コンサルタント・稲熊里志さん
 三井住友信託銀行のフェロー主管財務コンサルタント・稲熊里志さんが、2016年12月16日、朝日カルチャーセンター新宿教室(東京)で講演した。稲熊さんはいろいろな具体事例をあげて、遺産相続の難しさと遺言書の書き方を紹介した。

 信託銀行の財務コンサルタントには相続に関する相談がたくさん持ち込まれる。実際に相続が発生して、もめている相談も少なくない。もめている案件は、ほとんど遺言書がない案件だ。遺言書があればここまでにならなかったのになあというのが実感だ。

■ 有料老人ホーム入居一時金返還金

 最近は、有料老人ホームに入居する人が多くなってきた。有料老人ホームに入居する際には、まとまった入居一時金を払うケースがほとんどだ。入居して一定の期間内に入居者が死亡すると入居一時金が戻ってくるケースがある。この金額は当初の払込金額によるが、何百万円から数千万円になることがある。このため、入居一時金の返還金を相続する人をはっきり決めておくことが必要だ。トラブルになる。

 例えばこんなケースだ。入居する際、入居一時金をだれが相続するか記載していなかった。入居一時金は不動産でもない、金融資産でもなく「その他の財産」に包含される。その遺言書では「その他の財産」は長女が相続することになっていた。

 しかし、有料老人ホームに入居する時の手続きは二女が行った。そのため入居契約書では、入居一時金返還金の受取人に二女が名前を書いていた。これらにより遺言書では長女が相続することになる一方、入居契約書上の受取人は二女になる。このため、完全な股裂状態になってしまった。法律上はどちらが優先するかは、法的解釈が分かれている。このような事態にならないためにも、入居一時金返還金は遺言書にまず項目として入れる。帰属者は入居契約書上の受取人とする等、帰属をはっきりさせておくことが必要だ。

■ 障害者や高齢者の家族がいる場合

 自分がいなくなったらどうなるか心配。誰が世話をし、費用を負担するかでもめることがよくある。こうしたことを防ぐために「負担付き遺贈」を活用する。負担付き遺贈とは、遺産をあげるかわりにこうしてくださいと条件をつけて遺贈することだ。

 例えば、本人には、施設への入居を拒んでいる要介護の妻と近所に住む長女、遠方で暮らす長男がいる。自分が亡くなったら長女に妻の面倒をみてもらいたいと考えている。この場合、長女に妻の介護をしてもらうため長男よりも多くの遺産を残してあげるべきだ。この場合はこんな遺言書になる。「長女に預貯金3000万円を相続させる。ただし、長女にはこの相続の負担として妻の必要な生活費を支出し、入院や施設入居が必要になった場合はその費用を負担する」。このような負担付きであれば、長女が遺産を多くもらっても長男は異議が出しにくい。長女が介護を放棄した場合は、相続人や遺産相続執行者が、相当な期間を定めて履行するように催告できる。期間内に履行がないときは、負担付き遺贈について家庭裁判所に取り消しの申し立てをすることができる。

■ ペットに遺産を

 ペットを飼っている人は多いと思う。ペットに遺産を残したい場合、どうしたらいいか。ペットを家族同様に可愛がっている人は多いと思う。自分が死んだ後、ペットはどうなるのか心配。飼い主が亡くなって引き取り手がなくなって保健所で処分されては可哀想だ。

 日本では、法律でペットに財産を与えることはできない。このような場合にも負担付き遺贈を活用する。ペットの面倒をみることを条件に、信頼できる人に遺産を遺贈する遺言書を書けばいい。例えばこんな書き方になる。

 例)遺言者は友人・山田太郎に金200万円と遺言者の愛犬ポチ・シバイヌ・オス5歳を遺贈する。ただし、山田太郎は、金200万円を受け取る負担として、愛犬ポチを終生大切に飼育するものとする。また、ポチの死後は、手厚く埋葬すること

■ 付言事項(ふげんじこう)

 付言事項は法的効力がない。しかし、遺言書作成にあたって家族への思い、財産分けの真意などを自分の言葉で書き残すことで、いわば、遺言書の魂にあたる。

 遺言書に付言事項を書くことによって、遺言書の魂が入ることで相続も進めやすくなる。付言事項を書く時の注意点は、遺言書本文の内容と齟齬(そご)が出ないようにすること。恨みつらみは記載しないこと。恨みつらみを記載すると後で、争いの元になる。むしろ恨みがあっても、遺言書はそれらを水に流して、清らかな心で旅立つ最期の機会だ。許すことも考えていただければと思う。

 例)私は、家族のみんなによくしてもらい、また息子3人もそれぞれに立派な社会人になってしあわせな一生でした。ありがとうございました。特に長男の一郎夫婦は、晩年、身体の自由がきかなくなった私を何かと気遣い、本当によく面倒をみてくれました。あなたたちの優しさに私は、心から感謝していますよ。

 次男の二郎および三男の三郎は、一郎に比べて配分が少ないと思うかもしれませんが、両名には生前に相応のことをさせてもらっているので、私の最期のわがままだと思ってどうか了解してください。

 長男の嫁の花子さんには、自分の親のようによく世話をしていただきました。感謝の気持ちとしてわずかばかりですが、お受け取りください。これからもみんなが仲良くしあわせに暮らしていけるよう祈っています。

  付言事項を入れることにより、配分だけの遺言に魂が入ったと思われませんか。事実この相続は、次男と三男の配分が少なかったが、この付言事項があったおかげで次男三男からも特に文句は出なかった。また長男の妻も感謝の気持ちとしてお金を遺してもらったことをとても喜んだ。お陰でこの遺言はとても円満に終了した。

 相続のご相談にお見えになるお客さんには、遺言がどれだけ優れた相続手法であるかをよく説明して、なるべく遺言を作るよう勧めている。みなさま、今日のセミナーをきっかけに家族の幸せのために遺言書を作っていただければと思います。

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