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養老孟司さん/生き方を語る「自分が変われば世界も変わる」 

阪急生活楽校×朝日新聞Reライフ~こころもカラダも元気になろう!~

更新日:2017年08月24日

自分の命と人生は 結構 人のためにある

 この年になると一番の気がかりは死ですよね。最近、知り合いの死によく遭遇します。若いころ解剖をやっていたから、死んだらどうなるかはわかっています。私が死んでも私には関係ない。「知ったことか」ですよね。そう思うと非常にラクです。でも「誰が困るのか」と考えると、まず連れ合いが困ります。皆さんが死んで困るのは周りの人。「子どもに迷惑はかけたくない」。そう思う人、多いでしょう?人生は結構人のためにあるんです。

 最近の教育は自己実現とか言って自分を立てます。私は昭和12年生まれの古い人間ですから、自分の命は自分のものではなかった。小学生のいじめ自殺のニュースなどを聞くたびに、私たちが暗黙のうちに「自分の命は自分のもの」と教えすぎているからではないかと思います。「自分のものなら不愉快だったら死んだっていい」。そう考えても不思議ではない。子どもが死んで一番悲しむのは親ですが、それがどうも伝わっていません。

 「個性豊か」「自己実現」「自分の人生」なんてことばかり考えていると、人との関係がどんどん薄くなります。人間関係はうるさいから若い人は嫌います。最近、若い人が結婚しませんが、それは、我々がずっとこの方向に向かって進んできたからです。世界全体でみると人間のやることは筋が通っているものです。

人間は 意味の世界に 閉じ込められている

 自然を旅して使うのは感覚です。ところが都会に住んでいると、使っているのは感覚ではなく意識、頭の中で生活しています。部屋は一定の温度に保たれ、昼夜の別なく明るく、段差なく歩ける。そんな環境で生活しているから、都会の人は感覚を刺激されることを嫌がります。

 頭の中の意識は言語化され、乱暴に概念に置き換えられ、意味(情報)を作り出す。概念がなぜ乱暴かというと、あなたと私は違うのに「同じ」、人としてくくってしまうからです。これができるのは人間だけ。動物にはできません。「同じ」は人間と動物を分けるキーワードです。病院に行けば医者は患者を診ず、検査の結果で診断・治療します。手続きに銀行へ行くと「身分証明書お持ちですか?」。本人がここにいるのに(笑)。感覚まで情報に変えてしまう時代にコンピューターが活躍し、現物の人間はノイズになっています。

 人生から感覚がどんどん外れていった結果、みんな意味の世界に閉じ込められています。若い世代は「意味がないものがあることはおかしい」と思っています。しかし、自然や感覚に意味なんかありません。かつては「いるだけでいいよ」と言われているお年寄りがいましたね。意味のないところを見ないと、現代社会の解毒剤にはならないのです。

感覚で「違う」ものを 「同じ」に扱い始めた人間

 もう少し、この話を広げてみましょう。現代の私たちは無意識にこの「同じ」を使いこなしていますが、かつては「違う」ものを「同じ」として扱っているという意識が明確にあったのではないかと思います。皆さん、ちょっと昔を思い出してみてください。

 英語を習った時に「the apple」「an apple」定冠詞と不定冠詞の違いを教わりましたね。ここにも感覚と意識の違いがよく出ています。この違いは英語ができてきた時にはもうあったはずです。「the apple」はあのリンゴ、そのリンゴ、このリンゴ、具体的なリンゴです。「an apple」はどこのどれでもない一つのリンゴ。これは頭の中のリンゴ、意識の中のリンゴです。「an apple」と言えば、英語を解する人間は全員、頭の中にリンゴを思い浮かべることができます。こんな芸当は動物にはできません。

 「同じ」でないとできないこともあります。その一つがお金です。お金は等価交換です。等価も交換も「同じ」ってことです。同じ価値のものを交換すること。あれとこれを取り換える。それを便利に数的に表したものがお金です。これを話すと数学の基礎の講義になってしまいますが、簡単なんですよ。a=b、b=a。これを「交換の法則」と数学の基礎で言います。aとbは感覚では違うでしょ? それを「同じ」と考えるってことなんです。

完全なコピーが作れる コンピューターの世界

 人間は意識中心になってきて、それがどんどん極端になってきて、ついにコンピューターになりました。意識の中を詰めていくとコンピューターになるんです。

 コンピューターはご存じのように0と1でできています。この仕組みを利用すると完全なコピーが作れます。皆さん、いろいろなデータをしょっちゅうコピーしていますよね? あれってどれがオリジナルですか? 時間が書いていないと、どれがオリジナルなのかわかりません。つまり、見ただけではオリジナルなのかコピーなのかわからない。昔の紙のコピーはわかりましたよ。コピーを繰り返すとホコリがついてどんどん黒くなりましたから。今はそんなことないでしょ? 究極的に同じものなんですよ。究極的に同じってどういうことかというと、人間に置き換えると「死なない」ってことです。

「同じ」私の細胞でも 7年たったら全部替わる

 皆さんは、私は私、どれだけ時間がたっても一貫して「同じ」私と思っていませんか? とんでもないですよ。現代医学では、7年たったら分子は全部入れ替わっています。同じ細胞をつくっている分子が全部入れ替わるんです。7年に1回、100%替わる。私なんか、もう11回全とっかえしているんですよ(笑)。7年に1回、部品を全部取り換えて11回たった車と同じなんですよ。

 「方丈記」の作者、鴨長明はこれを言っていましたね。「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」。そこまではいい。そのあと何と言っているか。「世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」。人も町も鴨川と同じ。あっという間に変わる鴨川の水と人間が同じだと言っています。物質とか知らないのに言っている。わかる人はわかっていたんだなと思います。

 意識の世界にいたら「同じ」自分なんですよ。意識って「同じ」を作る働きですから。だけどもとの自分ではない。ピンとこないと思いますけれど、暇な時にじっくり考えてみてください。

「違い」を認め合えば 人生がラクになる

 人間と違い、感覚で生きている動物は、概念でくくって物事を「同じ」と見ることができません。例えば犬をここに連れてきたら、おじけづいて逃げ出します。全く違う生き物が何百もいたら怖い。当然です。

 人間だけが感覚で入ってきたものを無視して、言葉にして「同じ」を作り出せる。だからこそ人は相手の立場に立って物事を考え、共感できる一方で、「違い」を素直に認め合えず、排除したり苦悩したりする。私たちはもともと違うんです。うちの猫だってそんなことは知っています。そう思ったら人生、ラクになりませんか。


養老孟司さん
ようろう・たけし●1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。解剖学者。東京大医学部教授を務めた後、名誉教授に。「日本人の身体観」「唯脳論」「バカの壁」など著書多数。京都国際マンガミュージアム名誉館長も務めるほか、趣味の昆虫採集で世界を飛び回る。




■ イベント概要

概要 「阪急生活楽校」×「朝日新聞Reライフプロジェクト」
こころもカラダも元気になろう!
主催 阪急うめだ本店、朝日新聞Reライフプロジェクト
協賛 司法書士法人コスモ、阪急交通社
日時 2017年7月31日(月)
場所 阪急うめだ本店 9階 阪急うめだホール

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