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菌との共存で抵抗力を養え 発酵と腐敗の境界線を感じよう 

Reライフおすすめ講座「糀生活の魅力」 その1

更新日:2017年11月17日

 鈴木大輝さんは、東京・表参道にある「発酵居酒屋5」の料理長だ。この店では日本の発酵食品の元となる「麴」に的を絞り、麴を使ったさまざまなオリジナルメニューを展開している。麴(こうじ)菌の魅力を伝え続けているプロの料理人から「発酵の基礎」を学ぶ。

 漬物、納豆、ヨーグルト、しょうゆに酒……。身の回りには、さまざまな発酵食品があり、私たちはその恩恵にあずかっている。でも、そもそも発酵とは何なのだろう。鈴木さんは「菌や微生物のはたらきによって、触れた物の性質が変わること。変化こそが発酵、そして命の本質です」と説明した。

 受講者の一人が「私は、ゆでた豆に納豆を混ぜ、増やしています」と、自らの取り組みを紹介した。「体にいいものが、たくさん増えていくのが楽しい」のだという。「すばらしいですね。そうやって命を増やしていく営みこそ、まさに発酵なのだと思います」と鈴木さん。

 ところで、菌や微生物による食材の変化を「発酵」と呼ぶのなら、それは「腐敗」とはどう違うのだろう。

 この疑問に答えるため、鈴木さんは「ふなずし」を例示した。日本最古のすしとも呼ばれる「ふなずし」は、稲作とともに東南アジアから伝わった発酵食品「なれずし」の一種だ。「ふなずし」は塩漬けの魚を飯につけ込んで発酵させるのだが、その独特の風味は、人によって大きく好き嫌いが分かれる。

 「私は、くさやが苦手なので、腐敗と感じてしまうのです。でも、くさやが好きな人にそんなことを言ったら、怒られてしまいますね。あれこそが発酵だと」。そう話す鈴木さんは「結局、発酵と腐敗を区別するのは人の文化だ」と考えている。

 できたものが自分にとって良い物ならば、それは発酵だと言えるし、きらいだと感じれば腐っていると受け取られる。「結局、自分と食べ物、そして菌とのかかわり方の問題なのです」

 「開封したジャムが白くなってたら、もうだめですよね?」という質問が出た。「白カビですね。私は、発酵の研究を始めてから、白いカビを見ると匂いを確かめるようになりました。麴菌の一種ではないかと思って」。嗅覚(きゅうかく)は、人が口にしても大丈夫かを判断するための、センサーのひとつ。いやな香りがしないかどうかを、まず確認するわけだ。

 「大丈夫そうなら、人体実験というわけではありませんが、カビを除いて食べてみます。個人的経験からすると、白カビならだいたい大丈夫なんじゃないかと思っています」

 「おなかを壊しませんか?」との疑問の声に「たまに、おなかが緩くなることもあります」と、鈴木さんは笑って打ち明けた。「でも、そうやって経験を積んでいくことで、腐敗を区別できるようになる。皆さんも、発酵食品に取り組む時は、自分の感性を大事にしてください」

 一般に人はカビや菌に対して、良くない印象を持ち、排除しようと考えがちだ。様々な抗菌、殺菌グッズの存在は、その表れといえる。しかし、鈴木さんは、多様な菌との共存が大切だと考えている。

 それは、人の腸内環境を考えると、分かりやすい。私たちの腸の中には、膨大な種類と数の細菌が生きていて、大きく善玉菌と悪玉菌、そして日和見菌に分かれる。善玉菌と悪玉菌は互いに競い合い、両者のバランスが崩れると日和見菌は優勢な方につくように働く。悪玉菌が優勢に傾けば、おなかの調子が悪くなるが、だからと言って悪玉菌を排除することはできない。悪玉菌も、腸の免疫機能などを働かせる上で重要な役割を担っているからだ。

 「多様な菌と共存していればこそ、様々な変化に耐える力が生まれる。無菌室のような所で、純粋培養で育ったものは抵抗力が弱いですよね。それは、発酵の世界においても言えることなのです」と、鈴木さんは語る。

 ◇

 鈴木大輝(すずき・たいき) 1979年生まれ。料理人。東京・表参道にある「発酵居酒屋5」では、料理長として麴を使った様々なオリジナルメニューを提供している。麴の魅力を広めるため、麴に「大い」に「使われ」ていることから、自ら「発酵大使」を名乗っている。

この記事は、朝日カルチャーセンター新宿教室で2017年10月14日に開かれたReライフおすすめ講座「糀生活の魅力」の内容を採録したものです。

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