ReライフTOPイベント講座イベント・講座開催リポート

香道の起源 ―― 聖徳太子も知っていた「お香」の魅力 

Reライフおすすめ講座「はじめての香道」その1

更新日:2018年04月25日

 みなさんは「お香」の歴史をご存じですか。源氏物語や枕草子など平安文学には、香をたきしめる貴族たちが登場しますが、日本での歴史はさらに古くヤマト王権の時代までさかのぼれるそうです。香道直心流師範の栗原香扇さんの案内で、香の世界に分け入ってみましょう。


 香の起源をたどると、日本には諸仏の供香(ぐこう)として香木が伝わってきました。異説はありますが538年、朝鮮半島を経て日本に仏教が伝わったときが始まりとされます。百済の聖明王からの使いが倭国へ上陸し、仏像、経典、僧侶、いわゆる「仏法僧」が渡来しました。仏法僧の中にお香は入っていませんが、仏像に供えるもの、儀礼の具としてお香(香木)が使われたのです。

 大昔は、香草を乾燥させて大きな香炉の火にくべて、もうもうと煙を出しながら死者の供養をしたことがあります。現在もキリスト教の寺院では、煙を出して香りを出す習慣があります。柄がついた大きな球形の香炉に乳香(にゅうこう)樹という木の樹液が固まったものを入れ、それに直接火を付けて煙を出すと良い香りが出ます。


 「香」という文字が現れるのは、仏教伝来から約60年後のことです。595年、日本書紀に初めて出てまいります。現在の兵庫県淡路島にある漁村の海岸に1本の木が流れ着いたということが書かれています。旧暦の「夏4月」は、まだ寒い時期ですから、流木をかまどにくべて暖をとります。そのときくべた流木が香木だったわけです。

 その香りで普通の流木とは明らかに違うと気づいた漁師さんは、時の朝廷、推古天皇にその流木を献上しました。摂政だった聖徳太子がひと目見て、「『じんずいこう』である」と申したそうです。「じんずいこう」とは「沈水香」と書き、水に沈むお香を意味します。上質のお香ほど比重が重く水の下に沈むと言われています。これが、「香」の字が文献に現れた最初ということになっています。

 聖徳太子は仏教に帰依していた方でしたので、仏様のお供え物として香木が伝わってきたことをご存じでした。それで、沈水香であると言えたのです。香木である流木で仏像を彫り、その余材は大事に箱の中に納めました。そして仏様を供養するときは、箱の中から余材をたいて供養したということです。その仏像は後世、「救世観世音菩薩(ぼさつ)」と呼ばれるようになりました。箱の中に納めた余材の香木のことは、「法隆寺」または「手箱の太子」と書物には書かれています。

 奈良時代になりますと、「天下一の香木」とされる蘭奢侍(らんじゃたい)が登場します。聖武天皇と光明皇后のゆかり品を収蔵した東大寺正倉院に今も残っています。「蘭奢侍」は後世につけられた名で、正倉院の目録には「黄熟香」(おうじゅくこう)と書かれています。私が見たときも、ちょっと黄色みを帯びていました。蘭奢侍という文字には、その中に「東」「大」「寺」という名が隠されているのです。

 この時代になると、仏教も乱れがちになり、出家者にもう一度、正しい戒律を授けるための師を招請する必要が生まれてきました。そのために、奈良の都から普照と栄叡(ようえい)という若い僧侶が選ばれ、遣唐使船に乗って中国に渡るわけです。2人は立派な僧侶を求めて10年もかかって、揚州の大明寺(だいみんじ)で鑑真和上に出会います。しかし、中国の高僧が危険を冒して日本に渡ることは周囲から猛反対されたのです。

 しかし、鑑真は二つの理由から日本に渡る決心をします。一つは、律宗という宗派を広めるため。もう一つは、奈良時代に活躍した長屋王と聖徳太子に敬意を表してです。聖徳太子が非常に仏教を重んじていたことは中国まで伝わっていました。長屋王の方は非常に漢詩文にたけていたことで知られていたそうです。

 こうして日本を目指した鑑真ですが、渡航に5回も失敗して、途中で失明してしまいます。2回目に難破した船の積み荷の目録が後に発見され、薫物(たきもの)という香りをつくる材料が積まれていたことが分かりました。日本では源氏物語や枕草子に登場しますが、中国では一部配合を変えて薬にしていました。植物や一部動物性香料を使って、すりあわせて細かくして、丸く成形して使っていたのです。薬としての使い方を伝えたのも鑑真和上と考えられています。

 この話は、2018224日、朝日カルチャーセンター新宿教室で開かれたReライフおすすめ講座「はじめての香道」を採録したものです。初回の「お香の起源」に続き、2回目は平安時代に話題が移ります。

 栗原 香扇(くりはら・こうせん) 香道直心流師範。着物に香をたきしめる伏籠(ふせご)の教授。市民講座や博物館講座、大学香道部などの講師を歴任。現在、朝日カルチャーセンター新宿教室、立川教室などで講師を務める。

イベント・講座開催リポートの関連記事

バルバラ対談写真 女の人生を映す伝説のシャンソン、隠された意味は……

 戦後、フランスで国民的人気を誇ったシャンソン歌手バルバラ(1930ー97)の人生をテーマにした映画...

PAGE TOP