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裸婦を際立たせた「乳白色の下地」の秘密 

Reライフおすすめ講座「没後50年 藤田嗣治展を楽しむ」後編

更新日:2018年09月18日

 およそ150年前のフランスのパリで一世を風靡(ふうび)した日本人画家藤田嗣治。「没後50年 藤田嗣治展」(東京都美術館、~10月8日)の見どころを紹介するシリーズの後編は、藤田を著名にした「乳白色の下地」について東京都美術館の下倉久美学芸員が解説します。

 藤田は1921年のサロン・ドートンヌで、《自画像》《裸婦》《私の部屋、目覚まし時計のある静物》の三つの作品が入賞して、その実力が高く評価されました。

 なかでも《裸婦》は、「裸婦像のフジタ」としてその後、非常に人気を集めることになります。モノトーンの色調のなかに浮かび上がった白い肌は、まるで陶磁器のような透明感を醸し出しています。

 この魅力を生み出したのは「乳白色の下地」と呼ばれる藤田独自の下地でした。

 滑らかで光沢もある独特の下地に墨を用いて細い線で描く。この下地の美しさを効果的にみせるモチーフとして裸婦像が選ばれたのです。

 西洋で裸婦像は伝統的なモチーフでありました。第1次世界大戦後のパリにあって裸婦像は「再生」「成長」のシンボルとみなされていました。こうしたことも重なって非常に人気が出たのでしょう。

 当時、パリでは色彩を多用した手法や絵の具を塗り重ねた表現が主流でした。そのなかで、藤田は乳白色の下地を生かし、遠くから眺めるというよりは「近寄って見たい」「触ってみたい」と思わせるような質感が、興味と評価を高めていったのです。

 肌の質感をより強調させるため、最初は背景をモノトーンとすることが多くありましたが、その後、背景に布を描くことも試みるようになります。好んで描いたのは、パリで流行したジュイ布です。綿の布に手染め模様をあしらった「フランス更紗(さらさ)」と呼ばれた布のことです。

 《五人の裸婦》(1923)は、藤田が初めて裸婦の群像表現を試みた意欲作です。背景には花模様のジュイ布が描写されていて、裸婦の白い肌が際立つようになっています。

 今回の展覧会では、その左に《舞踏会の前》(1925)が展示されています。これも裸婦の群像で、中央に立っているのが3番目の妻ユキ(リュシー・バドゥー)。ユキの肌の白さが黒い瞳と足元に漆黒のマスクを置くことで強調されています。

 乳白色の下地の技法は長らく秘密のベールに包まれていました。しかし、2000年代に入り、藤田の作品を修復する機会に、画材の成分分析がおこなわれ、少しずつ解明されてきました。

 下地の最上層の鉛白地には、化粧品に使われるタルクが塗られていました。実際はベビーパウダーと思われます。このタルクが油性の下地の油っぽさをとり、光沢を与えたり、水性の墨をのりやすくさせていたりしたのです。

 《舞踏会の前》も東京芸術大学で修復作業が行われ、2015年にお披露目されました。《五人の裸婦》と一緒に展示されるのは約30年ぶりのことだそうです。

没後50年 藤田嗣治展(7月31日~10月8日 東京都美術館)
 この話は、2018年8月8日、朝日新聞新宿カルチャーセンター新宿教室で開かれた朝日新聞Reライフおすすめ講座「没後50年 藤田嗣治展をたのしむ」を再構成した採録です。


下倉 久美(しもくら・くみ) 東京都美術館学芸員。東京都美術館および東京都現代美術館、その他都立文化施設にて展覧会制作、アートプロジェクトの実施に携わる。現代美術を中心に、作品と鑑賞者の出会いの場の創出や空間づくりに取り組んでいる。

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