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私が感じた「藤田嗣治とレオナール・フジタ」 

Reライフおすすめ講座「没後50年 藤田嗣治展を楽しむ」読者リポーターの感想

更新日:2018年09月18日

没後50年 藤田嗣治展(7月31日~10月8日 東京都美術館)
 今回のReライフおすすめ講座「藤田嗣治展をたのしむ」にはReライフプロジェクトの読者リポーター2人が参加し、受講後に展覧会を鑑賞してもらいました。理解を深めた後、作品を生で見て何を感じ取ったのでしょう。感想文をご紹介します。

Reライフおすすめ講座の採録はこちら
(前編)8点の自画像から見えてきた 藤田嗣治のイメージ戦略
(後編)裸婦を際立たせた「乳白色の下地」の秘密


パリで出会った「自画像」と私 読者リポーター・黒瀬美咲子(53)

 パリのポンピドゥーセンターで《私の部屋、目覚まし時計のある静物》(1921)を見たのが藤田との出会いです。憧れのパリということと初めての海外暮らしで期待と不安が入り交じっていたときでした。

 《私の部屋》はまさにパリの暮らし。レオナール・フジタと明記されていたと思うので、実は日本人と意識して見ていなかったと思います。この絵の裏にどんな思いがあるかなんて想像もしなかった。

 パリに渡ってすぐに描かれた《自画像》(1921)を私は当時見ていませんでした。今この絵を見ると、自分の意志でこの地に降り立った藤田と、21世紀に入ってすぐ夫の仕事の都合で2年間、異国で暮らさなければなかった私とは気持ちはずいぶん違うはずですが、生まれてくる不安は一緒だったのかもと思わせる顔に見えました。

 《私の部屋》にはパリでの生活に慣れていく安堵(あんど)感、《自画像》には落ち着かない不安な気持ちがあると私は想像しました。

 今回の展覧会には自画像がたくさん展示されています。美術学校時代のきらきらした顔、パリで認められた後の顔、日本に戻ってからの顔、レオナールになってからの顔……みんな同一人物なのだけれど見ている方向が違っていて、心の在り方がとても反映されているのは面白かったです。

 自分ひとりの自画像が多かったのに、《家族の肖像》(1954)では、年老いた父親と若い時の妻、そして自分が描かれています。いろんな時間がごっちゃになっているのは何か変化があったのでしょうか。実際、その後タッチが変わったとされているし、1930年代以降の顔は他人のようなちょっと冷めた目で自分を見ているように私には思えてしまいます。

 日本に戻らないと決めてからの藤田の顔には、苦悩も期待も見えませんでした。小さく描かれた宗教画の中の藤田は向こうの世界しか見えていなかったのでしょうか。私は在仏当時、ランスまで行きましたが、ランスの礼拝堂に入ることができなかったので、藤田の心に触れることができません。それが残念でたまりません。

多彩な画風、数奇な運命 読者リポーター・八倉巻恭子(63)

 藤田の画風には定石がない。

 フランスでの名声を不動のものとした乳白色の下地による代表作《五人の裸婦》(1923)では、西洋画と日本画の融合を図った。世界大恐慌後に中南米を旅行した際に描いた《町芸人》(1932)では、大胆な構図と極彩色に挑んだ。さらに細い毛筆の線描と独特な構図で力強いリズム感を放つ《争闘(猫)》(1940)など、その作風の多彩さは、歴史上の大きな転換期に遭遇し数奇な運命に翻弄(ほんろう)され続けた人生と心の軌跡と切り離しては語れない。

 1920年代のパリで乳白色の肌を完成し、画家として名声を博した絶頂期。婦人像にはいつも猫がはべり、彼の得意がうかがえる。南米で旅絵師となって描いた水彩画は明るい色使いながら署名はどこにもない。まるで都落ちした姿を隠すかのようだ。

 太平洋戦争中、日本に戻り、軍命を受けて作戦記録画を圧倒的な筆力で描いた。しかしながら、《アッツ島玉砕》(1943)で累々たる兵士の屍(しかばね)を踏み越えて進む日本兵のリアルな描写や、《サイパン島同胞臣節を全うす》(1945)で自決しようとする人々の表情には、勇猛さを鼓舞するよりも、むしろ戦争の凄惨(せいさん)さを訴えるゲルニカに近いものを感じる。

 戦後、藤田は失意のうちに日本を去ることになる。戦争画家として軍部に協力したことを糾弾されたからだ。日本に2度と戻ることはなかった。

 フランスに帰化しキリスト教の洗礼を受け、レオナール・フジタと名乗った。最晩年、自らの墓も含めて設計した教会の壁を、キリストの生誕から復活までを描いた静謐(せいひつ)なフレスコ画で埋め尽くした。フランス北東部の街、ランスの平和の聖母礼拝堂に描かれた最後の作品が、彼が望んだ清貧と静寂に満たされていることをいつか確かめに行きたいと願う。

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