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ボーッとしていちゃ座れない 「青春18きっぷ」の真実とは 

Reライフおすすめ講座「全国全駅訪問者が教える鉄道旅のススメ 」 その1

更新日:2019年02月15日

 朝日新聞の紙面に登場した人物が朝日カルチャーセンターの講師になる「Reライフおすすめ講座」。今回は、全国の鉄道全駅を訪れているトラベルライターの横見浩彦さんです。初めて語る本音トークを全4回で紹介します。第1回は「青春18キップ ボーッとしていちゃ座れないよ!」です。

 「青春18きっぷ」とは、簡単に言えば、1日2370円で期間中、全国のJR普通列車・快速列車が乗り放題になる5枚組みの切符です。学生の休みにあわせて発売され、年齢制限はありません。

「1日で東京から山口まで行くことができる方法」といったガイドブックに載っているようなことは話しません。ここではこの春、「青春18きっぷ」デビューを考えているような初心者向けに、現実はどういうものかを話したいと思います。

 この切符がつくられた背景ですが、国鉄末期のころ、がらがらの鈍行列車をもう少しどうにかしたいという発想から始まったのだと思います。設備投資を特にすることもなく、「暇があるけど金はない」学生に鈍行列車を解放したわけです。車窓の風景を眺めながらゆっくりのんびりした旅を楽しんでもらおうという狙いだったのでしょう。いまでも当時のそうした状況を思い浮かべながら書かれた記事があまりにも多いと思います。そういう私も、時々頼まれて書きます。「いつも楽しみなんだよ」「胸が躍るんだよ」というような良いことばかり書きます。そうじゃないと執筆依頼が来ないですから。でも本当はこれから言うことが実態です。

 「青春18きっぷ」を使う初心者に多いのは、東京駅から東海道を下るルートでしょう。早朝に東京駅を出発して夜中に山口県内に着くのは大変だと思いますが、広島ぐらいまでなら挑戦してみようという初心者もいるでしょう。

 しかし、何も知らずに乗るとどうなるのか。

 東京から乗って小田原(神奈川県)を過ぎたころには、車内はがら空きになるでしょう。そのうち進行方向左側の窓には、バーンと大海原が広がり、それを見ながら缶ビールでも飲んで、「いやー鈍行の旅は最高」「こんなぜいたくな旅は出来ねーぞー」なんて悦に浸ることでしょう。特に初心者はそうです。ところが、熱海(静岡県)に着くなりこのムードは打ち砕かれるのです。

 東京から鈍行に揺られて約2時間もすると、熱海駅で乗り換えるわけです。さて「次はどんな景色が見られるかな」と期待を胸にホームに着くと反対側に止まっているのは超満員の列車。座れるどころか立錐(りっすい)の余地もないほど込んでいるのです。

 「えっ、なんだこれは」と何も知らない初心者は驚くことでしょう。しかも、超満員の列車の乗客は途中でなかなか降りない。ずっと立ちっぱなしで終点まで乗っていくことになります。

 どうしてこうなるのか。東京―熱海間の列車は15両編成。ところが熱海からの列車は3両編成だからです。通常は3両でまかなえるのですが、「青春18きっぷ」の季節になるとどかっと客が増える。その結果、こうなるのです。

 ではどうすればいいのか。方法は二つあります。一つは1本待って次の電車に乗ること。東海道線は本数が結構あります。


熱海駅では、ホーム反対側に止まっている列車めがけてダッシュ

 もう一つは、どうしてもこれに乗りたければ、停車して扉が開いたらホーム反対側に止まっている列車めがけてダッシュするしかありません。ただし次の3両編成の電車は着いたホームの前の方に停車しています。熱海に着く前、あらかじめ前方の車両に移動しておいて、扉があいた瞬間に猛ダッシュする。15両編成の後ろ車両のボックス席で足を伸ばしてのんびりしていたら出遅れてしまいます。

 こんな感じの旅は浜松駅(静岡県)まで続きますが、豊橋駅(愛知県)からは車両も良くなり楽になります。

 次の試練は大垣駅(岐阜県)での乗り換えです。6両編成の車両から4両編成になり、しかも本数が半減。またまた大変な混雑になります。それでも次に乗り換える米原駅(滋賀県)まで約40分ですから、「それくらい立っていても苦にならない」かもしれません。

 大変なのは米原です。ここは戦争です。ボーッとしていては取り残されてしまいます。ホームに着くと、同じホームの反対側に大変長い12両編成の列車が止まっています。後ろの4両は長浜駅(滋賀県)から来る列車で、米原でからの8両を増結します。長浜からの4両はすでに乗客はいっぱいで、立っていた人たちは増結した8両に移動しています。

 だから、ホームに降りたら、反対側に走る。そして前方の車両に向かい空いた席を探す。大垣で乗るときに先頭車両に乗っておいた方がいいでしょう。とにかく、米原では先頭にいくほど席はすいています。


米原駅下りホームでは、反対側に停車している前方の車両に向かい、空いた席を探す

 「鈍行列車の旅はのんびりでいい」なんてぼけっと座っていると地獄が待っています。最初に座れないと、ずっと最後まで座れないという悲劇もあります。これが、「青春18きっぷ」の実態でございます。

 この話は2019年1月19日、朝日カルチャーセンター新宿教室で開かれたReライフおすすめ講座「全国全駅訪問者が教える鉄道旅のススメ」の採録第1回です。次回は「青春18きっぷ まだある激戦区」です。

 横見 浩彦(よこみ・ひろひこ) 1961年生まれ。鉄道トラベルライター。高校1年生から本格的に鉄道での一人旅を始める。1987年、25歳で可部線の三段峡駅にて国鉄全線の完全乗車を達成。1995年、JR因美線の美作河井駅にてJR全線全駅乗下車を果たす。この体験をもとに『乗った降りたJR四六〇〇駅』(新人物往来社)を執筆しライターデビュー。私鉄の駅にも挑戦し、2005年2月、43歳のとき上信電鉄上州福島駅にて日本全国全駅乗下車を達成した。その後も新しい駅が出来るたびに乗下車記録の更新を続け、2009年には近江鉄道ひこね芹川駅にて通算1万駅乗下車を記録した。2001年から連載が続いている実録・鉄道旅マンガ『鉄子の旅』シリーズの〈旅の案内人〉としてもおなじみ。シリーズ第3弾『鉄子の旅 3代目』は、小学館よりコミックスが刊行されている。

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