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「子どもたち」である作品に囲まれて 晩年も旺盛な制作意欲 

Reライフおすすめ講座「ムンク 絵画の楽しみ方」 その8

更新日:2019年03月05日

 東京都歴史文化財団の水田有子さんが解説する「ムンク 絵画の楽しみ方」の最終回は、晩年のムンクを取り上げます。故郷ノルウェーに戻り、そこでも旺盛な創作活動を続けたのです。

 パリやベルリンを始め、ヨーロッパ各地を放浪する生活を続けながら国際的な評価を築いたムンクは、コペンハーゲンでの神経症による入院生活を終えた後、故郷であるノルウェーへと帰還しました。晩年はオスロフィヨルドと街を見下ろすことができるエーケリーに、ベランダを持つ家と、リンゴの木や畑のある広大な土地を購入しました。

 そこは、膨大な数の自身の重要な作品を収蔵する、私設図書館のようだったといいます。ムンクは、この土地に複数のアトリエを建設しました。残された写真でも、ムンクが「子どもたち」と呼んだ作品に囲まれて暮らす様子を見ることができます。足元にもたくさん絵画が置かれ、版画は折り重なるように置かれ、雪の積もる屋外にも作品が並べられています。〈生命のフリーズ〉をはじめ、肖像画や風景画なども交えながら、同じ作品がさまざまに組み合わせで壁にかけられていたことが見て取れます。

 まるで細胞が入れ替わりながら生命が持続されているかのように、ムンクは野外を含むアトリエにおいて、たくさんの作品を絶えず組み換え続けながら、制作を続けていたのです。

 ムンクは同じ主題に取り組む際、記憶に基づくというよりもむしろ、実際のモデルや自分の作品を前にして描くことを好みました。採録の第3回でお話しした初期の代表作《病める子》も、姉が亡くなった8年後に偶然見かけた赤毛の少女をモデルとして制作されました。

 自身のトラウマや体験、感情といったものに形を与えるためには、制作を促し、駆動させるような具体的な対象が必要でした。自身の作品もまたその一つだったといえるでしょう。ムンクはそうして、常に新たな創作に開かれた状態にある環境に身を置いていたのでした。

 ムンク作品によって構成される展覧会を見るということは、ムンクが生きている間、絶えず更新し続けたイメージのつらなりを私たちなりに体験することだと思います。今回、東京都美術館で開催されたムンク展でも、作品同士の共鳴や、果てしない変奏を見るたびに新たに発見できる機会になったのではないかと思います。

 この話は朝日カルチャーセンター新宿教室で2018年12月8日に開かれたReライフおすすめ講座の採録(全8回)の最終回です。

 水田有子(みずた・ゆうこ) 東京芸術大学大学院修士課程修了。東京芸大美学研究室教育研究助手を経て、2013年より2018年まで東京都美術館学芸員。専門は西洋近代美術。現在は東京都歴史文化財団事務局に勤務する。

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