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都民の水がめから超高層ビル街へ がらり変わった物語世界 

Reライフおすすめ講座「東京小説散歩 再発見する新宿」 その5

更新日:2019年04月26日

 朝日新聞東京版の名物コラムだった「東京物語散歩」の筆者・堀越正光さんが語るReライフおすすめ講座「東京小説物語 再発見する新宿」。その第5回は、家電量販店に昔の地名「ヨドバシ」が残る西口の超高層ビル街です。

 新宿駅西口の高層ビルが林立しているあたりには、むかし東京都の淀橋浄水場がありました。約34万平方メートルと東京ドームなら7個は余裕で入る広さで、その大部分が、沈澄池や濾澄池、浄水池でした。1898(明治31)年に完成して1965(昭和40)年に廃止されました。

 都民の水源だったわけですが、いまはほとんどの施設がみることはできません。唯一、名残をとどめるのが旧淀橋浄水場六角堂です。洋風四阿(あずまや)で、現在の新宿区立新宿中央公園の富士見台と呼ばれる築山の上にあります。

 東京都作成の看板によると1906(明治39)年から1927(昭和2)年の間に建てられたと考えられ、公園整備の際には、当時の地盤をそのまま残して浄水場時代の記念物として保存したとあります。六角堂の足元には浄水場のれんがを再利用した飛び石が作られています。

 この六角堂が三木笙子さんの『竜の雨降る探偵社』(2013年)の第二話「沈澄池のほとり」に出てきます。

 四号沈澄池を新設した際の残土で作られた築山には六角堂が建てられ、見学者は場内を一望しながら休憩することができた。(『竜の雨降る探偵社』より)

 物語は1955(昭和30)年前後が舞台で、二人の若者が中心人物。一人は新宿の裏通りで探偵社を営む。その探偵の若者が淀橋浄水場の場長から「沈澄池に若い女性が身を投げ、彼女を思う女性の友人がほぼ毎日現場を訪れるようになった。心配だから気にしてあげてほしい」という依頼を受けるのです。

 山内マリ子さんの『東京23話』(2015年)は、「区」自身や代表的な建物などが擬人化されて自らの区についての話題を語る、という手法のユニークなストーリーです。新宿区は京王プラザホテルが語り手となります。1971(昭和46)年、いち早く建った高層ビルの先輩として、自分自身を含め淀橋浄水場跡地にニョキニョキと建っていった後輩の高層ビルの印象を語ります。

 「一九七四年の三月、二番目に竣工(しゅんこう)を迎えたのは、近代的なシルバーに輝く三角柱が特徴的な、新宿住友ビルディングさんでした。」

 「『おや、随分と洒落(しゃれ)た方がお見えになりましたねえ』」(『東京23話』より)

 『この道、通りゃんせ』(2006年)の著者中村邦生さんは、大東文化大学の名誉教授でもあります。物語の主人公は実家が西新宿で養鶏場を営んでいた男性。40年前の学生時代に同じサークルで一緒だった仲間と、故郷である淀橋一帯を散策するという設定ですが、途中から幻想的な雰囲気を帯びてきます。主人公の過去の記憶を旅していることが分かってくるストーリーです。

 著者の中村さんと約10年ほど前にご一緒して、物語に登場する場所を歩いたことがあります。小説には新宿野村ビルディングの西側の「サンクチュアリ」という植え込みの描写があるのですが、そのときにはすでに消えていて中村さんも驚いていました。

 笹本祐一さんの『カーニバル・ナイト』(1985年)は、並外れた超能力を持つ少女が出てくるライトノベルです。これは平成の作品ではありませんが、今でも人気のある作品のようですし、あえてご紹介します。この中に主人公が新宿住友ビルディングの51階にある展望室を訪れる描写があります。いつでも行ける場所だろうと思っていたのですが、なんと2017年2月に閉じてしまいました。まさに失われた記憶としての記録です。

 これは朝日カルチャーセンター新宿教室で2019年2月17日にあった朝日新聞Reライフおすすめ講座「東京小説散歩 再発見する新宿」の採録第5回です。次回は最終回で「西新宿4丁目」が舞台です。

堀越 正光(ほりこし・まさみつ) 1960年生まれ。千葉県習志野市の東邦大学付属東邦中高等学校国語科教諭。小説の中に描かれた東京の場所をめぐる「東京物語散歩」を2006年9月から2018年8月まで朝日新聞東京版に連載した。「同じ作家の作品は一つしか扱わない」という条件を自ら課し、468の作品を紹介した。著書に『あの本の主人公と歩く東京物語散歩100』(ぺりかん社)、『東京「探見」』(宝島社)がある。

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