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モードチェンジの極意は、他人の視線に自分をさらすこと 

藤原和博の正解のない人生相談 (4)

更新日:2018年10月25日

 教育改革実践家の藤原和博さんが、迷える中高年に助言する連載。今回の相談者は、何を着ていいか悩む定年男性。藤原さんは、「会社モード」から抜け出せ、と説きました。

 勤めていた時はスーツを着ていればよかったので、気にならなかったのですが、最近は何を着ればいいのか分かりません。出かける時は、無難にジャケットを着ますが、妻から「いつも同じ格好ね。地味だし」と言われる始末。最近は、外出がおっくうになりました。同世代の男性として、何かアドバイスをいただけませんか。(埼玉県 男性 63歳)

 なんとなく分かります。私はこの10年で1300回の講演をしました。聴いてくださる人は会場により様々ですが、シニア男性主体の講演だと、演台から見た客席の色がどこか地味なんです。見たところ紺やグレーの上着の人が多いんですね。みなさん、無難な色を選んだ結果なのだろうと思います。

 なぜ、シニア男性は無難なチョイスになりがちなのか。それは、定年退職したのに「会社モード」から「個人モード」へのモードチェンジが出来ていないからかも。会社の看板や肩書ではなく、「素の自分」で勝負する気持ちになれていないから、自分を表現しようという気持ちが乏しいのでしょう。

 良い例を知っています。私が、都内の公立中の校長をしていた時、地域本部といって、学校運営に地域のみなさんに積極的に関わってもらったのですが、その中に衛藤さんという人がいました。元は伊藤忠にお勤めで、長く海外駐在も経験された人でした。最初は、土曜日の補習を手伝うおっさんの一人だったのですが、生徒のお母さんの評判もよく、学生時代にテニスの経験があったので、テニス部にもサブコーチとして関わってもらったのですね。そうして、彼が学校に来る頻度が増えるうち、目に見えて変化が現れたのです。

 何が変わったのかというと、ファッションです。土曜日ならスーツ姿で行くのも変だと思ったそうで、最初からカジュアル目な感じではあったのですが、服装の色使いがグッと若返った。同じ青でも紺ではなく、鮮やかなブルーを選ぶというような感じにね。

 一番の変化が靴でした。元ビジネスマンなら、つい昔の習いで黒や茶の革靴を選びがちですが、彼は白のスニーカーを履き出した。なぜスニーカーなのか。それは、生徒に見られるからなのだそうです。今どきの中学生は「あれはナイキのエアフォースワンだ」とかって、スニーカーに命かけてますから。よく「営業マンは靴を磨け」なんて言いますが、中学生も足元を見るんですね。

 白いスニーカーは、いつも真っ白じゃなきゃいけない。だから彼は、スペアを何足か買い、きちんと手入れもしていた。彼が言うには、かなり大変だったそうですよ。そして、白いスニーカーを履くと、合わせるパンツの組み合わせなども考えるようになる。多分、彼はアパレルショップの店員らに、ひそかに助言を仰いでいたんじゃないかな。

 彼は、別に女子中学生に意見されたわけでも、奥さんのコーディネートに従ったわけでもない。ただ「中学生の目が気になった」のだそうです。中学生になめられたくない、そんな力学が働いたのですね。

 日本人は、とても「他律的」な所がある。環境やコミュニティーに自分を合わせることに、非情に敏感なんです。だから、どういう場所に出没して、どう自分をさらしているのかが大事なのです。家に閉じこもっている人は考えないけれど、若い女性も参加するコミュニティーに加われば、いつも同じ格好ではいけないと思うようになる。モテたいと考えるかどうかは別として、少なくともダサイと思われるのはイヤでしょう。

 だから、家に閉じこもっていないで、外に出ていろんな人の視線に自分をさらすことです。そうすればあなたの装いは、おのずと変わってくると思いますよ。

 人生100年時代。60代からの第二の人生は、悠々自適の毎日が待っているのかと思いきや、悩み深い日々を送っている人が少なくありません。あなたが今60歳なら、日本人の平均寿命に照らして、3050代に過ごした時間に匹敵する余生が残されていることになります。その長さを持て余しているのだとすれば、もったいないこと。第二の人生を悔いなく過ごすために、今できることは? 教育改革実践家として「正解のない問題」に挑み続けた藤原和博さんが、同時代を生きる皆さんの悩みに答えます。

藤原 和博(ふじはら・かずひろ) 

教育改革実践家。1955年、東京都生まれ。リクルート社フェロー、東京都杉並区立和田中校長、大阪府知事特別顧問、奈良市立一条高校長などを歴任。正解のない問題に取り組む「よのなか科」というアクティブラーニング法を開発し、広めている。著書に「人生の教科書 よのなかのルール」(共著・ちくま文庫)、「坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと」(ポプラ社)、「戦略的『モードチェンジ』のすすめ 45歳の教科書」(PHP)など。

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