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「懐かしい人」を目指せ 笑って語れる挫折のススメ 

藤原和博の正解のない人生相談 (5)

更新日:2018年11月08日

 教育改革実践家の藤原和博さんが、迷える中高年に助言する連載。今回の相談者は、コミュニケーションに自信を失った男性。藤原さんは、同窓会で話題の中心にいる人に注目せよと助言します。

 60歳を過ぎたころから、同窓会などの誘いが増え、努めて参加しています。ですが、かつてのクラスメートたちとの会話が、いまひとつかみ合わず、盛り上がりません。現役時代の私は、上場企業で役員にこそなれませんでしたが営業本部長まで勤め上げ、コミュニケーション能力は高いと自負していました。それが、今ではすっかり自信喪失な感じです。どうしたら自信を取り戻せるでしょうか。(大阪府 男性 62歳)

 同窓会に行くと、妙に懐かしがられる人がいませんか? 久しぶりに顔を合わせるかつてのクラスメートはみな、懐かしいといえば懐かしいのだけれど、その中でも、何かにつけて会いたくなったり、連絡してみたくなったりする人です。そんな人を、ひそかに私は「懐かしい人」と呼んでいます。そんな「懐かしい人」を目指すことこそが、60代以上を生きる目標になると思うのです。

 同窓会では、不思議と「懐かしい人」の周りに人が集まります。なぜかと言えば、彼らは人を引きつける話題を豊富に持っているから。その話題というのはいずれも、彼の人生の豊かさに根ざしたものなのですね。

 これまでの人生を振り返った時、ずっと順調だったという人もいるかもしれませんが、みなさんそれなりに浮き沈みがあったことでしょう。人間は、つい好調だったころの記憶にばかり注目して、それで自分が成長したかのように思いがち。でも、よくよく考えてみれば、失恋や病気、失敗や挫折などを乗り越えた経験こそが、あなたの人生の肥やしになっているのです。

 今回いただいた質問を見ると、質問者は現役時代にそれなりに出世もして、順風満帆の会社人生を送られた様子。ひょっとすると、何の気なしに語った昔話が、同窓生に自慢話のように受け取られた可能性はなかったでしょうか。自慢オヤジの周りからは、友だちは去って行きがちですから。

 あなたがいくら過去の栄光を語ったとしても、それがよほどの成功でなければ、聞く側は「ふーん」の一言で終わってしまいます。逆に、あなたが人生のマイナス期をいかにプラスへと反転させたのかを語れば、聞き手は耳を傾けてくれるはずです。「懐かしい人」は、自身の過去の挫折や失敗をネタにして、おもしろおかしく笑い飛ばせる人なのです。あなたにもそれができれば、今後の人生の有力な武器になるはずです。

 かくいう私にも、挫折の経験がたくさんあります。中学の時に万引きして補導されたこと。大学で典型的な五月病になって3カ月も引きこもったこと。リクルートにいた30歳の時に働き過ぎからメニエール病を患い、出世レースから自ら身を引くことになったこと……。どうです? こう並べると、どれも一部始終を聞いてみたくなるネタでしょ? それらのいきさつについては、私の過去の著書でもたびたび触れていますから、興味があれば読んでみてください。

 中にはトラウマになった失敗もあるかもしれませんね。でも、乗り越えられていない挫折まで告白する必要はありませんよ。聞き手は、失敗そのものより、あなたがそれを克服したプロセスにこそ興味があるのですから。

 逆に、幸か不幸かこれまでなんの挫折も味わっていないという人もいるかもしれません。困ったことにそんな人には、今後30年間の「食い扶持(ぶち)」ならぬ「話し扶持」がないことになります。それが原因でコミュニケーション障害に陥っているのだとしたら、この60代のうちにぜひ、今まで全くやったことのない分野に積極的に切り込んで、挫折や失敗を味わっておくべきです。それを実行するには相当の胆力が求められるかもしれませんが、絶対に良い70代を過ごせるようになると思いますよ。

 人生100年時代。60代からの第二の人生は、悠々自適の毎日が待っているのかと思いきや、悩み深い日々を送っている人が少なくありません。あなたが今60歳なら、日本人の平均寿命に照らして、3050代に過ごした時間に匹敵する余生が残されていることになります。その長さを持て余しているのだとすれば、もったいないこと。第二の人生を悔いなく過ごすために、今できることは? 教育改革実践家として「正解のない問題」に挑み続けた藤原和博さんが、同時代を生きる皆さんの悩みに答えます。

藤原 和博(ふじはら・かずひろ) 

教育改革実践家。1955年、東京都生まれ。リクルート社フェロー、東京都杉並区立和田中校長、大阪府知事特別顧問、奈良市立一条高校長などを歴任。正解のない問題に取り組む「よのなか科」というアクティブラーニング法を開発し、広めている。著書に「人生の教科書 よのなかのルール」(共著・ちくま文庫)、「坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと」(ポプラ社)、「戦略的『モードチェンジ』のすすめ 45歳の教科書」(PHP)など。

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