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バランス人生は捨てなさい 自分史飾る「バカ」になれ 

藤原和博の正解のない人生相談 (6)

更新日:2018年11月22日

 教育改革実践家の藤原和博さんが、迷える中高年に助言する連載。今回の相談者は、好奇心を忘れかけた男性です。藤原さんは、狂える60代を生きよと言います。果たしてその真意は?

 テニス、スキー、バイク、バンド、旅行と、若い頃は一通りのことをやり、楽しい青春時代だったと思うのですが、今はこれといってやりたいこともなく、無為に時間を過ごしている感じです。藤原さんは「老化とは、年齢と関係なく、好奇心を失うことだ」と言っていましたね。私はあなたと同じ1955(昭和30)年の生まれですが、私の方が先に老いた、ということなのでしょうか。(京都府 男性 63歳)

 現在60~65歳の、私と同じ「アラウンド昭和30年生まれ」の皆さんの生きた時代のことを、改めて考えてみましょう。

 私たちより上、主として今の70代の皆さんは全共闘世代。怒れる若者たちとして政治や社会と戦っていた。それとは対象的に、私たちの世代は基本的にノンポリでしたね。その反面、1976年に創刊され、アメリカ西海岸のカルチャーやファッションを発信した雑誌「POPEYE」などの影響を色濃く受けて、ロックやクルマ、ヨットなんかに象徴されるアメリカ文化に強烈に憧れた。

 僕らは、ぶわっと時代が拡大して行くのに乗って生きて来たところがある。何か特別のことをしなくたって、いろんなモノやコトを経験できた。でも、それらに手を出したのは、たまたま流行(はや)っていたからで、心から望んでやったわけではないんだよね。色々幅広く「消費」はしてきたのだけれど、体験の多くはどれもどこか浅くて、「自分のモノ」にはなっていない感じがする。

 だから、「根っからそれが好き」とか、「他は全く興味がないのだけれど、それだけはやりたい」ってことがない。そういう人は、良く言えば豊かだった時代をバランス良く生きて来たとも言える。でも、どこかバランスが取れ過ぎちゃってて、いつか「特有の悩み」を抱え込むようになるんです。

 「65歳からの30年をどう生きるか?」と、改めて問われたとき「さて、どうするかな……」と思ってしまう、そんな悩みをね。

 「最後の30年もバランスなのかよ? それって、何か違うんじゃないか……」。知らず知らずそうした、根源的な疑問が頭をもたげてくる。そんな覚えはありませんか?

 バランス人生に疑問を感じているのなら、崩すしかない。それは、ある意味「狂う」こと。第二の人生をアクティブに生きるには、ある種の「狂気」が必要なんですよ。

 これまでの人生を振り返ってみると、誰でも失敗したり、恥をかいたりした経験がありますよね。20代に大きな失敗をして、それが30~40代を生きる自分の肥やしになる。それで今度は45歳ぐらいで大恥かいて目が覚め、その経験が60代に生きる。昔ならそれで人生一丁上がりだった。僕らの親の世代まではね。でも人生100年時代には、60代でもう1回バカをやらないと、70~80代でガス欠になっちゃうんだよ。

 だから、自分の人生を本にまとめるために、60代の章を飾るようなバカをやってみることです。やれば、そのネタは70~80代に絶対に生きる。仮にその挑戦が失敗だったとしても、大笑いのネタになればいいじゃないですか。その失敗談を聞きたさに、老後のあなたの周りには、たくさんの人が集まって来るはずだよ。さすがに生死にかかわるネタはだめだけど、そういうことじゃないかな。

 「狂う」対象は、損得で考えないことだね。「何の役にも立たないでしょ」「それじゃあ食えないでしょ」なんて言われたっていい。むしろそんな分野にこそ、あえて切り込んでみる。誰も目指さないような所に一点張りして、オタクのように取り組むのがいい。

 僕のテニス仲間で、元はメーカーの技術者だったんだけど、ずっと流氷に興味を持ち続けていたオタクがいます。彼は定年後に北大の大学院に行き、念願の流氷の研究で博士号まで取った。それで今度は、フィンランドに渡って流氷研究を続けるのだそうです。狂ってますよね。でも、そんな狂える対象があるって、素晴らしいことなんですよ。

 僕にとっての流氷は「よのなか科」の授業。この10年で1300回やった授業や講演は、自分的には音楽家がやるライブのようなものなの。ある高校に呼ばれて講演をして、そこの高校生たちと交流している時が、自分が一番イキイキしていると感じられる時なんです。この10年かけるコンテンツはほぼ変わっていないのだけれど、同じネタを語っても会場によって跳ね返ってくるものが全然違う。それが楽しい。ただ単に一方通行で教えるだけなら飽きがくると思うけれど、僕にとって「よのなか科」の授業は、一種の知的エンターテインメントなんです。これからも、ずっと発見があると信じられるような。だから、一生やめられないと思うのだけれど、ある意味狂ってますよね、僕も。

 人生100年時代。60代からの第二の人生は、悠々自適の毎日が待っているのかと思いきや、悩み深い日々を送っている人が少なくありません。あなたが今60歳なら、日本人の平均寿命に照らして、3050代に過ごした時間に匹敵する余生が残されていることになります。その長さを持て余しているのだとすれば、もったいないこと。第二の人生を悔いなく過ごすために、今できることは? 教育改革実践家として「正解のない問題」に挑み続けた藤原和博さんが、同時代を生きる皆さんの悩みに答えます。

藤原 和博(ふじはら・かずひろ) 

教育改革実践家。1955年、東京都生まれ。リクルート社フェロー、東京都杉並区立和田中校長、大阪府知事特別顧問、奈良市立一条高校長などを歴任。正解のない問題に取り組む「よのなか科」というアクティブラーニング法を開発し、広めている。著書に「人生の教科書 よのなかのルール」(共著・ちくま文庫)、「坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと」(ポプラ社)、「戦略的『モードチェンジ』のすすめ 45歳の教科書」(PHP)など。

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