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自分を再定義せよ 第二の人生で子供たちに一目置かれるには 

藤原和博の正解のない人生相談 (7)

更新日:2018年12月06日

 教育改革実践家の藤原和博さんが、迷える中高年に助言する連載。今回の相談者は、50代で小学校の先生を目指す男性。藤原さんはエールを送りつつ、自分を、そして学校を知るためにある取り組みを勧めました。引退後の地域デビューを目指す人にも参考になる助言です。

 50歳にして小学校の教員免許を取得しました。外資に働くITエンジニアから、人生二毛作を目標にチャレンジしました。しかし、教育現場は未経験。若い時に比べ体力、気力も自信がなく、あるのは社会経験と、諦めなければ夢はかなうという思いのみです。英語やプログラミング教育を推進し、教育環境でIoT(物がインターネットにつながる仕組み)を活用していきたいと考えていますが、守旧的な先生や、保護者の皆さんとどう関わったら良いのか、アドバイスをお願いします。(神奈川県 50歳 男性)

 50歳で教員免許を取り、教育現場への転身を目指すなんてすばらしい。なかなかできないことです。無謀だと止めた人もいたでしょうが、無謀な挑戦をした時こそ、応援者が現れるものです。そしてその経験は、定年後の人生の肥やしにもなるはず。ぜひ、そのチャレンジを成功させてください。

 しかしながら、50代でいきなり学校現場に舞い降りるというのは、ご想像通り、相当にしんどいことになるでしょう。

 忘れもしない2003年、東京の杉並区立和田中の校長になり、初めて臨んだ入学式の壇上で、私は震えました。当時の映像を見れば分かるほどです。千人規模の講演や、テレビ番組での司会者の突っ込みにも動じない私ですが、初めて169人の中学生の視線にさらされた時は、恐怖すら感じました。

 子供たちの純粋な目には、かつて所属した企業の看板も、そこで培った自慢のキャリアも、「何それ?」です。先生だから、校長だからと無条件に子供たちはリスペクトしてくれない。ここでは、自分自身が問われている。改めてそう体感したのです。

 あなたも教育現場に立てば感じるでしょう。子供たちは、リスペクトできる相手かどうか、早い時期に見極めてきます。あなたがどんなエンジニアだったのかは分かりませんが、まずは自分を再定義しなければ。自分の強みは何か。それを、どう出していくべきか。自分の持っている何で、子供の心をつかめばよいのか。教室では、彼らの気持ちをつかむ技芸こそが求められます。

 お掃除ロボットの制御プログラムを手がけたとか、子供たちが容易に想像できる仕事をしていたなら、比較的説明は容易かもしれません。でも、そうとは限りませんよね。

 まずは、学校に慣れること。住まいがどこなのかにもよりますが、地域の人々が学校運営に関わる地域学校協働本部(和田中で生まれた学校支援地域本部が名称を変え、国の後押しで全国約1万カ所に広がっています)があったり、コミュニティースクールを標榜(ひょうぼう)していたりする学校を探し、土曜日学校のお手伝いなどから入ってはどうでしょうか?

 学校長と教員の関係は? 教育委員会と学校の関係は? PTAは学校に何を求め、校長はそれをどの程度尊重しているか? 今時の児童生徒は荒れているか、落ち着いているか……。学校の現状が、間近で見られると思います。その中で、ITエンジニアとしての経験が生きる場面もあるでしょう。

 下手をすると学校のコンピュータールームには、いまだに「コンピューターに触るときには手を洗いましょう!」なんて貼り紙があったりして(実際に目撃しました!)、前時代の幻を見る思いをするかもしれません。でも、そんな化石のような学校でこそ、あなたの技が歓迎される可能性もある。

 そうした経験を積めば、自信を持って「本番」に備えられます。ボランティアとしての実績は、自治体に教員として採用される際に、面接のプラス材料にもなるはずです。

 企業と学校で違うであろう職場環境の落差を懸念されてもいるようですが、両方を経験した私には、それほど違うとは思えません。伝え聞いた教育現場の守旧性を批判し、自分が変えてやると息巻いたとしても受け入れられないでしょう。まずはフラットな心で、相手を理解するところから始めなければ。

 今回の相談、教員免許を持たない自分は関係ないと思った人がいるかも。でも、あながちそうでもありませんよ。先ほど触れた地域学校協働本部、地域や学校によって活動の内容こそ違いますが、どこも学校外からのパワーを求めています。

 もし、あなたが第二の人生の生きがいを求めているなら、ボランティアとして参加してみてはどうでしょう。名刺の通用しない世界でモードチェンジを果たし、地域デビューにつながるかもしれない。その場合、男性なら奥さんと一緒に参加するが吉です。時節柄、未知の男性がいきなり来ると不審者だと警戒される場合もありますが、夫婦ペアならその恐れもありません。夫婦一緒に取り組めるテーマを持つことも大事ですしね。

 人生100年時代。60代からの第二の人生は、悠々自適の毎日が待っているのかと思いきや、悩み深い日々を送っている人が少なくありません。あなたが今60歳なら、日本人の平均寿命に照らして、3050代に過ごした時間に匹敵する余生が残されていることになります。その長さを持て余しているのだとすれば、もったいないこと。第二の人生を悔いなく過ごすために、今できることは? 教育改革実践家として「正解のない問題」に挑み続けた藤原和博さんが、同時代を生きる皆さんの悩みに答えます。

藤原 和博(ふじはら・かずひろ) 

教育改革実践家。1955年、東京都生まれ。リクルート社フェロー、東京都杉並区立和田中校長、大阪府知事特別顧問、奈良市立一条高校長などを歴任。正解のない問題に取り組む「よのなか科」というアクティブラーニング法を開発し、広めている。著書に「人生の教科書 よのなかのルール」(共著・ちくま文庫)、「坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと」(ポプラ社)、「戦略的『モードチェンジ』のすすめ 45歳の教科書」(PHP)など。

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