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「妻より先に死ぬ」信じていたのに 老夫婦の理想と現実 

“ひとり死”時代の葬送と備え (2)

更新日:2019年02月05日

 8年前に妻に先立たれた知り合いの男性(79)は、自宅で妻を介護していたとき、毎日の食事が一番大変だったという。専業主婦の妻に家事の一切をまかせきりで、料理をしたことがないため、スーパーやデパ地下で毎日おかずを買っていたそうだ。妻を亡くした今も昼と夜は外食で、朝ごはんは買い置きの食パンにチーズとハムをのせるだけだという。洋服も下着も自分で買ったことがなく、妻が生前に買い置きしていたものを使い回しているそうだ。

 多くの男性が「妻より先に死ぬ」と思い込み、「死後のことは妻が何とかしてくれるに違いない」と丸投げ状態だ。しかし、これからは妻の介護が先に必要になる、もしくはいざというときに妻に頼れないケースが増えてくるに違いない。

 厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、妻が主な介護者である割合は2割に満たない。介護が必要な時には妻も高齢になっているためだ。私が2014年に60代、70代の夫婦を対象に行った調査では、男女で意識に大きな差があった。病気などで一時的に寝込んだ場合、配偶者はどの程度頼りになるかと尋ねたところ、「頼りになる」と回答した男性は71.5%もいたが、女性は26.4%に過ぎなかったのだ。

「チャーミーグリーンみたいな夫婦」が理想

 バブル景気のころ、老夫婦が手をつないで仲良くダンスやスキップをするシーンが印象的な台所用洗剤のコマーシャルがあった。そのほほ笑ましい姿が大きな話題となり、「将来、チャーミーグリーンみたいな夫婦になろう」というプロポーズの言葉が流行したほどだ。ちょうど、子どもや孫とは関係なく、老後は夫婦ふたりで暮らす高齢者が増え始めたころ。これまでの高齢者像とは異なり、夫婦ふたりで支えあって、人生をエンジョイしている姿は当時、これからの時代の理想だった。

 実際、子どもがいても老後は夫婦のみで暮らす人が増えた。先の国民生活基礎調査によれば、65歳以上がいる世帯のうち、三世代世帯が占める割合は、1980年には50.1%だったが、2017年には11.0%にまで減少した。変わって夫婦のみ世帯が32.5%と、最も多くなっている。ひとり暮らしも合わせると、高齢者の6割が、すでに独居か、将来的な独居予備群だ。

 「最後はひとり」は、誰もが直面する可能性がある。にもかかわらず、高齢夫婦が対等に支えあっているかといえば、そうとは言い切れない。

増える「死後離婚」 夫婦別墓も

 夫婦のあり方は、生きているときだけでなく、死んだ後も変化が表れている。

 ここ数年、いわゆる「死後離婚」を選ぶ女性が増えている。

 死後離婚は、夫の親族との関係を解消すると意思表示する「姻族関係終了届」という手続きのこと。日本では、婚姻届を役所に提出すると、配偶者との婚姻関係だけでなく、配偶者の両親や兄弟姉妹などの姻族との関係も結ばれる。離婚の場合は姻族関係が消滅するが、死別の場合は、婚姻関係は終了するものの、姻族関係は継続する。夫が長男だった場合、妻は夫が亡くなった後も夫の両親の介護を一手に引き受け、夫の先祖の墓を守ることが当たり前とされてきたのは、このためだ。

 「夫と結婚したのであって、夫の親族と結婚したわけではない」と、夫の死後に夫の両親の扶養義務を解消したいという思いが、死後離婚を選ぶ理由なのだろうか。昨今、夫婦別墓も珍しくない。夫婦ふたりでの晩年が当たり前になると、女性が夫の家のお墓に入るのは嫌だと思い始め、お墓の“核家族化”が進む。皮肉なことだが、お墓はこの世の人間関係を映す鏡なのだ。

  ひとりで人生の最期を迎える人が増えるなか、弔いのあり方も変化してきています。お葬式やお墓の現状に詳しい、シニア生活文化研究所長の小谷みどりさんが、いまの葬送の現場と社会のあり方、備え方などについて連載します。

小谷 みどり(こたに・みどり) 

シニア生活文化研究所所長。2018年末まで第一生命経済研究所に25年余り勤務。大阪府出身。博士(人間科学)。専門は生活設計論、死生学、葬送問題。国内外のお墓や葬儀の現場を歩き、その実態や死生感の変化などを著書などで伝えている。最近の著書は『<ひとり死>時代のお葬式とお墓』(岩波新書)、『ひとり終活』(小学館新書)、『没イチ』(新潮社)など。奈良女子大学、立教セカンドステージ大学で講師をするほか、身延山大学、武蔵野大学の客員教授も務める。

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