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変わる「おくりびと」 変わらぬ故人の尊厳 

小谷みどりが斬る!「ひとり死」時代の葬送と備え (5)

更新日:2019年03月19日

 映画「おくりびと」がアカデミー賞を受賞するなど話題になったのは、もう10年前のことだ。この映画で、「納棺師」という職業を初めて知った人も多いだろう。多くの葬儀社では自社のスタッフが納棺までおこなうので、納棺だけを担当する専門スタッフがいるわけではない。事故で亡くなった、死後何日も経過しているなど、遺体の修復が必要で葬儀社のスタッフではできない場合には、専門の納棺師に依頼することがある。

立教セカンドステージ大学で行われた納棺師のデモンストレーションの様子(小谷みどり撮影)

「納棺」かつては家族が担う 教科書に手順も記載

 自宅で亡くなるのが当たり前だった時代には、納棺は遺族の役割だった。100年以上前の大正時代の教科書には、家族が亡くなったときの手順が記載されている。例えば「応用家事教科書」では、呼吸が切れたら医師の検診を受け、仰臥(ぎょうがい)させ、目と口を閉じ、消毒薬で全身を拭い、衣服を着替えさせ、白布でおおって容体が醜くないようにする――などといった具合だ。

 かつては、水に湯を入れて温度を調整する「逆さ水」で、遺族みんなで遺体を拭いた。30年ほど前、筆者の曽祖母が亡くなった時には、自宅に安置した遺体を親族みんなできれいにして、曽祖母が生前に自分で縫っていた死に装束を着せたことを覚えている。

 ところが昨今では、遺族が作った逆さ水で、葬儀社のスタッフが遺体や髪を洗い、ひげをそって死に装束を着せ、化粧を施すという流れが一般的だ。湯かんから納棺までを葬儀社にお願いすると10万円ほどかかるが、依頼する遺族は多い。

 実際、「気持ち悪い」と、肉親の遺体であっても触れたがらない人は少なくない。核家族化が進み、介護や看護も外部化されるようになると、親の遺体といえども、他人の遺体に感じるような感覚を持つのも不思議ではない。お金がかかっても業者にやってもらいたいというのが、遺族の本音なのだろう。

 病院で亡くなれば、看護師が死後の処置をすることが多い。これを「エンゼルケア」と呼ぶらしい。人工呼吸器や点滴などの医療器具を外すのはもちろんだが、体内にたまった排泄(はいせつ)物を出したり、アルコールで身体全体を拭き、口の中をきれいにして入れ歯を装着し、口を閉じたりするのが、エンゼルケアの重要な目的だ。

亡くなった人は口が開いていても仕方がない?

 とはいえ、遺体処置は看護師の本来の業務ではないので、技量に差があるのも事実だ。

 数年前、筆者の夫の祖母が亡くなったと知らせを受け、お通夜の前に駆け付けた筆者は、ひつぎの中を見て驚いた。若いころ教員をしており理知的だった彼女の顔は、口がぽかんと開き、歯がない口の中は丸見え。生前使用していた入れ歯はガーゼに包んで、ひつぎに入れてあった。あまりにも気の毒だったので、葬儀社のスタッフにどうにかならないか尋ねると、「硬直しているのでどうしようもない」。畳んだタオルをあごに置いて下あごを固定しようとしたが、結局、口は開いたままだった。

 亡くなったのだから口が開いていても仕方がないと思う人がいるかもしれないが、故人の尊厳に関わる大きな問題ではないかと思う。亡くなった病院で、看護師が処置できなかったうえ、葬儀社のスタッフも口を閉じる方法を知らなかったことが原因だ。
 専門的な知識を持っている納棺師は、死後硬直した遺体の筋肉をほぐし、死に装束に着替えさせることもできるし、開いた口や目を閉じることもできるという。

 故人の最後の姿は、残された人の脳裏にいつまでも残る。遺族の悲しみをやわらげ、故人の尊厳を保つためにも、遺体の見た目問題は重要だ。

  ひとりで人生の最期を迎える人が増えるなか、弔いのあり方も変化してきています。お葬式やお墓の現状に詳しい、シニア生活文化研究所長の小谷みどりさんが、いまの葬送の現場と社会のあり方、備え方などについて連載します。

小谷 みどり(こたに・みどり) 

シニア生活文化研究所所長。2018年末まで第一生命経済研究所に25年余り勤務。大阪府出身。博士(人間科学)。専門は生活設計論、死生学、葬送問題。国内外のお墓や葬儀の現場を歩き、その実態や死生感の変化などを著書などで伝えている。最近の著書は『<ひとり死>時代のお葬式とお墓』(岩波新書)、『ひとり終活』(小学館新書)、『没イチ』(新潮社)など。奈良女子大学、立教セカンドステージ大学で講師をするほか、身延山大学、武蔵野大学の客員教授も務める。

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