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死後ではもったいない? ひつぎは早めの準備と体験が「吉」 

小谷みどりが斬る!「ひとり死」時代の葬送と備え (6)

更新日:2019年04月02日

「ひつぎを使い回し」その訳は

 ここ数年、家族数人だけのお葬式が増え、火葬だけですませるケースが増えてきた。しかし、どんな場合でもひつぎは必需品。ひつぎに安置されていなければ、遺体は火葬してもらえないからだ。

 10年ほど前に仕事で訪れたフィリピン・マニラの小児がん病院で、びっくりする話を聞いた。国民的スターがお葬式で使用したひつぎを、遺族が病院に寄付してくれたというのだ。この病院はひつぎをオークションに出し、施設の運営費にあてるという。アルミ製やステンレス製などの高級なひつぎは土葬用に作られているため、火葬の場合は事前に遺体が出され、遺族に返却される。通常は業者が買い取ってくれるが、有名人のひつぎは高値がつくので、病院や孤児院などに寄付されることがままあるそうだ。「ひつぎを使いまわす」という発想は日本人にはないだろう。

台湾・台北市の葬儀社のひつぎショールーム(小谷みどり撮影)

折りたたみ式から100万円超まで

 中国では、生きている間にひつぎを準備する人もいる。先日、マレーシアの華人系のひつぎ製造店で、立派なひつぎを見せてもらった。すでに数十万円で売却済みだが、所有者が60歳の時に購入したもので、出番が来るまで店で預かっているという。

 実は日本でも、誰でも生前にひつぎを気軽に買うことができる。ネット通販大手のamazon ではさまざまな種類のひつぎが2万円以下から販売されている。組み立て式で、必要なときまで押し入れの隅にしまっておけるため、置き場所の心配は不要だ。人生最後の寝心地にこだわる人もいる。「畳の上で死にたい」という人向けには、ひつぎの底に敷く天然い草のマットレスもある。

 華道家の假屋崎(かりやざき)省吾さんがプロデュースするひつぎは、ユリやボタンなどが全面に描かれた豪華な商品だ。数十万円と高価だが、細かい彫り物を施したヒノキ製になると100万円を超える。「どうせ燃やしてしまうのにもったいない」と思う人もいれば、「最後だからこそ、高価なひつぎで送りたい」と考える人もいる。人生の最後に入るひつぎにも、人それぞれの価値観が色濃く反映されているのだ。

死生観や人生観、変わるかも?

 台湾や中国では、若者の死生観を醸成するため、学校教育に入棺体験を取り入れるところもある。「ひつぎに入るぐらいで死生観や人生観が変わるのか?」と思われるかもしれないが、一時間の入棺体験後、泣きながらひつぎを出る学生も少なくないという。ひつぎのなかで、それまでの人生が走馬灯のように思い起こされ、家族や友人へ感謝の気持ちが芽生えるそうだ。途中で怖くなった場合には、内部に設置されたブザーを押せば、先生が救出してくれる仕組みになっている。

 日本でも、葬儀社が開催する終活フェアでは入棺体験が人気だ。一昔前なら、「縁起でもない」と敬遠されただろうが、「一度入ってみたい!」という人は、筆者の周りにも多い。

 実際にひつぎに入ってふたが閉まると、外の声がよく聞こえることが分かる。ふたが開いて出てくると「すがすがしい気持ちになった」という感想を聞く。あなたも一度、体験してみませんか?

  ひとりで人生の最期を迎える人が増えるなか、弔いのあり方も変化してきています。お葬式やお墓の現状に詳しい、シニア生活文化研究所長の小谷みどりさんが、いまの葬送の現場と社会のあり方、備え方などについて連載します。

小谷 みどり(こたに・みどり) 

シニア生活文化研究所所長。2018年末まで第一生命経済研究所に25年余り勤務。大阪府出身。博士(人間科学)。専門は生活設計論、死生学、葬送問題。国内外のお墓や葬儀の現場を歩き、その実態や死生感の変化などを著書などで伝えている。最近の著書は『<ひとり死>時代のお葬式とお墓』(岩波新書)、『ひとり終活』(小学館新書)、『没イチ』(新潮社)など。奈良女子大学、立教セカンドステージ大学で講師をするほか、身延山大学、武蔵野大学の客員教授も務める。

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