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大腸が「心」も動かす? 神経細胞が多く存在、脳と関係 

<今日から始める”腸”寿生活Q&A>順天堂大学名誉教授・佐藤信紘さんインタビュー(上)

更新日:2019年06月29日

 遺伝子解析技術が飛躍的に進んだことで、腸が全身の健康に及ぼす影響が明らかになりつつあります。今回は、健康の要ともいわれている大腸について、読者会議メンバーから寄せられた素朴な疑問について、順天堂大学名誉教授の佐藤信紘さんにインタビューしました。


読者からの質問:
腸と心(脳)は関係しているという話を聞きます。どのように関係しているのでしょうか?(50代後半・女性) 

「腹が立つ」は科学的にも理がある

 大腸の粘膜に炎症が起こって潰瘍(かいよう)ができる病気に、潰瘍性大腸炎があります。この病気が悪化して大腸を全摘する手術を受けると命はほとんど助かりますが、栄養が低下して元気がなくなったり、免疫力が低下したりします。そこから、大腸は便をつくって排出するだけでなく、もっと多くの仕事をしているのではないかと考えられるようになりました。

順天堂大学名誉教授・佐藤信紘さん (撮影)村上宗一郎

 大腸をとってしまうと元気がなくなるのは、脳と腸が密接に関わっているからです。大腸は多くの神経細胞があり、交感神経系や副交感神経系を介して脳とつながっています。おなかの調子が悪いと気分が沈み、逆に脳にストレスがかかるとおなかの調子が悪くなるといったように、脳と腸が双方向に影響し合うことを脳腸相関といいます。日本語には「腹が立つ」「腑(ふ)に落ちる」「腹が黒い」などの表現があり、おなかと脳(心)がつながっていることを体験的に知っていたと思われます。

安全なものと危険なものを識別する腸管

 大腸には免疫機能もあります。口からは食物だけでなく、多くの病原菌も入ってきます。危険な侵入物から身を守るために、腸管では食品のように安全なものと、病原菌のように危険なものを識別しています。安全なものに対しては、制御性T細胞(Tレグ)と呼ばれる免疫担当細胞が免疫を弱めるように働き(これを経口免疫寛容といいます)、病原性のあるものに対しては抗体(主としてIgA抗体)をつくって腸管から体内に吸収されるのを防いでいます。これを腸管免疫といいます。腸管免疫がうまく働かなくなると、体全体の免疫も低下してきます。

 近年、腸の働きを維持するために腸内細菌が重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。


腸内細菌がつくるセロトニンが感情をコントロール

 脳腸相関ということでは、腸内細菌は神経伝達物質もつくっています。神経伝達物質は神経細胞間の情報伝達を担っている物質で、セロトニンやドーパミンなどがあります。たとえばセロトニンは感情のコントロールや精神の安定に深く関わっている物質で、不足するとうつ病を発症する原因ともなります。

 小刻みな歩行になるなどの症状がみられるパーキンソン病は、ドーパミンが働かなくなることで発症します。一般には脳・神経の病気と思われていますが、最新の研究では、原因が大腸にあるのではないか、といわれるようになってきました。大腸でのドーパミンの産生が減り、それが神経を伝わって脳にまで広がって発症するのではないかというのです。

 また、神経難病の一つである多発性硬化症という病気にも腸内細菌が関係しており、糞便(ふんべん)移植(健康な人の便に含まれる腸内細菌を病気の人に投与する治療法)をすると改善することがあります。

 このように腸と脳(心)は密接に関係しています。それを結びつけているのが腸内細菌です。最近では腸内細菌のバランスの乱れが、肥満、花粉症、糖尿病、大腸がんなどさまざまな疾患とも密接に関係していることが明らかになりつつあります。

佐藤信紘(さとう・のぶひろ)
学校法人順天堂理事、順天堂大学名誉教授・特任教授
1940年生まれ。大阪大学医学部卒。大阪大学第一内科助教授、順天堂大学消化器内科学主任教授、順天堂大学医学部附属練馬病院院長、大阪警察病院院長などを経て現職。順天堂大学寄付講座「腸内フローラ研究講座」代表なども務める。

 近年、遺伝子解析とデータ分析が飛躍的に進んだことで、腸が全身の健康に及ぼす影響が明らかになりつつあります。「21世紀は腸の時代」ともいわれ、免疫や生活習慣病、そして脳の健康との関係が指摘されています。連載「腸サイエンスの時代」では、専門家へのインタビューを通じて、最新の研究・知見や読者の皆さんの疑問への答えをお伝えしていきます。

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