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自分の腸内環境を知る意義は? 

<「腸存共栄」の未来>慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さんインタビュー(1)

更新日:2019年07月16日

 遺伝子解析技術の飛躍的な進歩で、腸内環境が全身の健康を左右する実態が明らかになりつつあります。腸内フローラを独自に解析・評価する研究をしている慶応大特任教授の福田真嗣さんに、最新の研究にまつわる興味深いお話を伺いました。シリーズでお届けします。


「食」を変えれば「腸」も変わる 

 近年の研究から、長期的な食習慣がその人の腸内フローラのタイプに大きく影響していることが分かってきました。例えば、日本人がアメリカに住むと食生活ががらっと変わりますが、2~3年もたつと日本にいる時に腸内に住み着いていた菌が減り、アメリカでの欧米型の食事に起因する菌が増えてくるのです。
 以前、相撲部屋に協力を仰ぎ、所属する力士の腸内フローラを調べたことがあります。中にはエジプト出身の力士もいたのですが、彼の腸内フローラは他の日本人力士と似たタイプになっていました。また、世界各国の様々な人の腸内フローラを調べた研究があるのですが、それによると、人種よりも、むしろ個々人の食生活が影響して腸内フローラのタイプが形成されることが明らかになりました。

慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さん

エリートだけが生き残る

 腸内細菌が腸内に定着する方法は、大きく分けて2つあります。ひとつは、腸管壁の表面に実際に菌がくっついているもの。もうひとつは、腸から排出される速度よりも早く腸内で増殖を繰り返すことで、見掛け上その菌が腸内に留まるものです。実は腸内細菌の多くは後者なので、栄養素の取り合いに負けた腸内細菌は腸内で増殖することができず、その結果腸内から出て行かざるを得ない状況になります。つまり生存競争に負けてしまう菌は腸内で生き残れないんですね。

 腸内細菌が腸内で増殖し続けるには栄養素が必要です。私たちが食べたもののうち、消化できずに腸まで届いたものが彼らの栄養になり、それらをエネルギー源として増殖したり代謝を行ったりしているのです。栄養素を勝ち取って生き残った強い菌だけが、その人の腸内に定着します。そのため、その人が何を食べるかに依存して、腸内フローラのタイプは決まっていきます。皆さんのおなかの中にいる腸内細菌は、個々人によって異なる過酷な環境下でも生き残ることができた、言わばエリートたちなのです。

健康時の自分の腸内を知る意義

 例えば、ダイエットで糖質制限をすると、エネルギーが不足したりするなど、人体にとって一時的に負担になりますが、それは腸内細菌にとっても同様で、彼らが必要な栄養素も不足してしまいます。食べ物は人間の栄養素であると同時に、腸内細菌の栄養素でもあるのです。そのため、糖質を制限すると、糖質を好んで食べていた腸内細菌が腸内で増殖できなくなります。その結果、糖質制限をやめて元の食生活に戻したとしても、いなくなってしまった菌はもう元には戻ってこれないのです。

 自分が健康な時の腸内環境の状態を知っておけば、調子が良かった時と今の状態とを比べることで、今の自分の体調を推し量ることができます。また、もし今の体調が悪いなら、調子が良かった時の腸内環境にうまく戻してあげられればよいわけです。腸内環境は個々人によって異なるため、自分が健康な時の腸内環境は、自分だけが持つ大事な健康指標なのです。

捨てている「便」は宝の山?

 また近年、「便移植(便細菌叢移植療法)」という、健康な人の便を患者の腸内に移植することで腸内環境を正常化し、疾患を治療する手法に注目が集まっています。国の指定難病のひとつである潰瘍(かいよう)性大腸炎の患者は日本に約13万人いるとされますが、現段階で確立されているのは対処療法のみで、根本治療につながる新手法が求められてきました。しかしここで、便移植による有効性がいくつかの臨床試験で証明されたのです。ただ一方で、健康であっても他人の便の移植では治療効果が得られないケースも報告されているので、ドナー選びにはまだ多くの課題が残されています。となると、自分が健康な時の便を保管しておき、残念ながら将来病気になってしまった時でも、保管しておいた自分が健康な時の便を活用できれば、他人の便を使用するよりは治療効果が高まるのではないかと推測しています。もともと自分のおなかの中にいた菌なわけですから、自分の腸内環境にとても合うのではないかと思っています。

 みなさんが捨てている便の中には、将来新しい薬の元になるかもしれない重要な腸内細菌がひそんでいる可能性があるわけですから、みなさん自身が自分の便の価値を正しく理解することが、将来の健康維持・疾患予防に繋がると確信しています。

(聞き手・澤田歩)

福田真嗣(ふくだ・しんじ)

慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授・メタジェン代表取締役社長CEO
1977年生まれ。2006年、明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2019年より同特任教授。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」でバイオサイエンスグランプリにて最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。同年、代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。著書に「おなかの調子がよくなる本 自分でできる腸内フローラ改善法」など。

 近年、遺伝子解析とデータ分析が飛躍的に進んだことで、腸が全身の健康に及ぼす影響が明らかになりつつあります。「21世紀は腸の時代」ともいわれ、免疫や生活習慣病、そして脳の健康との関係も指摘されています。連載「腸サイエンスの時代」では、専門家へのインタビューを通じて、最新の研究・知見や読者の皆さんの疑問への答えをお伝えしていきます。

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