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「食の好み」は腸が決める? 見えてきた「脳腸相関」 

<「腸存共栄」の未来>慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さんインタビュー(2)

更新日:2019年07月23日

 遺伝子解析技術の飛躍的な進歩で、腸内環境が全身の健康を左右する実態が明らかになりつつあります。腸内フローラを独自に解析・評価する研究でこの分野の先端を走る慶応大特任教授の福田真嗣さんに、最新の研究にまつわる興味深いお話を伺いました。2回目は「脳と腸のつながり」から考えます。

慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さん


ホルモンを介してやりとり「腸」と「脳」 

 腸にある神経細胞は迷走神経で脳とつながっており、また、腸と脳はホルモンでもやりとりが行われています。そのため、腸と脳は互いにやり取りをしています。これが、脳腸相関です。

 実験動物としてよく使われる種類のネズミにある乳酸菌を飲ませ、そのネズミにストレスをかけると、ストレスのマーカー(コルチコステロンというホルモン)が、乳酸菌を飲ませなかったネズミよりも上がりにくくなったという報告があります。もし人でも同じ効果が生じるとすると、腸内細菌叢のバランスをうまくコントロールすることによりストレスに強くなることもできるかもしれません。つまり、ある種の鈍感力のような現代社会で生き抜くために必要な力を培うために、腸内環境の改善が必要になるといった可能性も考えられます。

 同じ遺伝子をもつネズミを用いた動物実験で、人為的に腸内細菌叢がいるネズミと、いないネズミを作り、両者の行動を比べたところ、腸内細菌叢がいないネズミは、落ち着きがなくなることが分かっています。動物は本能的に危険な場所には近寄りませんが、腸内細菌叢がいないネズミは、その本能が十分に働かず危険な場所に行きやすくなってしまうということも報告されています。

 このように、脳腸相関により腸内細菌叢が脳機能にも影響する事例が動物実験で明らかになってきました。今後さらに研究が進んで、もし人についても同様のメカニズムがあるようであれば、人間の腸内細菌叢をうまくコントロールすることで、私たちの脳機能までをも制御することが可能になるかもしれません。

無性に何かが食べたい時。それは腸内細菌が求めている?

 日本人には、海外出張で例えば米国に1週間も滞在すると、無性に野菜が食べたくなる、という人が結構います。普段は別に食べたいとは思わないのに。これは、なぜでしょうか。

 野菜には食物繊維が多く含まれており、これは腸内細菌のえさになります。それが腸内で不足すると腸内細菌は飢餓状態になるわけです。これは私の仮説ですが、もしかすると腸内細菌がもっと食物繊維を腸内に送れという信号を、脳腸相関を介して人間に伝えているのかもしれません。つまり私たちの食の好みを決めているのは、実は腸内細菌なのかもしれないのです。

 人間は、地球上の歴史で考えたら後発の生物であり、微生物のほうが圧倒的に先住民です。地球上にはるか昔からいたのは、彼らの方なのです。目には見えませんが、私たちは体中を微生物に覆われて暮らしています。腸管内は体の中のように思われがちですが、実は口から肛門までは外環境とつながる体の外側であり、人間は一つの管のようなものです。つまり腸管内というのは皮膚と同じ体表面であり、人間の体表面に共生する微生物叢(そう)は、人間と密接に相互作用することで独自の微生物生態系を築いています。この微生物生態系が、時に栄養素を供給してくれたり、あるいは病原菌の感染から守ってくれたりと、人間を守ってくれる体表面バリアとして機能してくれているのです。

体表面微生物叢は「私」の一部

 以上のことから、微生物と相互に影響を与え合いながら、私たち人間は生命活動を営んでいると言えます。私たち人間は人間の細胞だけでできているわけではなく、腸内細菌も含めた様々な微生物、つまり人間とは全く異なる生き物と共に構成されたスーパーオーガニズム(超生命体)と捉えることができるのです。したがって、例えば健康や病気という切り口で考える場合も、人間の細胞のことだけを考えるのでは不十分であり、腸内細菌のことも含めて、体表面微生物叢全体も人間の一部として考慮する必要があると言えます。

 本当の意味で、私たちが健康で楽しく生きるためには、人間と微生物叢との関係をきちんと理解することが重要です。自分たちがどんな微生物と共生しているのかを知り、そしてそれらがどのような働きをしているのかを知ることこそが、私たちが本当の意味で「自分を知る」ということにつながっていくのだと私は考えています。(談)

(聞き手・澤田歩)

福田真嗣(ふくだ・しんじ)

慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授・メタジェン代表取締役社長CEO
1977年生まれ。2006年、明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2019年より同特任教授。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」でバイオサイエンスグランプリにて最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。同年、代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。著書に「おなかの調子がよくなる本 自分でできる腸内フローラ改善法」など。

 近年、遺伝子解析とデータ分析が飛躍的に進んだことで、腸が全身の健康に及ぼす影響が明らかになりつつあります。「21世紀は腸の時代」ともいわれ、免疫や生活習慣病、そして脳の健康との関係も指摘されています。連載「腸サイエンスの時代」では、専門家へのインタビューを通じて、最新の研究・知見や読者の皆さんの疑問への答えをお伝えしていきます。

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