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老後資金「2千万円」は必要なの? 

ファイナンシャルプランナー深田晶恵さんに聞く「老後のお金」の備え方(2)

更新日:2019年07月30日

 「老後の生活費が2千万円不足する」という金融庁の審議会が出した報告書は、多くの人が漠然と抱えていた老後不安を浮き彫りにしました。この「2千万円」という数字の根拠になっているのは、総務省の「家計調査」です。2017年の調査では、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦2人で暮らす無職世帯の場合、毎月の収入は約209千円。一方で支出は約264千円。収支は月に約55千円の赤字です。1年間だと約65万円足りなくなり、不足分は老後資金を取り崩して暮らすことになります。

残念ながら現実は

 今の50代が年金を満額受け取れる65歳以降、家計の赤字分を仮に毎年65万円として、その分の貯蓄を取り崩していくとすると、95歳までの30年間で必要なお金は1950万円。「どうせ95歳まで生きることはないだろう」と思う人がいるかもしれませんが、寿命は事前に分からないので長めに見積もっておくことは必要です。さらに、病気への備えや家の修繕費などもかかってくるでしょう。

 この結果に「2千万円もためられない」と思う人も多いでしょうが、残念ながら現実的な試算と言えます。総務省の家計調査は、実際に年金で暮らしている人たちの現状に基づいたデータなので、年金生活を想像する際の「目安」になります。ただ、このデータは全国平均で、世帯によって収支は大きく異なります。

 そもそも日本の年金制度は、現役時代の収入を100%保証する設計ではありません。共働き夫婦のような例外はありますが、年金だけでは暮らせない現実を知っておくことが大切です。前回、「親世代より、現役世代がお金をためにくい『五つの要因』」で説明したように、今の現役世代は、7080代の親世代と比べてお金がたまりにくい環境にあります。それを理解した上で、お金をためる意識を高める必要があるのです。

「お化け屋敷」の不安を払うには

 老後を不安に感じている人は、まず退職後の収入がどう変化するのかイメージを持つところから始めましょう。漠然とした不安を感じてしまう心理を、私は「お化け屋敷理論」と呼んでいます。どこでどんなお化けが出てくるか分からないから怖いのであって、あらかじめ分かっていたらそれほど怖くないはずです。

 では、老後にはどんな「お化け」が、どこに隠れているのでしょうか。その正体は、定年後の収入が減る「収入ダウンの崖」です。60歳以降の「崖」は23回あります。

 最初の崖は、定年の60歳。今の50代が年金を満額受け取れるのは65歳からなので、ほとんどの人が65歳までは再雇用制度で働くことになるでしょう。しかし、50代までと同じ給料をもらえることはまずありません。勤務先によって違いますが、年収は50代の3分の1程度に減ると思っていた方がいいでしょう。

 2回目の崖は、年金だけの生活に入る65歳。年金額は人によって大きく異なりますが、厚生労働省のモデル額では、40年間サラリーマンだった男性で年190万円程度です。配偶者がいる場合は、配偶者の年金も加わります。専業主婦の期間が長い妻の場合、年金額の目安は80万円前後です。

 自分がどれくらい年金をもらえるのかを知りたい人は、毎年、誕生月に日本年金機構から届く「ねんきん定期便」を見てみましょう。ねんきん定期便には、50歳以上の人には「今の給与水準のまま60歳まで働いた場合」の年金見込み額が載っています。

 配偶者がいる人には、配偶者が亡くなったときに3回目の崖があります。夫婦2人暮らしの間は2人分の年金が受け取れますが、どちらかが亡くなると年金収入は大きく減ることになります。しかし、支出は半分に減るわけではありません。配偶者が亡くなった後、年金収入で足りない分、貯蓄の取り崩しは増えやすくなると頭に入れておきましょう。

「崖」をどう越えていくか

 こういった「収入ダウンの崖」を越えるために、60代前半の再雇用で働く間は、減った収入で支出を賄う「収支トントンの暮らし」を目指しましょう。60歳までにためた老後資金や退職金を減らさないことを目指します。

 老後の準備で大切なのは、老後資金の「ためどき」を逃さずにお金をためておくことと、年金生活で収支のバランスが取れるように、収入が減ったら支出も見直すことです。収支が赤字のままだと、70歳までに貯蓄が底をつきかねません。年金生活に上手に移行するには、できるところから支出を減らし、お金をかけない生活に少しずつ慣れていくことが成功のコツです。

 次回は、どのように家計をスリムにしたらいいのか、「家計の見える化」についてご説明します。

 

 朝日新聞Reライフプロジェクトは、822日(木)午後46時、東京・築地の朝日新聞東京本社で深田さんの講演会「50代から知っておきたい!誰もができる 退職金・年金を減らさないコツ」を開きます。読者会議メンバー限定、定員100人。入場無料。応募者多数の場合は抽選します。詳細はこちら

深田 晶恵(ふかた・あきえ) ファイナンシャルプランナー(CFP)。生活設計塾クルー取締役。1967年生まれ。外資系電機メーカー勤務を経て96年にFPに転身。現在は、特定の金融機関に属さない独立系FP会社である生活設計塾クルーのメンバーとして、個人向けコンサルティングを行うほか、メディアや講演活動を通じてマネー情報を発信している。23年間で受けた相談は4千件以上で、「すぐに実行できるアドバイスを心がける」をモットーにしている。最近の著書は『まだ間に合う! 50代からの老後のお金のつくり方』(日経BP)、『サラリーマンのための「手取り」が増えるワザ65』(ダイヤモンド社)など。朝日新聞朝刊Reライフ面「なるほどマネー」や、土曜別刷りbe「知っ得なっ得」なども担当。

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