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消毒や殺菌だけではダメ 悪い菌を追い出す方法とは? 

<「腸存共栄」の未来>慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さんに聞く(4)

更新日:2019年08月08日

 腸内細菌叢(そう)を独自に解析・評価する研究でこの分野の先端を走る慶応大特任教授の福田真嗣さんに、最新の研究にまつわる興味深いお話を伺いするシリーズ。4回目は、病原菌などの悪い菌の追い出し方について考えます。

慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さん (撮影)村上宗一郎


アルコール消毒に懸念も 

 菌と聞くと、ばい菌や汚いもの、悪いものと思いがちではないでしょうか。近年では、デパートや公共施設などあらゆる場所に、消毒用アルコールが「ご自由にお使い下さい」と、置いてあります。私は、このことに少し懸念を抱いています。
 それらはもちろん、悪い菌やウイルスを抑える目的で置かれているのですが、前回もお話をした通り、悪い菌が死ぬということは、私たちの体に常在している良い菌まで殺してしまうわけです。そのため、手のひらにアルコールをシュッと吹きかけると、常在菌で覆われていた手のひらの細菌叢が焼け野原のようになり、部分的に菌がいない状態がつくられます。そこに、悪い菌が最初に付着すると、それらが一気に増殖してしまう恐れがあるわけです。
 電車で例えるとわかりやすいでしょうか。車内が満席だと、新たに悪い菌が乗って来ても簡単には座れません。でも、空席が目立つ状態だと、空いている所に悪い菌が座れてしまいます。

病原菌をうまく追い出すには

 居座る悪い菌を、シュシュッとアルコールで除菌すること自体は良いのですが、新たに生まれた空席は、すぐに良い菌で埋めることです。そんな「アルコール+良い菌」の、二段構えの対策が必要になると考えています。
 病院などでの抗生物質を長期投与すると、抗生物質に耐性のあるクロストリジウム・ディフィシルという病原菌が腸内で一時的に増加し、偽膜性大腸炎という難治性腸管感染症につながることが知られています。この感染症の治療法として、通常はクロストリジウム・ディフィシルの殺菌に効果がある抗生物質が使われます。
 ですが、この病原菌は結構厄介者で、芽胞という休眠状態の細胞構造に変化したり、抗生物質耐性を獲得したりして、抗生物質がなかなか効きません。そんな場合、以前にも紹介した便微生物叢移植(便移植)を実施すると、高い治療効果が認められることが報告されています。
 病原菌を抗生物質で全滅させることは難しい。でも、腸内に良い細菌叢を一気に投入すると、菌同士の間で栄養素の奪い合いが起こります。それによって病原菌が腸内で増殖できない環境が作りだされ、結果的に病原菌は腸内から自然に排除され、感染症が治るというものです。

ニキビ対策にも応用の可能性

 もう一つ例をあげると、ニキビの原因になるアクネ菌という細菌が、皮膚にはいます。この菌は、ほとんどの人の皮膚に常在していますが、一口にアクネ菌といっても、遺伝子レベルで見ると様々な種類があります。人によって、どんなタイプのアクネ菌が、どんなバランスで存在するのかは異なります。
 中にはニキビを強く誘導するタイプと、そうではないタイプのアクネ菌がいることも分かっています。なので、ニキビに悩んでいる人だと、ニキビを強く誘導する菌を排除してから、そうではない菌を塗り付ければ、ニキビになりにくい状況をつくることができるかもしれません。
 このように私たちは、自分自身とは違う生き物である菌と共に生きており、切っても切れない関係にあります。どんな菌と共生しているかが、私たちの健康や美容など、あらゆる側面に関わっていると言っても過言ではないのです。

(聞き手・澤田歩)

福田真嗣(ふくだ・しんじ)

慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授・メタジェン代表取締役社長CEO
1977年生まれ。2006年、明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2019年より同特任教授。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」でバイオサイエンスグランプリにて最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。同年、代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。著書に「おなかの調子がよくなる本 自分でできる腸内フローラ改善法」など。

 私たちは細菌と共に生きています。特に腸内細菌は、腸の神経細胞や免疫細胞、内分泌細胞と相互作用したり、さらには代謝物質を介して腸だけでなく全身にも作用したりしています。近年の報告では、精神状態にまでも影響を及ぼす可能性が示唆されています。連載<「腸存共栄」の未来>では、福田真嗣さんへのインタビューを通じて、腸内細菌叢(そう)を豊かにし、健やかに生きるためのヒントをお届けします。

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