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便は汚いだけじゃない!? 母から子へと受け継がれる腸内細菌 

<「腸存共栄」の未来>慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さんに聞く(5)

更新日:2019年08月23日

 腸内細菌叢(フローラ)を独自に解析・評価する研究でこの分野の先端を走る慶応大特任教授の福田真嗣さんに、最新の研究にまつわる興味深いお話を伺いするシリーズ。5回目は、受け継がれる腸内フローラについて考えます。

慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さん (撮影)村上宗一郎


様々な菌に触れる意義 

 清潔すぎる環境で育った子はアレルギーになりやすく、牛やヤギがいるような農場で育った子はアレルギーになりにくいという話があります。これが意味していることは、子どもの頃に様々な種類の菌にさらされることが、私たちの腸内環境や免疫システムを構築する上で、とても重要であるということです。
 近年、花粉症や食物アレルギーといったアレルギー疾患の人が急速に増えています。これは花粉や食べ物といった異物に対して、免疫系が過剰に反応した結果起こる症状です。本来は反応する必要のない物質を、免疫系が間違って異物として認識してしまう。これは、子どものころに様々な細菌に触れる機会に恵まれず、腸内細菌によって免疫システムがきちんと教育されなかった結果だと考えられています。
 だから、私はうちの子には「3秒ルール」を適用しています(笑)。食べ物を床に落としてしまっても、3秒以内なら食べてもよいと。そうして様々な菌を体内に取り入れることが、免疫系を構築する上では重要だと考えてのことです。

人の進化の形が示すもの

 赤ちゃんは、お母さんのおなかの中にいる時は無菌状態ですが、生まれた瞬間に様々な菌にさらされます。自然分娩(ぶんべん)で生まれた赤ちゃんの生後1週間の腸内フローラには、お母さんの産道にいる菌が多いことがわかっています。帝王切開で生まれた赤ちゃんの腸内からは、お母さんの皮膚にいる菌が見つかっています。生まれてすぐに外環境からやってくる菌が、赤ちゃんの腸内に最初に住みつくわけです。
 もしも便が、単なる汚いばい菌の塊で、赤ちゃんにとって良くないものなのなら、分娩(ぶんべん)口と排泄(はいせつ)口とは、それぞれ離して形づくるように進化した方が合理的だと思います。しかし、人を含む哺乳類では、両者はとても近い位置に存在している。これは私の仮説なのですが、赤ちゃんが生まれる時にお母さんの便を介して腸内フローラを垂直伝播(でんぱ)させる上で、有益だったからではないでしょうか。
 昆虫にも面白い話があります。ある種のカメムシには、卵と一緒に茶色いカプセルを産むものがあります。その茶色いカプセルには、お母さんの腸の内容物が入っています。卵が孵化(ふか)すると、幼虫たちはこのカプセルを最初に食べ、それによりお母さんカメムシの腸内細菌が子どもたちに垂直伝播(でんぱ)するのです。卵から茶色いカプセルを除去した実験では、子どもたちはお母さんの腸内細菌を受け継げず、大きくなれない結果が得られました。

動物がふん食する理由

 牛や馬では、生まれた子どもが親の便を食べます。飼い主は嫌がりますが、ペットの犬や猫も、ふん食をすることがあります。これは、本能的に動物たちが、生まれた直後や体調が悪い時に、良い腸内フローラを体に取り入れようとしているのかもしれません。
 以上のことから、人間以外の動物や昆虫に至るまで、成長や健康維持のためには、親から子へ腸内細菌を受け継ぐことが大事だということが分かります。便は、腸内細菌の大事な運搬役と捉えることもできます。
 腸内細菌は母から子に受け渡される最初の贈り物であり、腸内フローラは大切な「もうひとつの臓器」と言えるでしょう。

(聞き手・澤田歩)

福田真嗣(ふくだ・しんじ)

慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授・メタジェン代表取締役社長CEO
1977年生まれ。2006年、明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2019年より同特任教授。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」でバイオサイエンスグランプリにて最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。同年、代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。著書に「おなかの調子がよくなる本 自分でできる腸内フローラ改善法」など。

 私たちは細菌と共に生きています。特に腸内細菌は、腸の神経細胞や免疫細胞、内分泌細胞と相互作用したり、さらには代謝物質を介して腸だけでなく全身にも作用したりしています。近年の報告では、精神状態にまでも影響を及ぼす可能性が示唆されています。連載<「腸存共栄」の未来>では、福田真嗣さんへのインタビューを通じて、腸内細菌叢(そう)を豊かにし、健やかに生きるためのヒントをお届けします。

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