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善玉?悪玉?あるいは「ちょい悪」菌? 腸内に多様性を 

<「腸存共栄」の未来>慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さんに聞く(6)

更新日:2019年08月30日

 腸内細菌叢(フローラ)を独自に解析・評価する研究でこの分野の先端を走る慶応大特任教授の福田真嗣さんに、最新の研究にまつわる興味深いお話を伺いするシリーズ。6回目は、多様な菌を腸内に住まわせることの意味について考えます。

慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さん (撮影)村上宗一郎


免疫バランスを調整する腸内細菌 

 私たちは、リンパ球の一種で免疫反応において多様な機能をもつ「T細胞」を持っています。身体に侵入した物質が抗原として認識されると、「T細胞」は抗原を攻撃する細胞に指令を出す「Th1」や「Th2」という細胞に変わります。細菌やウイルスに反応(免疫応答)して攻撃する指示を出すのがTh1細胞で、ダニやカビ、花粉などのアレルゲンに反応して攻撃をするように指示を出すのがTh2細胞です。
 Th1細胞とTh2細胞は、環境に応じてお互いの機能を制御し合い、シーソーのように平衡関係を保っています。衛生状態が悪く感染症がとても多かった時代は、免疫系がTh1細胞の方に傾くためTh2細胞の割合が少なくなり、結果的にアレルギーになりにくかったという側面があります。ところが、今は衛生環境が改善され、感染症のリスクが急速に減少しました。そしてその分、Th2細胞の方に傾きやすくなっていることが、アレルギーになりやすくなった原因の一つと考えられています。
 この免疫のバランスをうまく調整しているのが、腸内細菌です。私はいつも、一定数の「ちょい悪」菌が腸内にいた方が良いと言っています。つまり、体を適度に刺激してTh1細胞の働きを活性化させる「ちょい悪菌」がいれば、免疫の均衡をうまく保ち、アレルギーになりにくくなるという理論です。そうした腸内細菌と免疫システムとの関連性も、徐々に見えてきました。

人により異なる「良い菌」「悪い菌」

 よく悪玉菌や善玉菌と言いますが、一概に良しあしを定義することは難しいということもわかってきました。もちろん、腸管出血性大腸菌O157などの病原菌は毒素を作るため、誰にとっても悪い菌と言えます。しかし病原菌ではない悪玉菌の中には、ある人にとっては有益な働きをする菌がいたり、逆に善玉菌と分類されていた菌の中にも、その人の腸内で良い働きをするとは言えない菌がいたりします。つまり人類全体にとってその菌が良いかどうかを定義するのは難しく、人によって良い菌と悪い菌が異なるのです。そのため、理想的な腸内環境というものを定義することは難しく、個々人の腸内環境タイプに合った適切なアプローチを行うことが鍵となります。
 そんな中、近年の研究で明らかになってきたのは、多くの種類の菌がおなかの中にいることが、あらゆる人に共通して良さそうだということ。要は多様性です。社会で例えると、異なる分野から集まった多様な人材が集まった会社は、何かアクシデントが起こっても柔軟に対応できます。逆に、同じような能力を持つ人材だけが集まった会社だと、特定の業務に特化できるという利点がある一方で、不測の事態には対応できず、会社全体が崩れてしまうリスクもあるでしょう。

「好き嫌いせず食べる」効用

 腸内環境についても同じことが言えます。腸内に色々な種類の細菌がいる状態は、日常の様々な変動に対して、腸内環境を一定に保つ上で重要なポイントとなります。多様な細菌同士がお互いに作用し合い、それがヒトの身体にも作用することで、健康な状態が保たれているのです。
 腸内フローラの多様性をあげるひとつの方法は、色々なものを食べ、腸内細菌に様々なえさを供給することです。昔からよく言われている「好き嫌いせずに色々なものを食べなさい」というのは、実は腸内環境を良い状態に保つ上でも理にかなった教えなのです。

(聞き手・澤田歩)

福田真嗣(ふくだ・しんじ)

慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授・メタジェン代表取締役社長CEO
1977年生まれ。2006年、明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2019年より同特任教授。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」でバイオサイエンスグランプリにて最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。同年、代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。著書に「おなかの調子がよくなる本 自分でできる腸内フローラ改善法」など。

 私たちは細菌と共に生きています。特に腸内細菌は、腸の神経細胞や免疫細胞、内分泌細胞と相互作用したり、さらには代謝物質を介して腸だけでなく全身にも作用したりしています。近年の報告では、精神状態にまでも影響を及ぼす可能性が示唆されています。連載<「腸存共栄」の未来>では、福田真嗣さんへのインタビューを通じて、腸内細菌叢(そう)を豊かにし、健やかに生きるためのヒントをお届けします。

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