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腸内細菌目線で考えることで変わる? 私たちのライフスタイル 

<「腸存共栄」の未来>慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さんに聞く(7)

更新日:2019年09月06日

 腸内細菌叢(フローラ)を独自に解析・評価する研究でこの分野の先端を走る慶応大特任教授の福田真嗣さんに、最新の研究にまつわる興味深いお話を伺いするシリーズ。7回目は、腸内細菌目線で見た時にわかることについて考えます。

慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さん (撮影)村上宗一郎

 ご飯と紙が同じ物質でできているって、知っていますか? ご飯の主成分であるデンプンは、ブドウ糖がつながったものです。一方、紙は、セルロース(植物繊維の主成分)でできていますが、これも同じくブドウ糖がつながったものです。


紙を食べて生きられる? 

 私たちがご飯を食べると、アミラーゼという消化酵素により、デンプンからブドウ糖を切り出し、それを吸収して細胞でエネルギーに変えています。それなら、ご飯の代わりに紙を食べても同様にエネルギーに変えて生きていけるのかと言えば、それは不可能です。デンプンとセルロースでは、ブドウ糖の連結の仕方が異なるからです。ヤギや牛などの草食動物は、セルロースからブドウ糖を切り出すことができる共生細菌が胃の中に定着していて、彼らは紙をエネルギーに変換できます。しかし、私たち人間の胃の中にはそのような菌は存在していません。草食動物たちが草を食べて身体が大きくなるのは、共生細菌のおかげなのです。

人は腸内細菌に操られているのか?

 一方、デンプンでもセルロースでも分解できる菌から見れば、ご飯も、紙も、同じような〝餌〟として認識されるでしょう。彼らにとってはどちらもブドウ糖で、同じように栄養とすることができるからです。様々な微生物がどのようにこの世を見ているのかを理解しようとすれば、私たちの生き方も変わってくる可能性があります。
 またこれはあくまでも仮説ですが、腸内細菌側の視点で考えると、人は脳腸相関を介して腸内細菌により操られている可能性もゼロではないと考えています。例えばトキソプラズマという微生物がいます。これは猫を宿主としますが、猫から別の猫へ感染する際にネズミを媒介します。トキソプラズマはネズミに感染すると、ネコに食べられやすくなるようにネズミの行動を変化させます。そのようにしてネコからネコへ感染を拡大します。人間も腸内細菌により操られていると考えると、連載の以前の回でも触れたように、腸内細菌が人の食の好みに影響している可能性も現実味を帯びてきます。まだ仮説ではありますが、もしかすると私たちは、思考までも腸内細菌たちに操られているのかもしれません。

人と細菌。選び選ばれた関係?

 あなたの腸内環境はあなた固有のものであり、一卵性双生児であっても異なります。例えば、仮に同じものを食べたとしても、かむ回数や胃酸などの消化液の量は異なってきます。そのようなひとり1人違う腸内環境下にすみ着いている細菌は、そこで自分に必要な栄養分を獲得し、増殖、定着するための過酷な生存競争を勝ち抜いてきた本当のエリートなのです。
 一見、体の内側だと思われる腸内は、手のひらなどと同じ体表面、つまり体の外側だということは以前にもお話ししました。これら体表面に住み着いている菌は、宿主、つまり人間と密接にやりとりをすることによって共生関係を築いています。どのような細菌がその人の腸内にすみ着き、どのような働きをするかは、そうした共生関係の中で形作られた個人固有の環境ごとに決まっていくのです。逆に言えば、宿主である私たち人間の状態が変われば、共生する腸内フローラのバランスも変わってくるのです。

将来は、疾病のリスク予測にも活用?

 逆に、腸内環境が何らかの理由で変わることによって、それが宿主の健康状態に影響するケースもあります。そのため、腸内環境の変化を手がかりとした疾患のリスク予測や、病気の診断に役立てられることも期待できます。つまり腸内環境情報の宝庫である便は、その意味でも本当に様々な可能性を秘めた「茶色い宝石」なのです。

(聞き手・澤田歩)

福田真嗣(ふくだ・しんじ)

慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授・メタジェン代表取締役社長CEO
1977年生まれ。2006年、明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2019年より同特任教授。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」でバイオサイエンスグランプリにて最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。同年、代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。著書に「おなかの調子がよくなる本 自分でできる腸内フローラ改善法」など。

 私たちは細菌と共に生きています。特に腸内細菌は、腸の神経細胞や免疫細胞、内分泌細胞と相互作用したり、さらには代謝物質を介して腸だけでなく全身にも作用したりしています。近年の報告では、精神状態にまでも影響を及ぼす可能性が示唆されています。連載<「腸存共栄」の未来>では、福田真嗣さんへのインタビューを通じて、腸内細菌叢(そう)を豊かにし、健やかに生きるためのヒントをお届けします。

「腸存共栄」の未来の連載

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