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年金vs一時金 退職金の受け取りはどっちがオトク? 

ファイナンシャルプランナー・深田晶恵さん講演(1)

更新日:2019年09月10日

 老後資金の柱となる退職金は、年金と一時金のどちらが有利なのかーー。ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんによると、退職金や年金は、受け取り方によっては老後資金を減らしてしまうこともあるそうです。その見極めのポイントは「手取り額」。知らなければ損をする制度のからくりと、「手取りを増やすコツ」を教えてもらいました。

読者会議サロンで講演する深田晶恵さん=篠田英美撮影

 まず、「手取り収入」の考え方を説明しましょう。給料でも退職金でも年金でも、何かを引かれる前のものが額面収入です。手取り収入というのは、額面収入から、税金と社会保険料を引いて求めます。つまり、皆さんが使えるお金です。

<図1:年金の手取りは減っている!>

 給与でも年金でも、この手取り収入が大幅に減っています。【図1】は、年金生活の人の手取り額を20年前と比べた試算です。額面の年金収入が300万円の場合を比べます(厚生年金が200万円、これに企業年金もしくは退職金の年金受け取りが100万円で、計300万円)。

 額面収入が300万円の人の年金の手取り額は、1999年には290万円だったのが、2019年は254万円と、20年間で36万円も減っているのです。1999年は国民健康保険料が10万円引かれるだけだったのが、2019年には国民健康保険料と介護保険料で計34万円、さらに所得税と住民税が計12万円も引かれています。年金生活の人は、実感として「何だか年金が減っている」と思っていても、この差が分かるように記録している人はあまりいないでしょう。

手取りが減った要因は?

 1999年と比べているのは、2000年度に国の介護保険制度が始まったからです。65歳以上の人は公的年金から介護保険料が天引きされるようになりました。さらに、04年には所得税の配偶者特別控除が一部廃止となり、05年には所得税の老年者控除(50万円)の廃止や、公的年金等控除額の縮小(65歳以上の場合で最低額が140万円→120万円)などがありました。0607年には定率減税の縮小と廃止、13年には復興増税が始まりました。それ以外にも、国民健康保険料と介護保険料は断続的にアップしています。

 0412月に、老年者控除の廃止と、公的年金等控除額の縮小の改正案を新聞で読んだときは、本当に驚きました。税金を計算する上で、皆さんには生きていくための基礎控除が38万円認められていて、65歳になると老年者控除でさらに50万円引けたのが、05年に突然、なくなったんです。

 翌年の税制改正の案というのは、12月半ばに発表されます。生活に大きな影響がある増税案は、たいてい夏頃から世論の反応を見るためか、新聞などで報道されます。それが、この時は12月の改正案を新聞で見て初めて知りました。世論として騒がれることなく、翌年するっと国会を通って、増税は決行。年金生活者に大打撃を与えました。

節税のコツは「控除」

 これだけ大幅に手取りが減っているのだから、暮らしをよくするために自分でできることはやった方が良いはず。皆さん節税は大好きですよね。でも、なかなかシニア向けの節税策は出てきません。そこで今回は、シニア向けに手取り収入を増やすコツをご紹介します。(すでに退職金を受け取った人は、自分に当てはまるところだけ採り入れてください)

<図2:退職金の受け取り方法は年金よりも一時金の方が有利なケースがある>

 会社員の退職金の受け取り方法は、「全額一時金」「一時金と年金の組み合わせ」「全額年金」など、いくつかのパターンがあります。「年金受け取り」を選ぶと、多くの企業では退職金の原資は2%程度で運用されます。そのため、額面での受取総額は一時金より年金の方が多くなります。しかし、手取り額で見ると、必ずしも「年金受け取り」が有利とは限りません。

 例えば、【図2のような試算をしてみました。60歳で退職金が2000万円の場合で、定年後、再雇用で64歳まで年収350万円で働くと仮定します。(1)60歳で全額一時金として受け取ったケースと、(2)60歳から10年間、年金(運用利率2%)で受け取ったケースを比べます。退職金を含めた60歳から10年間の収入を試算すると、額面だと「年金受け取り」の方が多くなります。しかし、手取りで見ると「一時金受け取り」の方が多くなります。

 なぜかというと、年金収入が増えると、税金と社会保険料の負担がアップするからです。手取り額は、額面の収入から税金と社会保険料を引いた額です。年金収入が増えると、これらの負担が重くなり、手取りが目減りします。

 退職金を受け取った人も受け取る前の人も、全ての人に当てはまる手取りアップのコツは、「控除(非課税枠)」のフル活用です。控除は「引く」という意味で、収入から「控除」を引いたのが「所得」になり、税金と社会保険料は、所得が多いと負担が増えます。

三つの「非課税枠」をフル活用

 リタイア後の手取りを増やすには、退職や60代以降に使える控除枠を活用し、所得を減らすことがポイントです。そのためには、三つの非課税枠の使い残しをしないことが、生涯で収入を増やすコツになります。

 一つ目は、「退職所得控除」です。控除額は勤続年数によって決まりますが、例えば勤続38年なら2060万円。この金額までは税金がかからず、超えても超過分の半分だけが課税対象です。退職金を一時金受け取りにする場合の課税方法は、税金計算の中でも納税者にとって有利な計算式になっています。そのため、退職金を一時金でなく年金受け取りを選ぶと、この控除枠を使い残すことがあります。退職金の年金受け取りを選ぶなら、全額「年金受け取り」にするのは避け、「一時金受け取り」と組み合わせるのがいいでしょう。

 二つ目と三つ目は、「公的年金等控除」です。60~64歳は年最低70万円、65歳以降は年最低120万円になります。65歳以降の控除枠は多くの人が使っていますが、60~64歳の控除枠は使っていない人もいます。

<図3:一時金、年金のそれぞれのメリット、デメリット>

 退職金の一時金受け取りと年金受け取りについて、【図3】にメリットとデメリットをまとめました。一時金受け取りで注意してほしいのは、まとまったお金が入って使ってしまったり、「退職金運用病」になったりして、結果的に老後資金を減らしてしまう人がいることです。年金受け取りの人でも、企業年金が終身タイプなら長生きしたときにオトクになるので、税金や社会保険の負担がアップすることを覚悟して、年金受け取りにする方法もあります。

 どちらがトクになるのかは、企業年金の運用率や年金額、住んでいる自治体の国保や介護保険料率によって違います。ただ、1年当たりの年金額が多くなればなるほど、税金と社会保険料の負担が重くなることは覚えておきましょう。

 この話をすると「退職金は年金受け取りの方が良いと思っていた」とよく言われます。たしかに、20年前はそうだったかもしれませんが、今は違います。私は手取り収入を増やすコツとして、「一時金」をなるべく多く受け取ることをすすめています。

 続いて、年金の賢い受け取り方法と、医療費負担についてご説明します。

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 この記事は、朝日新聞東京本社で2019822日に開かれたReライフ読者会議サロン「50代から知っておきたい 誰もができる 退職金・年金を減らさないコツ」の内容を採録したものです。

深田 晶恵(ふかた・あきえ) ファイナンシャルプランナー(CFP)。生活設計塾クルー取締役。1967年生まれ。外資系電機メーカー勤務を経て96年にFPに転身。現在は、特定の金融機関に属さない独立系FP会社である生活設計塾クルーのメンバーとして、個人向けコンサルティングを行うほか、メディアや講演活動を通じてマネー情報を発信している。23年間で受けた相談は4千件以上で、「すぐに実行できるアドバイスを心がける」をモットーにしている。最近の著書は『まだ間に合う! 50代からの老後のお金のつくり方』(日経BP)、『サラリーマンのための「手取り」が増えるワザ65』(ダイヤモンド社)など。朝日新聞朝刊Reライフ面「なるほどマネー」や、土曜別刷りbe「知っ得なっ得」なども担当。

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