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一人ひとりの腸内環境にあわせた 薬や食のデザインを 

<「腸存共栄」の未来>慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さんに聞く(9)

更新日:2019年09月20日

 腸内細菌叢(フローラ)を独自に解析・評価する研究でこの分野の先端を走る慶応大特任教授の福田真嗣さんに、最新の研究にまつわる興味深いお話を伺うシリーズ。最終回となる9回目は、腸内細菌やその代謝物質を調べることで、様々な病気の早期発見に役立てる可能性についてです。

慶大特任教授/メタジェン代表 福田真嗣さん (撮影)村上宗一郎


病気にならないための「腸内デザイン」

 日本人の腸内環境がだんだん変化してきているせいか、ここ30年ぐらいで大腸がんなどの病気が増えています。30年と言うと、大体1世代くらいの期間ですよね。1世代経るだけでは、人間の遺伝子はほとんど変わらないはずです。しかし、なぜこんなにも病気の人が増えているのでしょうか。もちろん、医療や診断技術の進展により、以前よりも病気が見つけやすくなったということもあると思います。しかし、それ以上に生活習慣や食習慣がとても大きな影響を与えていると考えられます。
 私たちの体は、仮に悪いものが入ってきても、良い状態を保とうと働きます。毒素が入ってくれば肝臓に運んで無害化し、尿として排泄(はいせつ)するという具合に、いわゆるホメオスタシス(恒常性)を維持しようとして頑張ります。でも、腸内フローラのバランスが乱れ、悪い代謝物質が腸内で作られて身体に吸収され続けると、やがて恒常性を保ちきれなくなり、破綻(はたん)して病気になってしまいます。
 近年増えている病気の多くは、人間の遺伝子のみに起因しているわけではないのです。食事などの生活習慣や、腸内フローラのバランスといった、いくつかの要素が絡まり、悪い方向に影響した結果、発症に至ったものだと捉えることができます。私たちが、ひとり1人の体に合った食品やサプリメント、医薬品などを考える場合、それらと腸内フローラとの関係を考慮したアプローチが必要になってくるのです。
 これまで経口摂取する製品の多くは、主に味覚や栄養吸収面を考慮して開発されてきました。しかしそれらは、口から小腸までの間で100%消化・吸収されない限り、大腸まで届くわけです。ひとり1人の腸内環境が異なることを考えると、その人の腸内環境のタイプに合わせて医薬品やサプリメントなどをつくる「腸内デザイン」の方向性が、今後は必要不可欠になると私は考えています。
 おいしいけれど、取りすぎるとあまり体に良くない食べ物ってありますよね。でも、体に悪いからやめなさいと言われても、そう簡単にやめることができないのが現実です。ならば、ある程度自由な食生活を送ったとしても、病気にならないように腸内環境をコントロールすることで、何とか悪影響を防げないか。
 例えばAという食べ物を食べた時は、Bというサプリメントも一緒に摂取しておく。そうすれば、腸内環境のバランスが保たれ、病気になりにくくなりますよ……というようなことが、将来的には可能になるでしょう。

薬も毒になる? 腸内細菌が作る代謝物質

 胃や小腸で消化・吸収されなかった未消化物が送り込まれる大腸では、たくさんの腸内細菌たちが待ち構えています。彼らは、自分たちが生きるために食物繊維などの未消化物を食べます。その結果として、彼らは様々なものを吐き出します。それが、代謝物質と呼ばれる低分子の化合物です。これらの代謝物が、人間の体に二次的に作用しているのです。
 代謝物質の中には、人の健康に良いものもある一方、病気の発症や増悪因子になる悪いものもあることが、近年の研究で続々と明らかになっています。例えば、肝臓で作られる消化液の一つに胆汁があります。その主成分の胆汁酸には、脂肪を体に吸収しやすい形に変える働きがあります。これが大腸に届いて腸内細菌に代謝されると、二次胆汁酸となります。実は、これが肝臓がんの引き金になることが、動物実験で明らかとなりました。
 では、肝がんにならないようにするにはどうすればよいか。セオリー的には、二次胆汁酸を作る腸内細菌の働きを抑えるような食べ物やサプリメントを摂取すれば良い、ということになります。でも、やっかいなことに二次胆汁酸を作りだす腸内細菌は複数存在します。
 人によっては、違う二次胆汁酸産生菌を持っている場合があります。違う細菌が、同じような代謝物質を産生する場合がある一方で、同じ細菌が、異なる環境下では違う代謝物質をつくる場合もあるのです。これは、腸内環境が個人固有のものであることに起因します。だから、腸内環境を適切にコントロールするためには、自分自身の腸内環境をまず把握する必要があるのです。 

腸内を調べれば、精密検査を減らせる?

 健康診断における大腸がん検診では、便潜血検査という、便に血液が混ざっていないかどうかを調べる検査が最初に行われます。血液が検出された場合、精密検査として大腸の内視鏡検査が求められます。公益財団法人日本対がん協会によると、2017年度に全国で大腸がん検診を受診した人数は、253万7352人。その結果、約6%にあたる15万4004人が、精密検査が必要と判定されました。そして、さらにそのうちの67%にあたる10万5826人が、実際に病院で内視鏡検査を受け、結局4400人にがんが見つかったそうです。
 つまり、最初の便潜血検査で陽性だった人のうち、最終的にがんだと判明したのは約3%だったということになります。
 この3%という数字をどう見るか。当然ですが、内視鏡検査には医療費がかかります。日本だと、3~4万円ぐらい。受診者はそのうち3割を負担し、残りは税金から国が支払っています。また、内視鏡検査の受診率も、67%とそこまで高いとは言えません。便潜血検査後に、本当に内視鏡検査が必要な人を簡単かつ正確に絞り込むことができれば、医療費の削減につながると同時に、内視鏡検査受診による大腸がん検出率も上げることができるようになるのではないでしょうか。
 実は最近の日本人を対象とした研究で、早期大腸がん患者の便からは、特徴的な腸内細菌やその代謝物質が検出されることが明らかになっています。したがって、便潜血検査で陽性だった人の便を調べ、そうした早期大腸がん患者に特有の腸内細菌や代謝物質が検出されれば、より適切に早期大腸がんの診断を下すことが可能になるはずです。
 他にも、腸内細菌と疾患に関する研究成果は続々と報告されています。これらの成果をいち早く実用化すれば、便中の腸内細菌や代謝物質を調べることで、大腸がんに限らず様々な病気について、早期発見ができるようになる可能性があるのです。
 「便=茶色い宝石」ととらえ、その価値ある情報を有効に活用する。私は、それこそが「病気ゼロ社会」を実現するための第一歩になると確信しています。

(聞き手・澤田歩)

福田真嗣(ふくだ・しんじ)

慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授・メタジェン代表取締役社長CEO
1977年生まれ。2006年、明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2019年より同特任教授。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」でバイオサイエンスグランプリにて最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。同年、代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。著書に「おなかの調子がよくなる本 自分でできる腸内フローラ改善法」など。

 私たちは細菌と共に生きています。特に腸内細菌は、腸の神経細胞や免疫細胞、内分泌細胞と相互作用したり、さらには代謝物質を介して腸だけでなく全身にも作用したりしています。近年の報告では、精神状態にまでも影響を及ぼす可能性が示唆されています。連載<「腸存共栄」の未来>では、福田真嗣さんへのインタビューを通じて、腸内細菌叢(そう)を豊かにし、健やかに生きるためのヒントをお届けします。

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