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楠木新さん/50歳からの「助走」のススメ 

ベストセラー『定年後』著者・楠木 新さん インタビュー余録(中)

更新日:2017年09月26日

次の準備には3年×3回が必要

作家・楠木新さん
 最近、企業から50歳以上を対象にした研修を頼まれることがあります。その研修では、おそらく9割の方々は定年後の準備をしていないと感じます。5年後、10年後の自分についてのイメージを持っていない人が多いのです。漠然とした不安や関心があっても、日々の仕事があって毎月給料ももらえるので、どうしても先送りにしてしまいます。でも、私は人生後半に「いい顔」でいるために、50歳くらいから定年後に向けた「助走」を始めることを勧めています。

 なぜ50歳かというと、現状の仕事以外の物事を始めて一定の成果を得たり、それなりの立場を築いたりするのに最低3年かかる、と考えるからです。転身者へのインタビューでは、「3年」の一区切りを3回経験して一人前になると実感しました。3年という期間を3回だと、およそ10年で、50歳から取り組めば60歳の定年までに1クール回せることになります。それは、仕事だけではなくて趣味やボランティア的なもの、もう一度関心のあることを学び直すことでも同じです。

 たとえば副業について言えば、就業規則の議論だけではなく、社員個人がどのような対応をすれば良いかがポイントになります。私は、(1)会社の仕事をないがしろにしない、(2)一緒に働く同僚、直接の上司とうまくやること――2点が最低限の条件だと思っています。

 仕事さえ怠けなければ、言われるほど皆に知られることはありません。私は7年前、朝日新書で顔写真を出しました。当時は会社に所属していたので「これは皆が知るところになるかな」と思ったけれど、誰も気づきませんでした。普通は「俺はこんなことやっている」と自分で言わなければわからない(笑)。

 そして「仕事に注力する自分」「仕事以外の関心あることに取り組む自分」「家族や友人を大切にする自分」など、多様な自分を同時に抱え込んでいることが定年後に活(い)きてきます。私自身の体験や人事の仕事をした経験を踏まえて、定年前の方に「助走」の仕方を伝授できればと思っています。ここでは会社での仕事の効率が上がることも大切です。

助走がなく60歳を超えた男性の「笑えない現実」

 逆に、「助走」をせずに60歳を超えると、次のステップはそう簡単ではありません。

 私は50歳から助走をしていたのですが、準備を何もせずに定年退職した男性は、こう話してくれました。「当初はものすごい解放感があり、気持ちが上がる。でもその後は、働こうと思っても就職先が決まらず、ぐわーんと落ち込む」

 私は現役サラリーマンだった2006年、大阪で研究会を立ち上げました。今も2カ月に1回のペースで開催しています。参加者は毎回10~20人、サラリーマンや教職を退職した方、または現役の人など様々で、多くは男性です。地域でシニアを対象にセミナーなどを行っている男性は、この研究会で「一人でここに来る男性はある程度大丈夫です。一方で、会社以外に足を運ばない男性が多く、そういう人はしんどくなってしまう」と話していました。

(聞き手・吉浜織恵 写真・山本和生)


 ベストセラーになった「定年後」(中公新書)の著者、楠木新さん(63)に、人生後半をどう生きるかについてインタビューし、2017年9月5日付朝刊のReライフプロジェクト特集面に掲載しました。(「第二の人生を『いい顔』で」)。
 紙幅の制約で盛り込めなかった話を、ウェブ特別版の「楠木新インタビュー余録」として紹介しています。最終回は、主に男性が、定年後に居場所やつながりをつくる「一歩」を踏み出すヒントです。

楠木 新さんインタビュー余録
(上)定年後は80,000時間!? 人生後半、伸びるのはこんな人
(中)50歳からの「助走」のススメ
(下)定年後に「一歩」踏み出すヒント

楠木 新(くすのき・あらた) 作家。1954年生まれ。生命保険会社に勤務していた時代から楠木新のペンネームで執筆。「定年後」「人事部は見ている。」など著書多数。中高年以降に、会社員から独立した転身者を、朝日新聞be(2007年3月~2008年3月)に「こころの定年」というコラムで一人ひとりを紹介した。

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