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定年後を変える「働き方」、高齢化ベッドタウンでの挑戦 

高齢社会共創センター長・秋山弘子さんインタビュー(2)東大流・社会実験

更新日:2018年12月25日

 長寿社会の課題解決について、今、二つの取り組みをしています。ひとつは千葉県柏市で取り組んでいる長寿社会のまちづくり。もうひとつは、昨年の1月に始めた、神奈川県鎌倉市の「リビングラボ」です。

●名刺がない定年世代、やっぱり仕事

高齢社会共創センター長 秋山弘子さん
 柏市は典型的なベッドタウンで、市民の多くが東京に通勤しており、朝早く出て、夜遅く帰ってくるまち。柏都民と言われる人たちです。団塊世代の人たちが退職されて、終日、柏市で過ごすようになりました。皆さん、お元気です。健康で知識、お仕事関連のスキルやネットワークをお持ちですが、日中に柏にいたことがないので、何をしたらよいか分からない。しかも名刺もないとなると、外に出て何かを始めるのが億劫なのです。

 家でテレビを見て、時々犬の散歩をしたり、ジムに行く。家にこもっている人が多い。どうにかできないかと思ってヒアリングすると、結局「仕事があれば出やすい。かつては、朝ご飯食べたら仕事に出ていたから、その延長で」とおっしゃいます。「だけど、東京まで行って夜遅く帰ってくる生活からは卒業したい」と。そこで、地域で、徒歩か自転車で行けるような距離に、なるべくたくさん働く場をつくろうということになりました。

●自由時間も、身体機能も 個人差が大きい

 セカンドライフは、マラソンの後半戦と同じで非常にばらつきが大きいのです。身体機能も認知機能も。自由になる時間も、24時間自分の時間の人もあれば、介護やお孫さんの世話で時間の制約がある人もいます。価値観やライフスタイルも違う。したがって、セカンドライフにふさわしい柔軟な働き方、それぞれが無理のない範囲で、もっている能力を活かして働ける、そういうセカンドライフの働き方の開発する必要があります。そこで、まず、近場に働き場をたくさんつくることと、働き方を変えることから始めました。

 働き場をつくるためには、地域資源が鍵です。柏市の場合、利根川流域の肥沃な農村だったところなので、農業がひとつ。近年は夫婦で通勤している若い方が多く、学童保育のニーズが高いので、教育関係の仕事も可能性があります。なるべく地元の事業者に雇い主になっていただいて、最低賃金は必ず払うけれども、そこからは仕事によって違うという仕組みでやっています。

 社会実験なので、就労前と就労してから半年後、1年後に筋肉量や認知能力、人の繋がりなどのデータを集めて、就労が健康に与える影響を評価しながら介入を進めています。そうした成果をまとめて、国に政策提言をしました。国会で法案が通り、予算をつけて、このような取り組みを全国に広げようということになりました。「生涯現役地域促進事業」という名称で、モデル事業を毎年募集しています。現在、全国で40あまりの自治体が助成金を受けて事業を展開しています。

 地域包括ケアについても、「柏モデル」と言われている方式を構築しました。本にまとめて、それが下敷となり、他のまちでの包括ケアの参考になることを願っています。

●「ごく普通のまち」だから、柏で

 社会実験の場所に柏市を選んだのは、ごく普通のまちだからです。「あのまちでできるなら、うちでも」と思うようなまちを選びました。地方では福井市と隣接する坂井市がフィールドです。

 何に苦労したかと、よくきかれますが、一番難しかったのは、産学官民の協働体制をつくることでした。そこができないと、なかなか前に進めません。すべての組織が縦割りです。大学も、役所も、企業も縦割り。責任の投げあいになったり、同じ言葉使っていると思っていたら、学問分野が違うと全く違う意味で使っていたりする。最初は自分の研究を空に向かって話し、互いに他の人の話は聞いていないというような(笑)。異なる知識やスキルを持っている人たちが連携して同じ課題を解決する協働体制ができると、個々にやるよりもずっと大きな事ができきます。

 マルチステークホルダー、産学官民の協働体制を創るノウハウを柏で築いたのは、時間がかかりましたが、大きな成果でした。

 さらに昨年から、鎌倉市での「リビングラボ」という取り組みを始めました。東京大学高齢社会総合研究機構の取り組みは、産学連携のコンソーシアムつくって一緒に協働してきましたが、当初、多くは首都圏の大企業でした。「リビングラボ」は、オープンイノベーションプラットフォームで、特に、地方の中小企業でアイデアがあるのに後継者がいないところも一緒にやっていこうということで、メガバンクと組むことを考えました。メガバンクの法人戦略部は数十万件の法人クライアントを持っており、ほとんどが地方の中小企業です。そうやって、オールジャパンで取り組める体制を組みました。

秋山弘子 東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。1943年生まれ。ミシガン大教授、東大院教授などを経て2009年より現職。専門は老年学。活力と魅力ある高齢社会づくりを促進し、新しい価値を発信する拠点となることを目指して2017年に設立された高齢社会共創センターでセンター長として、超高齢社会におけるよりよい生き方・暮らし方や共創型の課題解決をリードしている。

 人生100年と言われる時代となり、私たちはどんな備えをすればいいのか? 東京大学高齢社会総合研究機構の特任教授で、昨年から高齢社会共創センター長となった秋山弘子さんのインタビュー詳細を4回にわけて紹介する。今回はその2回目。

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