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どの家にもホームオフィスがある、高齢化率45%の街 

高齢社会共創センター長・秋山弘子さんインタビュー(3)東大流・共創の場

更新日:2018年12月28日

 人口減少や少子高齢化は課題が多いですが、逆の見方をするとイノベーションの宝庫です。そこでつくったのが「リビングラボ」で、神奈川県鎌倉市を中心に進めています。

 リビングラボは、産学官民で、ユーザーを中心として共創するシステム。オープンな場で、大企業や中小企業、ベンチャー、自治体、大学が入り、誰でもアクセスできるデータや技術、評価方法などを共有して、イノベーションをおこしていく仕組み、オープンイノベーションプラットフォームです。

●75歳は「現代の新人類」 その知恵で街を変える

高齢社会共創センター長 秋山弘子さん
 私たちは、「長寿社会の課題を解決するための『リビングラボ』」を目指しています。具体的な活動としては、まず、「ユーザーが不便に感じていること」「やりたいが、できないこと」を洗い出して解決することです。ごく最近まで、75歳以上の人はそんなにいませんでした。いわば、現代の新人類です。

 「こんなはずじゃなかった」「こんなことができなくなった」ということがたくさんある。そういう課題を出してもらいます。人生100年になると多様なライフデザインが可能になって、あんな生き方したい、こんなことしたいという夢が膨らみますが、、今のところ、そのニーズにモノやサービスがついていっていません。

 まず、そうしたユーザーのニーズの掘り起こしを、産学官民で一緒に行います。それを分析して課題を設定し、解決策のアイディア出しをします。それをいくつかの具体的なコンセプトに落としていきます。それをもとに、企業がプロトタイプをつくって、生活者に徹底的に実際の暮らしの場で使ってもらう。そうするといろいろな問題点が出てきます、使いにくいとか、かっこわるい、使う気にならない、とか。そういう改善点をリストアップして、企業に返して、改善して、再び生活の場で徹底的に使って検証するというPDCAサイクルを回して、使いやすくてアクセスしやすく、値段も手頃、というものができたときに市場にだしていきます。

 東大中心に産学官民のステークホルダーと、最初にリビングラボをはじめたのが鎌倉市の今泉台という地域です。この地域は、昭和40年代に開発されたすばらしい住宅地ですが、JR大船駅からバスで20分ほどで通勤に時間がかかるため、最近の若い夫婦はあまり住まなくなり、高齢化率が45%近くなっています。5000人くらいのコミュニティです。

●「若い人が住みたいまちに」

 リビングラボでは、住民課題の解決、行政課題の解決、企業課題の解決の三つタイプのプロジェクトを同時に走らせて、長寿社会の課題を多面的に解決することを目指しています。

 たとえば、今泉台の住民の皆さんと話すと、高齢者も若い人も共通の望みは「若い人が住みたいまちにしたい」ということでした。ならば、そうした住民課題を解決しようじゃないかということでスタートしました。いろいろな解決案がでましたが、テレワークが推奨されているので、テレワークの理想的なまちにしようということになり、そのためにどうするかを産官学民で考えました。

 「テレワーク」という解決案にまとまるまでの過程では、大学が情報面で支援しました。「住みたいまち」はどんなまちか、鎌倉市の強みや弱み、隠れたまちの資源の掘り出し。全国から情報を集めて解決策をいくつか提示します。でも、住んでいる人がピンと来なければ始まらない。決めるのは生活者です。

 町内は全て戸建ての住宅地です。開発された時代を反映して、どの家にも応接間がありますが、今はあまり使われていません。、「これからは、応接間はいらない。どの家にも、すてきなホームオフィスがあるまちにしよう」という解決策が住民の方々の心を捉えました。もうひとつ、家で閉じこもって働くだけでは気づまりで疲れるし、幼い子どもがいると集中できないので、託児施設やカフェもあって、コワーキングスペースと会議室のあるサテライトオフィスをつくろうという話になりました。

●住民の課題解決、企業が名乗り

 この段階で企業に呼びかけると、大手のオフィス家具メーカーが「これからの時代は、従来の企業内オフィスだけではなく、在宅やモバイルという新しいワークスタイルも考えて製品開発をする必要がある」と手を挙げました。同じように、住宅企業やICT企業からも手が挙がりました。そういう形で、複数の企業が参画し、住民(ユーザー)を中心に大学や行政もバックアップして、課題解決の共創、イノベーションの場となっています。

 最初は、子育て世代、リタイア前の世代、リタイアグループの3つで、自宅にどのようなホームオフィスがあるといいか、ワークショップで企業や大学、市役所も加わって議論しました。ワークショップで議論したデータを分析して3つくらいの解決策にまとめました。それを具体的に家具に落とし込んだら、どんな家具になるのか、、オフィス家具企業事業部ののデザイナーが「皆さんが言っているのは、こんなものですか?」と、専門性も入れながら、段ボールのプロトタイプをつくってきました。

 それを囲んで住民メンバーが座ってみたり、PCを置いて仕事のしやすさをチェックして、「プライバシーはあるけど、ある程度外に開かれていた方がいい」とか、「ここは取った方がいい」「高い方がいい」「低い方がいい」などと、それぞれに自分の家を想像しながら、色々意見だしをしました。それを踏まえて企業がつくった試作品を、住民が家に持ち帰って実際に使ってみる。使った後に持ち寄ったら、部屋の照明を使う予定のデスクだったはずなのに、住民が勝手にデスクの壁に照明をつけていました。そこでまた、照明はここがいい、あそこがいいという議論になる。

 ワンルームマンションに住んでいる人は、オン&オフで開いたり閉じたりして使う。開くと仕事机になるし、パタンと閉じると場所をとらず壁のようになる。介護するときにはベッドのそばに持って行くこともできる。当初想定していなかった様々な使い方が住民のアイデアで出てきました。企業事業部の担当者はそういう姿を見ていると、自信を持って製品開発を進められると話していました。

●生活の場で徹底してテストする

 リビングラボの共創は、ユーザーの生活の場におけるニーズから出発します。企業で独自に開発した新商品のテストをしてくださいという要望もありました。実際に家に持ち帰って使ってもらうと、想定外の使い方をする。「こんな使い方もするんだ」となると、次のアイデアが出てきます。大きなイノベーション、小さなイノベーション、いろいろありますが、生活の場で徹底してテストすることが、これまでの企業の商品開発と決定的に異なると思います。

 ユーザーって、すごいですよ。家具が完成したときに、今泉台でオープンラボデーを開いて一般公開をしました。100人近い人がきて、元々は企業の事業部の方が家具の説明をする予定でした。ところが、最初に、住民メンバーに「感想を」と水を向けたところたところ、住民の方が喜々として、どのようなきっかけで発案し、どのように改善をしていったか、製品開発のプロセスをこまごまと、具体的に説明していくんですね。自分たちがつくった、と。

 行政課題の解決も同時並行で進めています。課題は市民と行政による政策の共創を実現することです。行政はこれまでも政策立案に市民の意向を反映させる努力はしてきましたが、アンケート調査をするとか「100人会議を開く」とか、ご意見拝聴にとどまっていたのではないでしょうか。

 私たちは今、鎌倉市全体を「テレワーク」のまちにする、という産官学民による政策づくりを始めたところです。近隣市町村の人のなかには、東京に通勤するよりも、近場の鎌倉に通勤する方がよいという人たちも少なくありません。鎌倉市は、古都というだけでなく、「働きたいまち」、そういう意味での集積地を構築する施策について、はじめから市民が関わる形で政策づくりをする共創をはじめています。行政がつくったものに文句だけ言うのでなく、「一緒にやろう」と。

秋山弘子 東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。1943年生まれ。ミシガン大教授、東大院教授などを経て2009年より現職。専門は老年学。活力と魅力ある高齢社会づくりを促進し、新しい価値を発信する拠点となることを目指して2017年に設立された高齢社会共創センターでセンター長。超高齢社会におけるよりよい生き方・暮らし方や共創型の課題解決をリードしている。

 人生100年と言われる時代となり、私たちはどんな備えをすればいいのか? 東京大学高齢社会総合研究機構の特任教授で、昨年から高齢社会共創センター長となった秋山弘子さんのインタビュー詳細を4回にわけて紹介する。今回は3回目。

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