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大企業のイノベーションの壁、突破する共創の場に 

高齢社会共創センター長・秋山弘子さんインタビュー(4)東大流・オープンイノベーション

更新日:2019年01月08日

 神奈川県鎌倉市で2017年から始めた「リビングラボ」は、元々ヨーロッパで広がった取り組みで、1000以上のリビングラボがあります。しかし、ヨーロッパからそのまま持ってきても、日本には馴染まないので、日本社会や企業文化にも馴染むようなスキームをつくり、持続するビジネスモデルをつくることに取り組んでいます。

●課題がある生活の場=ラボの可能性

高齢社会共創センター長 秋山弘子さん
 ラボというと普通、試験管がある化学のラボを想像しますが、リビングラボは、「人が生活しているところがラボだ」という発想です。産学官民で、ユーザーを中心として共創するシステム。オープンな場で、大企業や中小企業、ベンチャー、自治体、大学が入り、データや技術やスキルを入れて、イノベーションを起こしていく仕組み。オープンイノベーションのプラットフォームです。

 ラボは、課題が集積しているところにつくるべきです。どのまちにもあればいい、たくさんあればいいというものではありません。たとえば、東京の場合、大都市ならではの課題があります。災害時にリスクが高い過密住宅や貧困の問題など、ニューヨークやロンドンにも共通するかもしれません。また、環境問題など、異なる課題があるところにはつくったほうがよい。しかも、それを産業化していくことが大事です。課題がないところには、イノベーションは起きませんから。

 私たちの場合は大学が主導しているリビングラボの例ですが、自治体や企業が主導しているところもあります。いろいろな形があってよいと思います。

●経営トップダウンも、プロトタイプ試験も

 人口の高齢化はグローバルな現象であり、課題が山積していると同時に世界に市場が広がっています。イノベーションの宝庫です。持ち込まれる企業の課題は、移動手段のプロトタイプをつくったからテストしたいという段階で持ち込まれる事例もあるし、社内の未来研究所にトップダウンで「今までやったことないものをやれ」と言われて、とにかく住民とゼロから考えるところもあります。これが移動手段になると、規制も関わってきます。長寿社会に対応した移動手段を開発し、シニア市民が自立して社会と繋がって暮らしていける社会を実現するためには規制を変えることは行政の役割です。

 他の事例としては、日本の個人資産の多くはシニアが保有していますが、全然動かない。金融機関はパンフレットの字を大きくしたり、付帯サービスをつけたりしても、あまり動きません。なぜ資産が動かないかをユーザーレベルで徹底的に探りたいと言ってこられたところもあります。食品会社も、75歳以上が増えたら、今までと同じ食品や調理方法というわけにいきません。

 これまでも、企業はイノベーションへの取り組みをやっていましたが、うまくいってはいませんでした。初めは企業内に立派なイノベーションセンターをつくった。次に、オープンイノベーションと言われて、外に出て行ったり、大企業がベンチャーと連携を試みました。しかし、実際にやってみると、意志決定に要する時間が大企業とベンチャーでは、大幅に違います。ベンチャーは待っていられません。ということで、実際にはうまくいかない。

●生活者は生活のプロ 仕事としての関係

 今、求められているのは、オープンイノベーション、イノベーションのネットワーク、エコシステムです。場があって、そこに、みんなが出入りする。自由度がある。これが一番よい。ヨーロッパでは多くのイノベーションがおきています。日本は、大企業の1社自己完結型で遅れをとってきましたが、最近は大企業も動き出しました。

 リビングラボの運営は簡単ではありません。鎌倉市今泉台の取り組みでは、町内会の元役員だった方々が積極的に動いてくれました。大学がコンセプトやワークショップなど進め方を決めて、NPOに委託します。NPOは、参加住民をリクルートしたり、集まる場所を設定したり、計画どおり参加するかや試作品を指示どおり使っているかを確認したり。コミュニティビジネスとして運営できるようにしています。高齢者の働く場にもなります。

 住民参加者にも、1時間に1000円程度の報酬を支払っています。生活者は、生活のプロ。プロとしての経験やアイデアを提供していただき、時間も提供していただくわけですから、それに報酬を支払い、プロの仕事として責任を持ってやっていただくのがよいと思っています。

 その方がリクルーティングもしやすい。ボランティアだと、ボランティア精神のある人だけに限られてしまいます。普通の生活者の声を代弁できる人、ほんとうにニーズがある人、色々な人を集めるためには、仕事の方がいい。元気で毎日の予定表が埋まっている人や健康オタクばかりでは、本当のニーズは分からないのです。商品開発の際の報酬は企業が負担しています。しかし、多くの人は報酬のためにやっているのではなく、新しい製品やサービスの開発に参加することが魅力です。

秋山弘子 東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。1943年生まれ。ミシガン大教授、東大院教授などを経て2009年より現職。専門は老年学。活力と魅力ある高齢社会づくりを促進し、新しい価値を発信する拠点となることを目指して2017年に設立された高齢社会共創センターでセンター長。超高齢社会におけるよりよい生き方・暮らし方や共創型の課題解決をリードしている。

 人生100年と言われる時代となり、私たちはどんな備えをすればいいのか? 東京大学高齢社会総合研究機構の特任教授で、昨年から高齢社会共創センター長となった秋山弘子さんのインタビュー詳細を4回にわけて紹介する。今回は最終回。

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