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女の人生を映す伝説のシャンソン、隠された意味は…… 

映画『バルバラ~セーヌの黒いバラ~』主演のジャンヌと歌手クミコが対談

更新日:2018年11月13日

 戦後、フランスで国民的人気を誇ったシャンソン歌手バルバラ(1930ー97)の人生をテーマにした映画『バルバラ~セーヌの黒いバラ~』が11月16日から順次公開される。このほどバルバラ役の女優を演じたジャンヌ・バリバールさんが来日し、バルバラの名曲をレパートリーの一つにする歌手クミコさんと都内で対談した。2人の話題は、伝説の域に達しているバルバラの思い出から、隠された歌詞の意味や、最近の男女間の微妙な問題にも及んだ。

ジャンヌ・バリバール(左)とクミコ(C)You Ishii

バルバラは常に私のそばにいた

(バルバラとはいったいどんな人物なのか。お二人に伺ってみた。)

クミコ: シャンソンを知っている人にとっては宝物のような人です。日本人にフランス語の歌詞は難しいと思いますが、彼女のメロディーラインは独特で、一度聴けば彼女のものだとすぐに分かるほど際だった違いがあります。曲を聴けば知らない人も若い人も好きになると思いますが、残念ながら一般的にはあまり知られていないですね。

ジャンヌ: コンサートなどで彼女を見たことがありますか。

クミコ: 2度あります。最初は80年代だったかな、日本で初めてテレビでバルバラが紹介されたころでした。とても美しい姿が印象的で、深くて美しい声をしていた。目が釘付けになりました。2度目は1990年に来日したとき。言葉は悪いのですが、魔女のような姿で、声もあまり出ていなかった。

ジャンヌ: あのころは病気だったのね。私の場合、バルバラとともに成長したともいえます。7、8歳のころ自宅に彼女の45回転のレコードがあって聴いていました。10代のころも、少女から大人になる18~20歳のころも、常に私のそばにいて成長するのを伴奏してくれていたという感じです。彼女の歌詞は大人になる私の背中を押してくれました。

クミコ: 日本語でシャンソンを歌っていると、日本とフランスで歌詞の違いがとても大きいと常々感じています。私はバルバラの『わが麗しき恋物語』を日本語で歌っているのですが、歌詞はバルバラの世界の言葉とは全く違った、日本語による「作詞」になっています。
 かいつまんでいうと、バルバラの歌詞では、一時離れた初恋の男性との愛を取り戻す物語なのですが、日本語の歌詞では、相手は死んでしまって女性が昔を振り返るという物語に変わっています。

ジャンヌ: まあ。

クミコ: 日本人には、原語に忠実に訳すとかえってわかりにくいことがある。日本の言葉でかみ砕かないと、歌詞の意味が伝わらないことがある。おそらくバルバラの歌詞はフランス人の血の中にあるような言葉なのでフランス人には理解できるのでしょうが、日本人には理解しにくいこともある。だから日本語の達人である作詞家が、バルバラの世界観を残しつつ、日本人にわかりやすいように日本語の歌詞をつくってくださった。

ジャンヌ: すごく興味深いお話ですね。

クミコ: 日本で最も有名なシャンソンの曲『愛の讃歌』もエディット・ピアフがつくった原曲の歌詞とはまったく違っていることで知られています。原曲は、愛のためなら祖国を裏切ることもいとわないという内容ですが、日本人の作詞家がつくった日本語の歌詞だと、あなたとともに生きていくなどと甘い歌詞に変わっています。

ジャンヌ・バリバール(C)You Ishii

自分の人生と重ね合わせて歌える

(バルバラに敬意を表すジャンヌさんに、映画でバルバラの人生を演じる女優役をどう演じたのか、聞いてみた。)

ジャンヌ: とても感動的な経験でした。すでに亡くなったバルバラをよみがえらせる作業であり、私の幼少時代、あるいは私の青春をもう一度振り返って呼び戻すという作業でもあったからです。

クミコ: ジャンヌさんは、本当にバルバラに密に関わって成長してきたのですね。

ジャンヌ: 映画の挿入歌ではないのですが、私が好きなバルバラの自作曲に「私の幼いころ」という歌があります。内容は、幼少時代に過ごした場所に戻ってきたけれど、間違いなのかもしれない、そこには、私の心を切り刻むような思い出しかないから、という歌です。この歌が好きなのは、この歌には真実があるからです。過去のことを振りかえってはならないのは真実だと思うからです。
 この映画は過去を振り返るものですが、どっぷりと過去に浸ってしまうのとは違うものです。だから、私は、過去を振り返りつつも現代の作品として楽しく仕事をすることを撮影のときに心がけていました。
 おそらくクミコさんも、バラバラの歌を歌いながら同じような経験をされていると思いますが、バルバラの曲は濃密で激しくて、それでいてすごく繊細な部分がありますよね。しかし、それを女優として、あるいは歌い手として彼女と同じように演じたり歌ったりすることを期待してはいけないと思います。むしろ、バルバラはどんな状況で、どんな気持ちで歌っていたのか、ということを想像しながら、自分の人生と重ね合わせて歌うことはできると思います。バルバラの歌はそういうものだと思います。
 だから日本語の訳詞で歌の内容が変わっていたとしても、そこにバルバラと同じような激しさであるとか繊細さを感じさせるものであれば、とてもいいと思います。

クミコ: それこそがバルバラのまさに根本ですね。だから言葉が違っても私たちは心がひかれるの。例えば『黒いワシ』には抽象的な言葉がたくさん並んでいて、実は歌い手の私でさえ「これはどういう意味なのだろう」と思いながら歌っているところもあります。おそらく聴き手も同じ気持ちだろうと思うのですが、それでもこの曲を歌うと、聴衆はすごくよろこんでくれる。それが私にとっては謎なのです。七不思議の一つといっていいくらい。

ジャンヌ: いまでこそ周知の事実となりましたが、『黒いワシ』の歌詞には、彼女が小さいとき父親に暴力を受けたことが秘められているのです。フランス人も随分長い間、この曲の秘密の意味を知りませんでした。

クミコ: 私たち日本人はそうしたバルバラの個人的な暗い過去は全く知らないのに、あの歌を聴くと聴衆はものすごく感動する。もしかすると、国とか言葉を超えたバルバラの「心」がメロディーの美しさとともに伝わるからかもしれません。

ジャンヌ: だからこそ彼女は、口に出して言葉で語ることができないので、音楽に乗せて語っているのかも知れません。
 ただ映画では、その隠された事実についてはあえて触れていません。バルバラは生前、その秘密を公表しませんでしたから。

クミコ(C)You Ishii

若い女性こそ聴いてほしい歌詞

(実はジャンヌさんには過去に何度もバルバラ役のオファーが寄せられていたという。)

ジャンヌ: ずっと若いときにも誘いはありました。そのとき私が若くて勇気がなくて、「私にはまだ無理だから」と断ったのではありません。芸術的にバルバラにふさわしくないプロジェクトだと感じたからです。
 バルバラの音楽は特に若い女性に訴えかけるものです。若い女性は、バルバラの歌を通して、女性の人生がどんなものなのかを、なんとなく理解します。周囲から期待されるもの、レールが敷かれているもの、そんなことを若い女性はなんとなく気づいている。ある意味、若い娘は清少納言の時代も今も変わらなくて、そういった若い女性の気持ちをバルバラはうまく表現している。

クミコ: 私がバルバラの曲をちゃんと歌い出したのは40代になってからです。それまで聴いてはいましたが、ちゃんと歌い出すまでには至らなかったですね。

ジャンヌ: 至らなかったとは、技術的なことですか?

クミコ: 歌っちゃいけないもの、聴くものだという意識がありました。日本語のいい歌詞との出会いがなかったという事情もあります。たとえ分かったフリをした日本語訳の歌詞で歌ったとしてもだめだったでしょう。
 さきほど、ジャンヌさんが「若い女の人にもわかる歌詞」とおっしゃったけれど、おそらく日本語の歌詞で新たに構築しなければ「人生とは」というところまで伝える歌にはならない気がする。いま私が歌っている歌詞とは違うものなのでしょう。

クミコ(左)とジャンヌ・バリバール(C)You Ishii

「#me  too」の先に

(最後に、自分の人生を自分らしく生きたいと思う女性に向かってエールを送っていただこうと思ったら意外な展開に……。)

ジャンヌ: 私にはあまり励ましの言葉はないわ。私はとても悲観的な人間なの。
 「#me  too」から1年になりますが、カタストロフ(悲劇)は続いています。どうしたらいいか私も途方に暮れています。女性だけが感じているのではなく男性も同じです。男性と女性がともに変えていかないといけないんです。息子が2人いますが母としてどうしようかと悩んでいます。
 あれ以来、言葉はいくつも氾濫(はんらん)していますがアクションとしてどうしたらいいのか難しい問題です。できるだけ服従しない。でも代償が大きいんです。変えていけるという期待はあります。男性をおびえさせることなく変えていく。男性には男性らしさがありますから。一緒に手を取り合って行く方向にしないと。「あれをしちゃだめ、これをしちゃだめ」と建前の制限主義みたい方法ではだめです。そんなことで変えられるとは全然思いません。

クミコ: とにかく日本ではそんなフランスの比ではありません。おそらく日本にいたらジャンヌは発狂すると思います。私もペシミストですから。

ジャンヌ: 少し励みになるのは、この問題はけっして単純ではないという状況を理解している女性がすでにここに2人いるということですね。

ジャンヌ・バリバール フランスの女優、歌手。1968年生まれ。哲学者の父と物理学者の母の子としてパリで生まれる。パリ第一大学で歴史学の修士号を取得。フランス国立高等演劇学校で学ぶ。『魂を救え』(1992年)で映画デビュー。『サガン―悲しみよ こんにちは―』(2007年)でセザール賞助演女優賞にノミネートされる。

クミコ 日本の歌手。1982年、銀座「銀巴里」でプロ活動をスタートする。『わが麗しき恋物語』(2002年)のヒットで注目を浴び、2010年には『INORI~祈り~』でNHK紅白歌合戦に初出場を果たす。松本隆が全曲作詞を手がけたアルバム『デラシネ』(2017年)で日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞した。9月、最新アルバム『私の好きなシャンソン~ニューベスト~』を発表。

                                                                ◇

映画「バルバラ~セーヌの黒いバラ~」公開記念
 シャンソン歌手・クミコ ミニライブ&トークイベント
クミコがバルバラの名曲「わが麗しき恋物語」を披露、映画やバルバラについて語ります。

・日時:11/17() 10:50の回上映終了後
・日時:11/17() 13:00の回上映開始前

 場所:Bunkamuraル・シネマ スクリーン2(東京都渋谷区道玄坂2-24-1)アクセス

 ※対象回は予告編の上映なし、本編からの上映です。
 ※対象回のお座席指定券をご購入の方が対象です。

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