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腸を健康に保つ短鎖脂肪酸、腸内細菌が作り手として活躍 

<腸サイエンスの時代>順天堂大学名誉教授・佐藤信紘さんインタビュー(下)

更新日:2019年06月29日

 遺伝子解析技術が飛躍的に進んだことで、腸が全身の健康に及ぼす影響が明らかになりつつあります。読者会議メンバーの疑問をもとに、腸内細菌に関する最新の知見や大腸を良い状態に保つコツについて、順天堂大学名誉教授の佐藤信紘さんにインタビューしました。


読者からの質問
健全な腸内環境を整える方法を教えてください(70代前半・男性)

腸内細菌は多様性が重要

 人間の腸内には数百~三千種類の細菌が40兆個ほどもすんでおり、その大部分は大腸にいます。人間の細胞の数は約37兆個といわれるので、それよりも多いことになります。腸内細菌の実態は長いこと不明でしたが、2000年以降に次世代シーケンサーという高速で遺伝子解析ができる装置が登場したことで急速に研究が進み、腸内細菌のさまざまな機能がわかってきました。

 最近では、菌の多様性があることが重視されています。よく善玉菌、悪玉菌といわれますが、常在菌の78割は何をしているかわからない日和見菌です。どの菌が良い悪いというよりも、腸内細菌全体でどういう機能を発揮するかが大事ではないかといわれています。

カギは短鎖脂肪酸

 腸内細菌の機能で一番重要とされているのが、「短鎖脂肪酸をつくること」です。たとえばビフィズス菌は、短鎖脂肪酸である酢酸をつくります。酪酸やプロピオン酸をつくる菌もいます。食物繊維は腸内細菌のエサになります。以前は食物のカスとして体に不要なものと考えられていた食物繊維ですが、腸内細菌を通じて人間の健康に役立つ働きをすることがわかってきました。

 短鎖脂肪酸の働きは多岐にわたっていますが、重要なのが腸内環境を酸性に保ち、危険な病原菌などが腸管から侵入するのを防ぐことです。

 水分や塩分の吸収を促進する働きもあります。大腸は便をつくる場所ですから、水分が吸収されないと下痢や軟便になってしまいます。塩分も体にとって必要不可欠な成分ですから、塩分を体内にとどめおくためにも短鎖脂肪酸は必要です。

 さらに、腸管から吸収されて全身の栄養にもなります。交感神経などの神経細胞には酸の受容体があり、短鎖脂肪酸もそこに結合して神経と脳を活性化すると考えられています。免疫と関係する制御性T細胞やIgA抗体をつくるのにも短鎖脂肪酸が関係しているとされます。

 腸内細菌は女性ホルモンの構造と似たエクオールという物質もつくっていて、それが全身を巡って美肌と関連することもわかっています。

 善玉菌として知られるビフィズス菌は、ビタミンB1B6B12、葉酸をつくることも明らかになってきました。長い間、ビタミンは体内で合成されず、食べ物から摂取するしかないと考えられていましたが、ビフィズス菌がいれば体内でつくることが可能です。

食事や睡眠、運動をバランスよく

 したがって、腸内環境をよくするためには、腸内細菌をバランスのよいものにすることが大切になってきます。そのためにまず必要なのが、明るく楽しく毎日を過ごすことです。ストレスがかかるとそれだけでおなかの環境が悪化してしまいます。腸内環境は生き方や考え方にも左右されるのです。

 そして、忘れてはならないのが食事と生活習慣です。食事ではヨーグルトなど発酵食品をとる一方、食物繊維を多く含む野菜や海藻類を献立に取り入れ、短鎖脂肪酸をつくる菌がたくさんいる腸内環境を目指しましょう。逆に、肉食が多いと悪玉菌が増えてきます。生活習慣では十分に睡眠を取り、ウォーキングなどの運動も習慣にするとよいでしょう。

 要は、何事も〝バランスよく〟ということが大切なのです。たとえば、食物繊維は大きく不溶性食物繊維と水溶性食物に分けられます。大腸には善玉菌のエサになる水溶性食物繊維が重要といわれますが、不溶性食物繊維も便の形をつくるのに役立っています。腸内細菌の世界でも、善玉菌も悪玉菌も日和見菌もそれぞれ役割をもちながらバランスを維持していることを知っておいてください。

佐藤信紘(さとう・のぶひろ)
学校法人順天堂理事、順天堂大学名誉教授・特任教授
1940年生まれ。大阪大学医学部卒。大阪大学第一内科助教授、順天堂大学消化器内科学主任教授、順天堂大学医学部附属練馬病院院長、大阪警察病院院長などを経て現職。順天堂大学寄付講座「腸内フローラ研究講座」代表なども務める。

 近年、遺伝子解析とデータ分析が飛躍的に進んだことで、腸が全身の健康に及ぼす影響が明らかになりつつあります。「21世紀は腸の時代」ともいわれ、免疫や生活習慣病、そして脳の健康との関係が指摘されています。連載「腸サイエンスの時代」では、専門家へのインタビューを通じて、最新の研究・知見や読者の皆さんの疑問への答えをお伝えしていきます。

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