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健康長寿には運動?社会参加? リタイア後の過ごし方 

東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢教授インタビュー

更新日:2019年07月23日

 リタイア後、何を生きがいにすればいいのだろう。これから先の長い人生を前に、ふと立ち止まって考える人たちがいます。彼らを襲うのは、先の見えない不安や目標の喪失感。でも、「焦ったり自信を失ったりする必要はない」と、健康の視点から老年医学だけではなく老年学(ジェロントロジー)の研究も続ける東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢さんに、「セカンドライフのヒント」をうかがいました。

東京大学高齢社会総合研究機構 教授・医学博士 飯島勝矢さん

健康寿命を延ばすのは運動? 社会参加?

 日常的に運動している人よりも、社会参加をしている人の方が、筋力や活力が衰えにくい——。最近、千葉県・柏市の自立高齢者約5万人を対象に行った調査結果を発表したところ、メディアなどでも取り上げられ大きな反響を呼びました。これは、柏市と東京大学高齢社会総合研究機構が以前に行った大規模健康調査の一環で、「運動」「文化活動」「ボランティア・地域活動」をしている人としていない人で、どれだけ「フレイル」になっているリスクに差があるのかを調べたものです。

 フレイルとは、年齢とともに心身の活力が低下した状態のことで、元々「虚弱」の意味です。多くの場合、健康な状態からフレイルの段階を経て、要介護状態になると考えられているため、私は「老いの坂道」と呼んでいるのですが、早い段階で対処すれば進行を抑えることができます。今回の調査結果からは、社会参加をしている人は、コミュニティーに出ることである程度体を動かしているため、結果的にフレイル予防につながったと考えられます。ランニングシューズを履いて独りで黙々とウォーキングやジョギングをするだけがフレイル予防につながる訳ではないことを示した今回の結果は、私としても非常に興味深いものとなりました。

 とはいえ、この結果が即座に「運動より、社会参加の方が重要」ということを意味するわけではありません。実際、何もしていない人は、運動をしている人に比べてフレイルのリスクが6倍になるという結果も出ていますから、運動が健康長寿に役立つことは間違いないのです。大切なのは「運動か、社会参加か」ではなく、「やりたいと思えること」「できること」を続けられるかどうか。それによって本人が充足感を得られるかどうかなのです。

これまでの人生で何を選択し、どう生きてきたか

 運動習慣がある人は、人に言われなくても運動を始めた人たちがほとんどです。彼らは体を動かさないと、生活リズムが狂ってしまうと感じています。一方、運動習慣がない人は、周りがどんなに勧めてもなかなか重い腰が上がりません。運動を日課にしている人とそうでない人の割合が、いまも昔もさほど変わらないとすれば、運動をしない人を無理やり外に連れ出して「さあ今日は何キロ歩きましょう」と言っても本人には不快でしかないのです。

 同じことは、社会参加にも当てはまります。一人の時間が好きな人に「地域の集いに参加した方がいい」と言っても、「ハイ、そうですね」となるほど物事は単純ではありません。周りが良かれと思って勧めたことでも、それが本人の程よいところにカチッとはまらなければ、むしろ逆効果。さらにいえば、それは勧めた側の自己満足でしかありません。

 つまり、人生で何を選択して、どう生きてきたかは人それぞれであり、それによってセカンドライフの過ごし方も変わってくるということです。Aさんは、会社勤めをしていた頃からリタイア後のことを考えていたけれど、Bさんは、人生なるようにしかならないし、好きなゴルフだけ続けられればいいと思っている。かたやCさんは、これまではすべてを会社に捧げてきたから、これからは家族のために尽くそうと考えている。ゴルフ好きのBさんに「もっと趣味を増やせ」と言っても「勘弁して」という話だし、家族と過ごしたいCさんにゴルフを勧めても気が乗らないのは当然です。

 あるいは、今日はゴルフだ、明日は釣りだ、あさってはコンサートだ、と忙しい毎日を送る人がいる一方で、土日だけどこかに行けばいいと思う人もいます。今日はのんびり、明日ものんびり、たまに庭で日曜大工ができれば十分だと。アクティブな人からすれば、「なんで週5日も家にいるんですか。それって閉じこもり予備軍じゃないですか。もっと人と交わらないと」ということになるのでしょうが、それはその人の価値観でしかありません。誰かを他の人のパターンに当てはめることはできないし、当てはめる必要もない。結局、一人ひとりの価値観と気質によるところが大きいのです。

すぐそこのヒントを、見つけられるかどうか

 今の時代、必要な情報は身の回りにあふれています。健康への意識さえきちんとあれば、どう過ごすかの選択肢はたくさんあります。大切なのは、そのなかから自分に合うものを選び、続けること。それがその人にとっての生きがいになり、セカンドライフを健康的に過ごす動力になります。

 最近では、インターネットを使いこなす高齢者も増え、人とのつながり方も多様になってきました。これまで公民館などに集まらないとできなかったことを、パソコンや携帯でやりとりしているのです。なかには「SNSで仲間と交流しているのですが、これも人とのつながりと言って良いのでしょうか」と質問する高齢者も出てきたほどで、数年前には考えられなかった変化です。彼らは36524時間インターネットから離れないわけではありません。「今度、絵画展に行かない?」と仲間に呼びかけ、10人中数人でも「行く」となれば、みんなで絵画を見て、デパ地下を練り歩き、どこかで食事をして解散する。結果的に、外に出たり、体を動かしたりすることにつながっています。

 メッセージのやりとりが若々しいことにも驚かされます。同じ活動をしている仲間がチームを代表して他県に出向くにあたり「頑張ってこいよ!」と、まるで若者が野球の選抜チームを送り出すようなメッセージが飛び交っているのです。

何に満足できるか、行動パターンには男女差がある

 もちろん、こうしたつながりをどう感じるかも、人によってまちまちです。さらに、男女差もあります。多くの女性は「あそこのレストラン、おいしかったよね」という会話自体を楽しみ、共感できるのに対して、男性は「大義」や「目的」が見いだせないとなかなか行動に移せません。私は、全国で「フレイルサポーター」というボランティア活動を展開しているのですが、ここでは半数近くを男性ボランティアが占めています。なぜ男性の参加率が高いのか。それは、皆で高い頂を目指しながら、活動の意義を明確に示しているからに他なりません。

 リタイア後の過ごし方が健康寿命に関係するとはいえ、趣味がないからといって焦る必要はないですし、周りの情報に振り回される必要もありません。健康は心身のバランスが取れてこそ得られるもの。繰り返しにはなりますが、自分が心地よいと思えること、納得してできることを、継続することが大切です。そういう意味では、できるだけ早いうちから、数ある選択肢に目を向け、自分に合うものを見つけ出す感受性を鍛えておくことは大切だと思います。

 ◇

飯島勝矢(いいじま・かつや) 東京大学高齢社会総合研究機構教授

医師の立場から、老年医学、総合老年学(ジェロントロジー)を研究。「虚弱」を意味する英語が語源の「フレイル」という概念を広め、その予防に努めている。

昭和男 定年道半ば の連載

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