SDGs ACTION!
コロナ危機で変わる社会

新たなコミュニティーが生まれる ポスト・コロナの地域社会に可能性 神奈川・黒岩知事

新たなコミュニティーが生まれる ポスト・コロナの地域社会に可能性 神奈川・黒岩知事
撮影・村上宗一郎
神奈川県知事/黒岩祐治

2011年の知事選に立候補した時から、「いのち輝く神奈川」を掲げてきました。「命」ではなく「いのち」にしたのは、そのほうがイメージの広がりがあるからです。医療だけでなく、食、環境、教育、街づくりなどあらゆるものがリンクしないと、「いのち」は輝かない。国はたて割りになりがちだから、地方でモデルを作ろうと取り組んできました。

15年に国連がSDGsという考え方を出した時、17の目標を見て「これは『いのち輝く』と同じじゃないか」と思いました。そこで、これまでの取り組みをSDGsのコンセプトに合わせて整理し直し、全庁をあげて推進中です。

災害訓練役立つ

コロナ危機では、その取り組みが生きました。ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に着岸し、いきなり多くの感染者を受け入れなければならない状況となりました。最初、「国の仕事ではないか」とも思ったけれど、われわれは反射的に動きました。知事になってから毎年実施していた緊急医療支援訓練が役立ちました。自衛隊の医療部隊、在日米軍、DMAT(災害派遣医療チーム)が渾然(こんぜん)一体となった活動で、本来は大規模災害を想定したものですが、今回のコロナも強引に「災害」と位置づけ、県としてDMATの派遣を要請しました。彼らが頼りになりました。

感染者は、中等症がもっとも多いが、軽症の人、無症状の人にも対応しないといけない。しかし、患者をみんな受け入れたら、医療崩壊が起きる。そこで、中等症を受け入れる重点医療機関を確保するとともに、軽症は宿泊療養施設や自宅にといった形で整備しました。この体制は、「神奈川モデル」として全国に広がりました。

コロナ問題は本来、国が前面にでて県が協力するのが一番いいと思っていました。ところが、特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)は、知事に権限を下ろす仕組みになっている。知事が「休業要請」をすれば、必ず補償の問題が出てくる。この点をクリアして欲しいとずっと言ってきたのですが、体制ができないまま本番に突入してしまいました。

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撮影・村上宗一郎

国・地方の権限不明確

当初は「外出自粛」をまず要請するはずだった。ところが、東京都が国を押し切り、いきなり「休業要請」になった。都は協力金も50万~100万円と、どーんと出した。財政力が違います。こちらは上限30万円で、苦い思いを味わった。軍資金も兵糧もなく、責任だけを負わされる感じでした。緊急事態宣言が解除になっても、国と地方の権限がそれぞれどこまでなのか、よく分からないままでした。

解除後、事業所にどう対応するか考えどころでした。現場の話を聞くと、店によって感染対策の努力に違いがある。パチンコ店などは、どんなに対策を講じても「業界でひとくくりにされ、仕事が始められない」との不満も抱えていました。

考えた末、業種別はやめて一律に解除しました。各業界のガイドラインに基づいて店がとっている具体的な感染防止対策を、県が作った「感染防止対策取組書」(下図)に記載し、掲示してもらう仕組みを作りました。対策を「見える化」し、県民が店を選ぶ形にしたのです。お店と県民を「信じる」という取り組みでした。

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「取組書」(見本)

より良い復興で変化も

世界は、新型コロナとの戦いのただ中にいます。7月にオンラインで開催された国連「SDGsハイレベル政治フォーラム(HLPF)」も、コロナがテーマでした。各国の閣僚や専門家が参加するこの会合に招待され、スピーチしました。「いのち輝く」(Vibrant “INOCHI”)は、生きがい、健康長寿、笑い、良い環境、コミュニティーなどで成り立つSDGsそのものであり、「ビルド・バック・ベター」(より良い復興)に向けて、「ミッション(意欲)、パッション(情熱)、アクション(行動)」で、ともに取り組もうと呼びかけました。

アフター・コロナで社会は大きく変わるでしょう。在宅勤務がこれだけできたのだから、高い家賃で都心にオフィスを借りる必要もなくなるかもしれない。

実は、神奈川県は全国で県民の通勤時間がいちばん長いんです。しかし今回、苦労して通勤しなくても、湘南の海で朝サーフィンした後に自宅で仕事、なんてことができた。三浦半島で農業体験をしながら仕事もできた。「ちょこっと田舎」暮らしをしながら仕事ができ、いざという時には都心にも行ける。それが神奈川です。

これから、いろいろなチャンスも生まれてくると思います。人々が地域にいる時間が長くなれば、新たなコミュニティーも姿をみせてくるでしょう。そのコミュニティーを育てていく上で、SDGsの発想がまた生きてくると思っています。

(聞き手・金本裕司)

神奈川県の取り組み
特設ページで地域のアクションを支援

新型コロナの感染拡大で、大きな打撃を受けた一つは飲食業だ。客足が遠のき経営の成り立たない店が出れば、地域社会にも大きな影響が生じる。

そんな中、県SDGs推進課が目をつけたのは、弁当など「テイクアウト」をPRしようという地域の取り組みだった。

最初に目にしたのはフェイスブック(FB)上に展開されていた「茅ヶ崎foodaction」。市内のどの店で、どんなテイクアウトができるか紹介し、お店を応援しようという試みだった。「いろんな街の取り組みを、県がまとめて紹介すれば、より効果が出る」(山口健太郎・いのち・SDGs担当理事)と考え、政府が緊急事態宣言を出した翌日の4月8日、県庁ホームページに「【特設ページ】SDGsアクションで新型コロナウイルス感染症を乗り越えよう」というコーナーを開設した。

紹介するのは「いせはらテイクアウト大作戦!」「平塚お弁当まっぷ」など。クリックすると地域のサイトに飛ぶ。掲載数も徐々に増え、7月末で79に。食べ物だけでなく、ワークショップや地域の活動紹介にまで広がっている。

県が意識したのはSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」だ。「今回はコロナ対策でスタートしたが、地域の課題解決につながっていけば、それはSDGsだと思います」(山口理事)と話している。

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地域を応援する県庁ホームページの【特設ページ】
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「いせはらテイクアウト大作戦!」
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「茅ヶ崎foodaction」FB
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