SDGs ACTION!
コロナ危機で変わる社会

グローバル社会の危機 新しい移動のあり方模索

グローバル社会の危機 新しい移動のあり方模索
撮影・村上宗一郎
CO₂排出 2050年に実質ゼロに
日本航空社長 赤坂祐二

新型コロナウイルスの感染拡大は、航空産業に大きな影響を与えています。

航空産業はこれまで社会や経済のグローバル化を支え、成長してきました。このグローバル化が今度は感染拡大に拍車をかけることになりました。

感染拡大に手を貸してはいけない。世界的な感染を止めなければいけない。航空の安全・安心を守るという従来の責務にとどまらず、移動そのものを止める対応が必要になったのです。

私たちは2月以降、国際線の多くを運休し、国内線も一部運休や減便をしています。事業の継続が危機にひんしているのはもちろん、グローバル化が進んだ社会・経済全体の危機でもあります。

コロナ危機への対応は、SDGsで指摘されるリスクシナリオの典型例ではないでしょうか。グローバル化がもたらす副作用を減らしながら、どのように事業を継続していくかという課題です。

航空会社は人の移動がリスクを抱えることを「自分ごと」として捉え、社会的使命として感染を広げない努力をしなくてはいけない。一方、必要な移動と物流を守るという使命のためにすべての飛行機を止めるわけにいかない。止めることと止めてはいけないことを同時に進める必要があるのです。

座席にマスク

コロナ危機では医療関係者の移動が増えました。絶対不可欠な移動を最低限確保するため、医療関係者が移動しやすい朝や夕方の時間帯を考慮したダイヤにもしました。

物流の確保も大切です。とくに生鮮品は流通が滞ると影響を受けやすいので、しっかり運ばなければならない。旅客機に貨物だけ載せた貨物専用便を飛ばしました。また初めて座席に貨物を置くこともしました。座席に置いたのは中国からのマスクです。こうした貨物専用便は、5、6月は国際線で月に約1000便以上、国内線も約300便になりました。

飛行機が飛ばなければ、社員が働く場所もなく、フラストレーションもたまります。単に在宅勤務で家にいるからつらいということではなく、社会の役に立っていないという意識が強いのです。若い社員を中心にコロナ危機で何かお手伝いしたいと話し合い、マスクをつくる、フェースシールドをつくるといったアイデアが出てきました。

廃材を利用して整備士が製作したフェースシールド(提供写真)
医療現場に客室乗務員

客室乗務員のなかに看護師資格を持っている社員がいました。医療機関が大変な状況を見て「医療現場に行きたい」と。会社としても特別に兼業を認めて後押しし、今も医療現場で従事しています。

新たな発見もありました。テレワークによる社員どうしの交流です。海外と日本の支店がウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を使って情報交換するといった取り組みが随所で起きました。

今まで羽田空港の社員とニューヨークの社員が言葉を交わす機会はほとんどありませんでした。一気に壁がなくなり、お互いが何を考え、どう対応しているかを話すようになったのです。

このような社員のダイバーシティー(多様性)も含めて、SDGsには以前から力を入れてきました。今回の危機で社会が大きく変わり、ニューノーマル(新常態)を生きていくなかでSDGsの重要さはさらに増すでしょう。

日本航空(JAL)はSDGs達成のため、四つの領域を掲げています。「環境」「人」「地域社会」「ガバナンス(企業統治)」です。

航空業界には、飛行機を飛ばす際に出る温室効果ガスの二酸化炭素(CO₂)排出削減という大きな課題があります。もともと国際航空運送協会(IATA)の目標に基づいて「2050年に排出量半減」を目指していました。しかし、取り組みを加速しようと、今年6月、「50年に実質ゼロ」を打ち出しました。

撮影・村上宗一郎
バイオ燃料を国内外で確保

飛行機のジェット燃料は主に原油からつくられていますが、今後20~30年で廃棄物などからつくるバイオジェット燃料の技術が進歩し、CO₂排出を大きく減らせるようになります。

私たちはすでに、米国で今年中にもバイオ燃料の製造を開始するフルクラム・バイオエナジーに出資するなどして調達手段を確保しています。また、日本でも丸紅やENEOSなどと共同で原料から搭載までのサプライチェーン構築の準備を進めています。それでも削減しきれない分は、排出権取引で排出権を買うといったカーボン・オフセットの仕組みを使って削減を進めます。

建設中のバイオジェット燃料製造プラント(2020年6月)(提供写真)

昨年、スウェーデンの17歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんが飛行機を使わないことが話題になりました。コロナ危機での「感染を拡大してまで飛行機を飛ばすのか」という視点は、環境問題での「CO₂を排出してまで飛行機を飛ばすのか」という視点に通じるところがあります。感染症も地球環境も課題を解決しながら、新しい移動の価値を模索していきたいと思います。

航空会社の役割として地域社会の活性化もその一つです。私たちはこれまで、インバウンド(訪日観光客)による地域活性化を後押ししてきました。しかし、コロナ危機で、別の活性化のあり方を考えなければならなくなりました。

休暇を取りつつテレワークで働く「ワーケーション」はその候補です。日本では夏や年末、大型連休に多くの人が移動しますが、それ以外でもワーケーションで休んで移動できる社会があり得るのではないか。地方に住んでテレワークをしながら時折本社に来る働き方も広がるのではないか。こうしたニューノーマルを地域活性化につなげたいのです。

社内ではSDGsについて方向性が整理され、社員の意識も育ってきました。次はどう実現していくかです。具体的なロードマップをつくり、目標に向けて行動する。その時が来たと考えています。

(聞き手・大海英史)

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