SDGs ACTION!
コロナ危機で変わる社会

忘れられない存在へ 焦らず長く活動を

忘れられない存在へ 焦らず長く活動を
撮影・朝日教之
スポーツ通じ社会課題の発信続ける
公益財団法人 スペシャルオリンピックス日本理事長 有森裕子

新型コロナウイルスの感染拡大で、私は改めて気づかされたことがあります。スペシャルオリンピックス(SO)が関わっている知的障害者に対する社会の関心は、やはりまだまだ低いということです。

コロナ禍で、一時はほとんどのスポーツが止まってしまいました。SOが取り組む知的障害者のスポーツ活動も同じです。まずは世の中の安全安心が保証されない限り、スポーツを楽しむことはできないことも今回、よくわかりました。でもオリンピックやパラリンピック、プロ野球、大相撲といったスポーツイベントの再開に向けた様々な動きを見るにつけ、知的障害者スポーツへの社会の関心は残念ながら低いと言わざるを得ません。

なぜでしょうか。

知的障害者は、自分の考えをうまく発信できない人が多いのが現実です。パラリンピックに参加している多くの身体障害者が、はっきり発言できるのとは異なります。自分の声で社会に向かって存在をアピールしにくいのです。だから、今回のようなコロナ禍や災害の時などに知的障害者は社会の中で忘れ去られかねないのです。

SOの活動は、日々のスポーツを通じて健康や体力の増進を図るとともに、多くの人たちとの交流から知的障害者が社会性を育んでいくことを目指しています。多くの人に彼らがスポーツを通じて輝くことを見てもらい、何ができて、何ができないか、何に喜び、何に怒り、何に悲しむかを知ってもらいたいのです。

撮影・朝日教之
交流で気づくことは山ほどある

でも、SOは彼らの代弁者にはなれませんし、なろうとも思いません。私たちにできるのは、知的障害のある人たちが心の内にあるものを表現できる機会を提供することだけです。

SO日本が数年前からより力を入れている取り組みに「ユニファイドスポーツ」があります。知的障害のある人とない人とが同じチームで力を合わせながらゲームに臨むという取り組みです。今は主にバスケットボールやサッカーなどで実施しています。

ユニファイドスポーツを通じて、知的障害のある人もない人も気づくことが山ほどあります。お互いに違いはあるけれど、どうできるか、どうしたいかという感情を持ち、それをお互いに受け止めるようになります。するとどうやったらうまくいくかを見いだし、お互いがつながっていくのです。

ユニファイドスポーツをさらに強化していくことで、知的障害者の存在をたくさんの人たちが身近に感じ、お互いにコミュニケーションできる体験が増えれば、たとえ社会がどんな状況になっても障害者は忘れ去られない存在になれるのではないかと期待しています。

様々なイベントがコロナ禍のせいで縮小したり、なくなったりしています。そんな環境の中で知的障害者にとってもスポーツの場がなくなることは、実はとてもつらいことです。自らの存在をアピールする大切な機会を失っているのですから。

SDGsには「誰ひとり取り残さない」という理念があります。でも自ら大きな声を出せない人たちは忘れ去られがちです。特に大きな災害やコロナ禍のように、多くの人が苦難を強いられるような状況ではなおさらです。「私は困っている!」と言える人がまずは優先される。そんな現実を改めて思い知りました。

知的障害のある人とない人が一緒にプレーする「ユニファイドスポーツ」はお互いの個性を知る絶好の機会となる。地域の大会や全国大会、世界大会が開かれている(提供写真)
理想への「変化の継続」こそ

SOやSDGsは、いつの日か活動しなくてもよい世界が来るのが理想です。誰もが輝ける生活を持続的に過ごせるようになってほしいと思います。しかし現実はなかなか変わりません。

私は2002年に国連人口基金親善大使にも就任しました。SOに関わり始めたのもその年です。SDGsで掲げられている多くの目標は、その当時から訴えられていたものです。少しずつ変化は起き、理想に向かっているとは思います。でもゴールはまだ遠い。

私は理想を思い続け、願い続けて、現場や現実を前に動かすことが大切だと思っています。すぐにはたどり着けないかもしれませんが、思わないよりは思い、気づかないよりは気づいたほうが良いはずです。SOにとってもSDGsにとっても、変化の継続を促すことがなにより大切なのではないでしょうか。

コロナ禍で2月に開催予定だったSOの冬季ナショナルゲーム・北海道は中止になりました。残念なことでしたが、落ち込んではいられません。SOの「オリンピックス」という名称が複数形になっているのは、この名称が一つの大きな大会を意味しているのではなく、日々の様々な取り組みが継続的に行われていることを意味しているからです。小さくてもいいので、新しい形で日々の活動を積み重ねていきたいと考えています。

コロナ禍で多くの人が苦しんでいる状況では、一刻も早く正常な暮らしに戻りたいと願うのは当然です。ただ、急ぐのは禁物です。人が現場を整えようとしている時に急いでしまうと、どこかが崩れてしまい、平等性や正常さが奪われます。そこで取り残されるのは弱い立場の人たちです。

SDGsやSOの活動は焦らず、長く、深く、そして心を込めて続けなければなりません。サポートしていただける企業や個人の皆様にも思いを長く、強く持ち続けてほしいと願っています。

(聞き手・安井孝之)

スペシャルオリンピックスとは

知的障害のある人たちに様々なスポーツのトレーニングと競技会を提供している国際的な非営利のスポーツ組織。1968年、故ケネディ大統領の妹ユニス・シュライバーが設立した。現在は世界170カ国以上で520万人のアスリートと110万人のボランティアが参加している。オリンピック・パラリンピックと同様、4年に1度、夏季・冬季の世界大会が開かれる。日本組織は94年に熊本市で設立。2019年度末で約8600人のアスリートと1万人超のボランティアがいる。世界大会への予選会を兼ねて、国内でも全国大会を4年に1度開催している。運営は寄付や企業協賛で賄われている。https://www.son.or.jp/

出典:SO日本公式サイト

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