SDGs ACTION!
コロナ危機で変わる社会

「誰一人取り残さない」 コロナ危機で学生支援

「誰一人取り残さない」 コロナ危機で学生支援
撮影・村上宗一郎
ダイバーシティー進める人材を育て、社会貢献を
神奈川大学長 兼子良夫

「誰一人取り残さない」というSDGsの考え方を大切にしています。新型コロナウイルスの感染拡大による危機下でも、この理念に基づいて対策を講じています。

1月には早々に緊急対策本部を立ち上げ、多角的な議論を始めました。その時点で、交換留学で海外にいる学生たちを日本に帰国させる必要を感じました。神奈川大学は世界の約160大学と学術交流協定を結んでおり、教職員の交流なども積極的に行っています。そのネットワークと信頼をもとに緊密に連携するなどして、4月19日までに誰一人取り残すことなく日本に戻すことができました。

その後も学生の健康と安全を最優先に対応してきましたが、卒業式や入学式の中止を決断せざるを得なかったのは学長として無念としか言いようがありません。4月初旬には、前学期はすべてオンライン授業にすることを決め、入構禁止としました。授業の進め方は学部ごとに事情が異なり、語学や実験系など授業のタイプによっても違います。そうした情報を教職員の協力のもとで集約し、トップダウンではない形で意思決定を進めました。

コロナ禍は誰にとっても初めての局面です。戸惑いや不安の中で学生が感じる不便は何か、4月下旬にインターネットでアンケートもとりました。新入生が大学での学びすべてに不安を抱えるのは容易に想像できますが、在学生も情報通信環境に不安があることがわかりました。

撮影・村上宗一郎
全学生に一律5万円

コロナ危機であろうが、学生を誰一人取り残してはならない。私たちは、ノートパソコンやWi-Fiルーターの無料貸し出しだけでなく、すべての学生・大学院生(約1万8000人)に一律5万円・総額約9億円の修学支援金を給付しました。オンライン授業の通信環境を整えてもらうためです。

オンライン授業が一時的なものとは思っていません。有用な世界標準の高等教育ツールとして捉えており、コロナ危機の後も継続的にオンラインで学べるよう、学生を支援したいと考えています。
コロナ禍により、偏見や差別、貧困、環境などの問題が社会で深刻さを増しています。この時代に大学ができることは何でしょうか。役割の一つは教育や研究を通じて社会を俯瞰し、社会を先導する論理を示すことです。

神奈川大学は法、経済、経営、外国語、人間科学、理、工学部などが集まる総合大学であり、社会科学、人文科学、自然科学が融合しています。アップル創業者の故スティーブ・ジョブズが語った「リベラルアーツ(幅広い教養や多角的な視点)とテクノロジーの交差点」そのものです。たとえば、工学部の研究室では酸素の吸収・分離をする素材を開発しています。理学部の研究室では光合成を利用した水素エネルギーを研究しています。いずれも基礎研究を応用することで二酸化炭素(CO₂)の排出量削減などへの貢献を目指すものです。研究で得られた技術は企業などとの連携を通じて社会に還元されています。

私の専門は財政学です。卒業式などで学生に「人間中心の資本主義」をめざしてほしいと話しています。一部の人に偏るのではなく、皆を包摂する社会は資本主義の論理だけではかなえられません。

このことを考える際にぜひ読んでほしいのが、2018年に出した「神奈川大学ダイバーシティ宣言」です。世界の平和と人類の幸福の実現に貢献し、共生社会を築ける市民の育成、差別や偏見の根源的な解明と解決をうたっています。

19年にはSDGsに対する全学的な決意を示す「SDGsへの神奈川大学のコミットメント」をだしました。人権や差別の問題は貧困や飢餓を生み、さらに環境などあらゆる問題、まさにSDGsが指摘する様々な問題のベースになっています。だからこそ、ダイバーシティー(多様性)を認め合うことが大切です。

2021年4月開設予定の「みなとみらいキャンパス」の完成イメージ図(神奈川大学提供)
創立の意義を見つめ、みなとみらいに新キャンパス

19年7月、横浜キャンパスの近くに新しい学生寮「栗田谷アカデメイア」を開設しました。共同キッチンなどの共用スペースを充実させ、海外からの留学生と日本人学生が自然と交流できる場になっています。ただ生活する場ではなく、教職員や外部の団体とも交流し、多様な文化を学びあう場となるようソフト面も工夫しています。SDGsをテーマにしたオンラインでのディスカッションなどに取り組み、活発に意見交換しているのは頼もしいことです。

今年4月には国際日本学部を新設しました。日本文化の根底にある「寛容な心と共生」を発信するとともに、ダイバーシティーを進める国際的な倫理を身につけた人材を育てたいというねらいです

栗田谷アカデメイア内の様子(神奈川大学提供)

さらに、来春には横浜市に「みなとみらいキャンパス」を開き、国際日本学部などグローバル系の3学部を集約します。新しいキャンパスに集う学生が学部や大学の枠を越えて積極的に多くの人と交わり、学んでくれることを期待しています。
神奈川大学は1928年に横浜・桜木町の地に創立され、「京浜工業地帯の勤労者教育」を目的に、働きながら学べる夜間部から始まりました。学ぶ意欲があっても経済的な事情などで進学できない若者に学ぶ場をつくったのです。創立から間もなく、海と港を抱える街らしく貿易科が置かれるなど、海外に開かれた学校という歴史もあります。卒業生には海外で活躍し、日本とのかけ橋となった方も多く、タイ国日本人会長やブラジル商工会議所会頭を務められた方々もいます。

そうした創立の意義をいま一度見つめ、より良き形で社会に貢献するための私たちの役割は何かを希求し、深めたいと思います。

(聞き手・大海英史)

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