SDGs ACTION!
コロナ危機で変わる社会

同時多発で表面化する米国の矛盾

同時多発で表面化する米国の矛盾
社会主義政党PSLの活動家が開いたBLMのデモ。参加者は圧倒的に若者が多い(ニューヨーク市内にて筆者撮影)
SDGsに新たな視点も
在米ジャーナリスト 津山恵子

新型コロナウイルスの世界最大の感染地である米国は、かつてなかった危機に陥っていると言っていいかもしれない。パンデミック(世界的感染)がいつやむか予測できないことに加え、人種差別反対運動であるブラック・ライブズ・マター(「黒人の命は大切だ」、BLM)、経済停滞、そして治安の悪化など、持続可能な開発目標「SDGs」の中で問われてきた問題が同時多発的に表面化しているためだ。

米国が抱える危機へのアプローチの中で、特に人種差別問題がSDGsと密接な関係にあることにいち早く着目し、議論を進めていこうという動きは始まっている。

ブルッキングス研究所(本部ワシントン)とロックフェラー財団(同ニューヨーク)は、2018年から2年にわたりニューヨークで開いてきた「17の目標」会合を、Zoomなどオンライン会議アプリを使って今年9月から再開することを表明。向こう12~18カ月を見据えて、17の目標に新たな「視点」を加えた議論をする計画だ。

コロナが可視化した格差

具体的には、新型コロナの感染拡大と根強い人種差別主義など現在米国が直面する危機を踏まえ、21年末までに行動が可能な優先事項を早急にまとめる。「2030年のアジェンダ」の目標達成を前提として、こうした直近の危機対応を盛り込んでいく。9月に開かれる会合の後、10月には同研究所が簡単な報告書をまとめ、昨今の危機がSDGsの目標達成において見過ごされないようにするのが狙いだ。

新たな視点は、やはりBLM運動の急速な広がりだろう。中西部ミネソタ州ミネアポリスに住む黒人男性ジョージ・フロイド氏が今年5月25日、白人警官に首を圧迫されて死亡した事件だけが、引き金になったのではない。新型コロナの感染率は、社会的にも経済的にもマイノリティーであるアフリカ系・ヒスパニック系米国人の間で白人より高く、人種間格差を多くの市民に意識させ始めた。

世界と照らし合わせれば、貧しい国や地域ほど医療体制も貧弱で、国家の緊急経済対策も行き渡らないという現実が、米国内で顕在化したといえる。人種間格差は、人権問題とも直結し、フロイド氏が警官に殺害されて3カ月以上経ってもBLMのデモが続き、市民やメディアの間で議論が続いている背景でもある。

街中に突然現れたBLMのアートやサイン(ニューヨーク市内にて筆者撮影)
街角に作られたフロイド氏を追悼する祭壇(ニューヨーク市内にて筆者撮影)
反応する大手企業

この点には企業もいち早く対応した。SNS最大手のフェイスブックは6月1日、人種差別問題に取り組む複数の団体に対し、1000万ドルの寄付を発表。ストリーミングサービス最大手のネットフリックス、スポーツ用品大手のナイキなど大手企業が追随した。

フェイスブックやグーグルはさらに、社内でアフリカ系を含めた人種の多様化を急速に進める投資計画を明らかにしている。シリコンバレーのハイテク企業は、社員の白人比率が高いことで、社内外から長年非難されてきた。改善は遅々としていたが、BLM運動の拡大で一転して、マイノリティー雇用に注目が集まった。SDGs推進で大きな役割を果たす企業の素早い対応は、重要だ。

もちろん、気候変動問題も引き続き大きな焦点となる。気候変動枠組み条約の前事務局長、クリスティアナ・フィゲレス氏は8月5日(米東部時間)、米紙ワシントン・ポストがSDGsをテーマに開いたオンラインイベントに参加し、冒頭こう強調した。

「2020年こそ、温暖化ガスを30年までに半減する断固たる行動を取り、環境を守り、社会的正義を実現しつつ、経済成長を達成する年にしなければならない」

米国は、トランプ大統領がパリ協定から撤退を表明し、気候変動やエネルギー問題に対応する政府機関の予算を削るなど、「気候変動問題など存在しない」と主張する保守派有権者にアピールする政策を続けている。

これに対し、同イベントに参加したアイルランド元大統領で元国連人権高等弁務官のメアリー・ロビンソン氏はこう指摘した。

「新型コロナの感染拡大からは世界が学ぶべき点があり、その意味では希望を見いだしている」

世界に結果示せるか

持続可能な開発ソリューション・ネットワークとベルテルスマン財団が今年6月に発表した「持続可能な開発リポート2020」によると、米国のSDG指数は、調査対象国166カ国のうち31位と、世界最大の経済大国としては思わしくない。特に人種問題を含む「不平等の低減」、そして温暖化ガス削減に密接な「責任ある消費と生産」において評価が低い。

しかし、米国が新型コロナ危機や人種差別問題に対峙する中、SDGsにつながる活動や貢献が自然に注目され始めた。世界にその結果を示せるのかどうか、米国がかつてない危機に直面しているからこそ、正念場ともいえる。

つやま・けいこ
つやま・けいこ
東京都生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒。1988年共同通信社に入り、ニューヨーク特派員などを経て2007年に独立。著書に『「教育超格差大国」アメリカ』『現代アメリカ政治とメディア』(共著)など。ニューヨーク在住。
この記事をシェア