SDGs ACTION!

“SDGsネイティブ世代”の登場 【新連載】ビジネスパーソンのためのSDGs講座【1】

“SDGsネイティブ世代”の登場 【新連載】ビジネスパーソンのためのSDGs講座【1】
横田アソシエイツ代表取締役/横田浩一

art_00028_著者
横田浩一(よこた・こういち)
慶応義塾大大学院特任教授。企業のブランディング、マーケティング、SDGsなどのコンサルタントを務め、地方創生や高校のSDGs教育にも携わる。岩手県釜石市地方創生アドバイザー、セブン銀行SDGsアドバイザー。共著に「SDGsの本質」「ソーシャルインパクト」など多数。

SDGsが国連総会で採択されてから5年、現在では関連の記事が毎日のように報道されるようになった。すでに学びから実践のフェーズに入っている。しかし、実践するにはどうしたら良いかわからない、まだ理解が不十分だという方や組織も多いだろう。SDGsによって変わる社会や企業について考え、実践のためのヒントを解説していきたい。

9月に姫路女学院高等学校(兵庫県姫路市)の2年生を対象に修学旅行が実施され、約140人が北海道の下川町(人口約3200人)と東川町(人口約8300人)を訪れた。下川町は森林や地域の良さを生かし、「しもかわイズム」という挑戦する文化を基にしたSDGsの取り組みにより、政府主催の第1回ジャパンSDGsアワードで大賞にあたるSDGs推進本部長(内閣総理大臣)表彰を受けている。東川町は移住者が多く、また町立の日本語学校をつくり、常時外国人の若者が町に多く滞在しているなど、独自の取り組みで人口を増やしているダイバーシティー(多様性)が高い町だ。

art_00028_本文1
街歩きプログラムで地元の人に道を聞く姫路女学院高等学校の生徒たち(北海道東川町、横田撮影)

「SDGs教育に力を入れる」

高校生は現地を訪れて町の取り組みを聞き、森林や町並みを見てサステイナビリティー(持続可能性)とは何かを考えた。勉強とともに現地の雰囲気を感じ、そこに暮らす方々と交流することで何かしら肌感覚として感じることができたようだ。訪れた感想として「木材をすべて利用しているところがすごい」「女性の意見を採り入れる町」「皆で協力している」(いずれも下川町)、「カフェやフォトストリートなどがすごくおしゃれ」「ゴミが落ちていない」「街歩きで道を聞いたら知らないおばあさんからトマトをもらいました」(いずれも東川町)など、全体的に「姫路(人口約53万人)とは違う」という感想だった。外務省から官民人事交流で姫路女学院を運営する摺河(するが)学園の学園長に就任した山田基靖さんは、「SDGs教育に力を入れています。下川町や東川町を実際に訪れたことは、単に『SDGs』という言葉や概要を教えること以上の意味があると実感しました」と語る。

art_00028_本文2
生徒たちの修学旅行の感想(横田撮影)
art_00028_本文3

石川県立金沢西高等学校(金沢市)では、金沢市の協力のもと、SDGsをテーマにした探究学習を進めている。2年生を対象にしたプログラムでは、昨年から大学生のメンターが各クラスに1人つく。高校生は、興味のある社会課題を調べ、それに取り組む人の話を聞き、課題のテーマを大学生に相談する。自然と、大学生活など他の話も聞くようになる。社会課題を調べることを通じて、大学のことや将来のキャリアについて学ぶきっかけをつくる仕組みだ。また、地域の社会課題を調べることで地元への理解も進み、シビックプライド(地元に対する市民の誇り)を醸成して地方創生につなげようという狙いもある。

このように、多くの学校の探究学習や総合学習などのPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング、問題解決型学習)を通じて、SDGsや社会課題を学ぶ生徒は増えている。文部科学省では持続可能な社会づくりの担い手を育てるため、「持続可能な開発のための教育(ESD=Education for Sustainable Development)」に力を入れており、2020年度から順次導入される新しい学習指導要領では、一人ひとりの児童・生徒が持続可能な社会のつくり手となるようにすることも目指している。そして英語や国語、社会、道徳の教科書では多様性、平和教育、環境など様々なテーマでSDGsが取り上げられている。

大学4年生対象の調査によると、SDGsについて「詳しく知っている」「ある程度知っている」の合計は76.4%、「聞いたことがある」を加えると91.4%となった(ディスコ「就活生の企業選びとSDGsに関する調査」、20年8月)。内閣府の調査では15~19歳の77.3%、20~24歳の67.3%は「社会のために役立つことをしたい」と回答しており、多くの学生は社会貢献に興味をもっている(内閣府「子供・若者の意識に関する調査」、19年)。このように、今後、SDGsをきちんと学び、PBLのプログラムでSDGsを肌感覚で感じ、SDGsの理解や社会課題解決という発想が当たり前の世代、すなわち“SDGsネイティブ”世代が社会に巣立つ。

消費行動や価値観が大きく変化

このような世代は、いままでの世代とは興味の対象が違い、それに伴い消費行動や就職観などが大きく変化していくことになる。物欲よりはつながりを重視し、社会貢献性の高い仕事に就きたいという考え方を持つなど、価値観が変化している。今回のコロナ禍により社会課題が顕在化し、より本質的なことに目を向ける時間を持ったことは、さらに大きな影響を与えるだろう。

かたや企業におけるSDGsへの取り組みはどうだろうか? 企業研修などで話をしていると、ロジカルにはSDGsに取り組まなければならないことはわかっていても、なかなか腹落ちできていないビジネスパーソンが多い。理由としては「お金にならない」「メリットがない」「きれいごとを言われても」「うちはBtoB企業だから」といったことをよく聞く。しかし、“SDGsネイティブ世代”が世に出ていく時代において、これはビジネスやマーケティングそのものであり、優秀な人材を獲得していくにあたって必要な対応になっていく。社会の変化に対応できない企業が生き残ることが難しいのは歴史が証明している。これからの時代には企業や組織として、SDGsを理解し戦略を立てて行動することが大切なのだ。

(「ビジネスパーソンのためのSDGs講座」は毎月1回で連載します)

この記事をシェア
関連記事