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ガラスの天井に挑む~女性首相への道

「選挙至上主義」から脱却し、政策中心に

「選挙至上主義」から脱却し、政策中心に
撮影・朝日教之
国民民主党衆院議員/山尾志桜里さん

衆院議員の山尾志桜里さんは、旧立憲民主党と旧国民民主党の合流には加わらず、新しい国民民主党に参加した。また、次の選挙では小選挙区の愛知7区を離れ、比例東京ブロックで立候補することを決断した。旧民進党時代には政調会長として国会論戦に臨み、最近では憲法のあり方や香港の民主活動家らへの弾圧について積極的に発言している。そんな山尾さんが感じる日本の政治の課題とは何かを聞いた。(聞き手・大海英史)

――日本では女性の政治家がなかなか増えません。なぜでしょうか。

「政治の世界は『人たらし』が尊ばれます。その相手方の『人』とは既得権益を持つ人たちです。つまりご年配の男性陣の心をつかめるかどうかが永田町(国会や首相官邸などがある地域)の評価基準です。この人たらし文化を変えなければいけない。能力を基本とした評価基準にラジカルに変えれば、女性が政治の世界で評価を得やすくなるのではないでしょうか」

「女性が戦後に参政権を得てから70年余りたちましたが、首相を出してきた衆院議員の女性比率は10%ほどで、ほとんど増えていません。民間では能力のある女性が活躍する場が増えているのに、政治の世界には入ってこない。女性にとって政治の世界はハイリスク・ローリターンだからです」

女性にはハイリスク・ローリターン

——リスクとは何ですか。

「まずレピュテーション(風評)リスクにさらされやすく、プライバシーも私生活も犠牲になってしまいます。女性議員は人数が少ないため目立ちやすかったり興味の対象になったりして、女性のほうが様々な場面で興味本位にプライバシーを詮索(せんさく)されやすくなります」

「次に、政治の世界に一度入ると、一生、政治家であり続けなければならないというとらわれです。政治家から民間に転身したっていいし、民間から政治の世界に入ったっていいはずですが、政治家をやめると『ただの人』だの『都落ち』だのと言われます。政治家になっても、社会人として様々な経験や実績を積むキャリア形成に資するどころか、その後のキャリアにもプラスにならない。こうした環境では、合理的な選択として政治家になろうという女性は増えません」

——女性が政治の世界に入るのは難しいということですか。

「国会で厳しく質問すると、女性は『総理にかみついた』という表現が強調されやすいと思いませんか。私は初めて当選したころ、泣いてもいないのにマスコミに『目に涙がたまっていた』と表現されたこともあります。政治家もマスコミも女性国会議員に対して特異な存在という偏見や意識があるように思います」

「そもそも日本では、政治は男のロマン、権力を奪い合う、人間と人間の争い、その局面での心のあやといったことが強調され、報道されてきました。そんな男性社会の中に女性が入ることでその文化をかき乱している過渡期というところでしょうか。女性国会議員が増えれば、もっとかき乱せるし、文化を変えていけるんじゃないかと思います」

撮影・朝日教之

——政治の文化を変えるには何が必要でしょうか。

「選挙を中心に活動する選挙至上主義を変えていくことです。日本の国会議員の政治活動は選挙対策に偏っています。たとえば、月曜日は国会近くの議員会館の事務所に議員はあまりいません。金曜日の午後、仕事が終わると地元に帰って週末は支援者らにあいさつ回りをするからです。実質的に火、水、木曜日と金曜日午前しか、政策について議員間で議論したり、市民と対話集会を開いたりすることができません。その間には国会の委員会や党の会合もあるので、政策を提起するための準備や議論の時間がないのです。こうした選挙至上主義を変え、政策中心に活動するという政治のあり方が重要です」

——どうすれば選挙至上主義から脱却できますか。

「政治家と後援会の関係を見ると、ある意味でのファンクラブ、親類縁者というような身内的関係で支えられています。政策への評価というより身内の情というものが強いと感じます。私は2007年から政治活動をしていますが、前半は選挙区(愛知7区)で『志桜里ちゃん』というような娘や妹のような存在で応援していただきました」

「私もこうした身内的な関係に甘えて票をいただく面もありました。でも、しばらくたって、安易に甘えるのではなく、政治や政策に対する思いを託してほしい、皆さんの代弁者である代議士として政策に携わりたいと考えるようになりました。選挙区の皆さんには大変感謝していますが、次の衆院選では比例東京ブロックに変わることにしました。これは選挙至上主義から変わりたいという考え方の一環でもあります」

撮影・朝日教之
女性がかき乱し、政治の質を上げる

——国会議員の中で女性が増えれば、政治の文化は変わりますか。

「新しくできた国民民主党は議員数が少ないこともあって国会議員15人のうち女性議員が5人で、33.3%を占めます。特別なことをしたわけではなく、自然に割合が高まりました。次の選挙を考えれば、大所帯の新しい立憲民主党に合流したほうが有利かもしれませんが、女性議員は選挙至上主義に染まっていないので、政策や理念を大切にして合流しなかったと思います」

「だから党内では空気を読み過ぎず、自由で活発な議論ができます。SNSで議員間のグループをつくり、子どもの送り迎えの途中の空いた時間、台所でお弁当をつくっている合間などにそれぞれが投稿しています。これだけITが発達しているんですから、漫然と席に座っていると言うと失礼ですが、そうした国会議員の代わりに、女性議員や若い議員がいろいろなやり方を駆使して子育てなどをしながら議論し、政策を立案する。そうすれば、政治の質も上がっていくように思います」

——女性が増えることで政策は変わりますか。

「女性、LGBT(性的少数者)、障害者など当事者性を持つ人が政治家になることは極めて重要です。それぞれの分野できめ細かい対応や必要な制度をつくることができるからです」

「ただ、女性国会議員が女性政策だけに留め置かれるのは違います。外交や安全保障、憲法のような国家の問題は不勉強がすぐにわかり、批判にもさらされやすいですが、大局的な政策論議に飛び込んでいく覚悟も必要です。女性国会議員は女性政策など特定分野に強いスペシャリストが求められがちですが、幅広い知見を持つゼネラリストを目指して努力したいと思います」

——山尾さんは将来的に首相を目指しますか。

「そこ、目指していません(笑)。率直に言って、今の私では実力不足。実力不足のまま『女性総理を目指します!』というのは性に合いません」

「そもそも総理になることを目標にすると、選挙に当選し続けることと『永田町』に好かれることが最大の行動規範になってしまう。選挙至上主義と永田町文化こそが政治を停滞させているのに……。むしろ私の目標は、1回1回の任期を使い切って、新しい成果を積み上げることのほうにあります」

国会前でプラカードを掲げ、香港の民主活動家の逮捕に抗議する人たち=2020年8月12日

――SDGsについて、力を入れる分野はありますか。

「日本は国際社会と連携して自由や民主主義を広げていこうとどれだけ考えているか、国際社会での日本の役割を見つめ直す必要があります。香港では中国共産党による民主活動家への弾圧によって、自由や民主という価値が広がるどころか、後退しています。世界では、重大な人権侵害に対する積極的な調査や公表、制裁、救済の基本となる通称『マグニツキー法』を制定する国が増えており、日本版マグニツキー法をつくる必要があると考えています」

「7月にJPAC(対中政策に関する国会議員連盟)を超党派でつくり、共同会長となって香港やチベット、ウイグルでの弾圧について抗議や支援の議論を進めています。オーストラリアのシンクタンクの調査報告では、国際企業のサプライチェーン(供給網)でウイグル人が強制労働に従事させられ、なかには日本企業も含まれるとしています。こうした人権侵害をふせぐルールをつくる努力が必要です」

撮影・朝日教之

山尾志桜里(やまお・しおり)
1974年、仙台市生まれ。ミュージカル「アニー」の初代アニー。東京大学法学部卒。元検察官。民主党の公募候補者として、2009年に衆院議員初当選。16年の民進党結党の際に政務調査会長に就いた。立憲民主党を経て、今年9月に新しい国民民主党に参加し、憲法調査会長、広報局長兼シンクタンク戦略室長。衆院では外務委員会委員、政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会委員。対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)日本側共同議長、対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)共同会長。
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