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ガラスの天井に挑む~女性首相への道

女性も実力をつけ、本物のリーダーに(前編)

女性も実力をつけ、本物のリーダーに(前編)
撮影・朝日教之
国際政治学者/三浦瑠麗さん

三浦瑠麗さんは国際政治学者の立場から日本の政治や外交・安全保障などの政策について鋭く分析したり、提言したりしている。与野党を問わず、厳しくリーダーを批判することもある。一方で、女性としての生き方や体験を綴ったエッセーも出版した。そんな三浦さんに、「なぜ日本では女性の首相が誕生しないのか」を聞いた。(聞き手・大海英史)


——事実上、次の首相を決める今回の自民党総裁選に、女性は立候補することができませんでした。なぜでしょうか。

「野党はこれまでに蓮舫さんが代表になったり、旧社会党や社民党も女性がリーダーになったりしています。ただ、今の日本で首相になるには自民党でリーダーにならないと難しいでしょう」

「自民党は本来、地方分権型の政党です。今回の総裁選でも地方票は都道府県にそれぞれ3票ですから、人口の多い都市部より地方や過疎地域のほうが票の重みを持ち、保守的な地方の声が反映されやすい。国会議員を選ぶプロセスも分権型です。地方ではもともと地盤があり、選挙に強い人がいて、女性が入り込む余地がありません。女性国会議員が増える時はだいたい『○○チルドレン』のようなトップダウンで送りこまれるケースです。こうした地方分権型や保守的なプロセス、名望家支配的な面があるので、リーダーとしての資質を持つ女性国会議員が輩出できないと考えます」

女性リーダーが出にくいプロセス

——自民党の女性のなかにもリーダーをめざす議員はいるように思いますが。

「育て方にも問題があります。今の優秀な女性国会議員は利益団体型で組織に応援されている人や、専門的な知識を持つ人が多い。たとえば薬剤師や医師、文化・スポーツ系のような議員たちです。スポーツであれば橋本聖子さん(五輪担当相兼女性活躍担当相)、医師であれば自見英子さん(前厚生労働政務官)のように専門的な知識や実績があり、優秀な方がいます」

「ただ、業界の支援や組織票で上がってきたり、専門的な分野に強みを持ったりする政治家は、男性もそうですが、必ずしも首相にはなれず、大臣止まりが多いのです。首相になるには専門家より、むしろ大局観を持っていることが重要になります。そういう意味で女性首相の候補を育てるプロセスが今の自民党にはないように思います」

「例外的に稲田朋美さん(前幹事長代行)がいて、安倍晋三前首相に見いだされて政調会長や防衛相を務めるなどしていますが、派閥の中ではリーダーになれない。あくまでも女性枠として育てられており、現場の経験は不十分です。男性のように派閥の中で育てていくというふうに見えない。野田聖子さん(幹事長代行、元総務相)は祖父の地盤を継いで自民党的に出てきた方ですが、自民党の権力ピラミッドに入っていません」

首相官邸で記念撮影する菅義偉新首相(前列中央)と閣僚たち=2020年9月16日

——こうした男性中心の世界で女性がリーダーになるためには何が必要ですか。

「自民党で目立つ女性国会議員は男性より早い段階で大臣などに引き上げられることがあります。すると、リーダーになるうえで踏むべき現場の種類も場数も踏めない。まだ実力が伴っていないうちになるため、いざ問題が起きて国会で追及されると対応する力や防御するすべを持っていない。南スーダンでの日報を自衛隊が隠蔽した問題では、当時の防衛相だった稲田さんの弱さがむしろ目立ってしまいました。私個人はぜひ女性に首相になってほしいと思います。でも有権者として考えた時に、候補が準備のできていない状況で拙速に実現するのはどうかなと思ってしまう」

「今回の菅義偉内閣は案外、改革を進めるための実力派の大臣がそろった内閣だと思っています。組閣前、三原じゅん子さんが大臣になるのではないかとうわさされていましたが、厚労副大臣でした。三原さんは子宮頸がんのワクチン接種や不妊治療の支援で努力された実績があります。ただ、今回は副大臣で良かったと思います。やはり国会で答弁し、様々な問題に対応する大臣の力が伴っているかというと、まだそうではないでしょう。女性で目立つからといって無理に大臣にするより、副大臣として経験を積み、大臣を見ながら学び、実力をつけていくほうがはるかに良いのではないでしょうか」

撮影・朝日教之
三浦瑠麗(みうら・るり)
山猫総合研究所代表。内政が外交に及ぼす影響の研究など、国際政治理論と比較政治が専門。1980年、神奈川県生まれ。東京大学農学部卒、東大公共政策大学院専門修士課程修了、東大大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程修了、博士(法学)。日本学術振興会特別研究員、東大政策ビジョン研究センター講師などを経て2019年から現職。「シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき」(岩波書店、12年)、「21世紀の戦争と平和―徴兵制はなぜ再び必要とされているのか」(新潮社、19年)、自伝的エッセー「孤独の意味も、女であることの味わいも」(新潮社、19年)など多くの著作がある。
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