日本初の「自然エネルギー100%大学」に挑む 千葉商科大学

千葉商科大学(千葉県市川市)が、キャンパスで消費するエネルギー(電気+ガス)すべてを、再生可能エネルギーでまかなう「自然エネルギー100%大学」構想を進めている。同県野田市の元野球場に設置したソーラー発電所などでの「創エネ」と省エネを組み合わせ、2019年には消費電力と発電量を同量にする第1期の目標をまず達成した。建学の精神「商業道徳の涵養(かんよう)」のもと、「まっとうな商い」を教育理念に掲げる同大の狙いについて、原科幸彦学長に聞いた。(聞き手・金本裕司)
日本の再エネ、ポテンシャル十分
私が本学に来たのは2012年ですが、それ以前は東京工業大学で研究をしていました。専門は社会工学、なかでも「インパクト・アセスメント」という分野です。これは、さまざまな事象が「環境」「経済」「社会」の三つにどんな影響があるかを事前に評価する、すなわち、アセスメントするものです。
そのころから、持続可能な社会のためには、原発はふさわしくない、再生可能エネルギーをきちっと広めるべきだと言ってきました。
技術面では日本はもう再エネは可能です。また、環境省が毎年数値を発表していますが、日本の再エネの可能性は、日本全体で使用するエネルギーの数倍もあります。水力、風力、太陽光などのポテンシャルは十分にあるということです。
しかし、こういう事実がありながら、原発を使おうとしている。放射能のリスクは大きく、事故が起きると環境、社会に大きなインパクトがある。東日本大震災から10年たっても福島に帰れない人がたくさんいるでしょう。
原発は合理性もありません。廃棄まで考えると本当の発電原価はいまの何倍もかかる。最終処分の問題も、よほどお金をかけないとできない。
大震災後、日本人は原発をなくしてもエネルギー供給は大丈夫だと認識しました。実際、2014年には1年間ゼロになったがまったく問題なかった。
原発は、安全ではない、安くもない、(エネルギーの)安定供給にも関係ない、の3点セットです。

野球場跡地にメガソーラー発電所設置
東工大を定年退職後、本学に移った2012年当時は、島田晴雄先生が学長でした。野田市にある野球場が不便で学生に不評だったので、キャンパスの近くに新設しました。その跡地にFIT制度(「固定価格買い取り制度」=再エネで発電した電気を一定期間は電力会社が固定価格で買い取らなければならない制度)を活用して、メガソーラーを作ることになった。グラウンドの跡地だから、山を切り開くなど周りに影響を与えない、賢明な使い方でした。初期投資は7億円ほどかかりましたが、14年4月から「メガソーラー野田発電所」が稼働しました。
当時、私は政策情報学部長でしたが、本学を、再エネを社会に広げていく拠点にしたいと思っていました。商科大学なので、「商いの力」で再エネを世の中に広げていく。本学が再エネ推進の拠点になるのは、社会的に意義のあることだと考えました。
発電所ができた当時、キャンパスの消費電力のどのぐらいをまかなえるか推計してみたら、約6割でした。残り4割をどうするかという状況でしたが、同年9月に学部長として「自然エネルギー100%大学を目指したい」と意思表明し、同僚の鮎川ゆりか教授らとともに実現可能性を検討し、その意義を学内に広めていきました。
第1段階「RE100大学」を達成
こういう準備を積み重ね、17年に学長になった後、SDGsを目指す「学長プロジェクト」の一つとして、電気とガスを合わせ、使用するエネルギーに相当するエネルギーをすべて再エネでまかなう「自然エネルギー100%大学」という構想を実現することとしました。私たちは、電力だけでなく、熱も使っています。だから、電気だけでなく、ガスも合わせ、すべて再エネに変えるということです。
第1段階の目標は、電力を100%まかなうことで、達成時点は18年度に置きました。野田発電所のパネルを増やし、市川キャンパスにもパネルを増設し、発電量を増やすことをやった。電灯をLEDに切り替え、省エネも行いました。
そうした取り組みで、19年1月に消費電力と発電量が同量になりました。第1段階の目標、日本初の「RE100大学」を達成しました。
次の段階が「自然エネルギー100%大学」の達成です。実は、「電気もガスも再エネ」という目標は、数値上は今年達成できているのです。しかし、コロナによってリモート授業に切り替えざるをえなかったりして消費量が減っています。フェアにやろうと考えて、目標年次を20年度から、コロナが終わっているだろうと想定する23年度に変えました。

電気を社会に提供することに意義がある
再エネには、良い点が二つあります。
一つは、安全というだけでなく、もともと持続可能なものだということです。原発はウランを使うが、これも枯渇資源です。核燃料サイクルが仮に成功したとしても、いずれは枯渇する。自然を使ったエネルギーは枯渇しません。日本は自然に恵まれている国なので、使わないのはもったいない。日本が使えばアジア地域への模範を示せる。アジア地域も日本と同じような状況の国がありますから、そういう国の社会を変えていくことにつながります。
もう一つは、地域分散型で、小規模で発電できるということです。原発や火力は、大きな装置が必要になる。再エネは小さな投資ですみます。だから、「隗(かい)より始めよ」で、うちの大学が使う分を自分の責任で作ることにしたのです。これは、まさにSDGs12番目の目標「つくる責任 つかう責任」です。
そして大切なのは、作った電力を社会に提供することです。作ったものを全部自分で消費するとなると、現状ではコストの問題が出る場合もあります。再エネを広め、持続可能にするには、作ったものを社会の中で売ることも大事です。FIT制度の活用です。自分で使ってうまくいっている人もいれば、売ることでうまくいくこともある。両方をやって、社会全体として電力の量が増えていく。そこに価値があるのです。作り出した再エネ電力を社会に提供することは、「まっとうな商い」「商いの力で社会を変えていく」という本学の志にも合致します。
最初から、他の大学のモデルになり、「自然エネルギー100%大学リーグ」というのを作ろうと考えていました。東工大でもソーラーパネルを張った校舎を作ったりしています。東日本大震災で計画停電という話になった時、再エネでどこまでまかなえるか調べたが、せいぜい5、6%でした。電力をたくさん使う理工系の大学では容易でない。まず、文系の大学から広げていければと思っています。リーグは来年には作れると思います。すでに四つの文系大学の学長が関心を示してくれています。
コロナで見えた地域分散社会の必要性
コロナ危機は、大きなインパクトでした。そこで明確に分かったことは、私たちの社会を一極集中型から、地域分散型に変えないといけないということでした。地域分散社会には、本学で実践しているような地域分散型のエネルギーが非常に重要です。分散型のエネルギーにして、地域で循環するようにしていけば、どこかの地域がダメージを受けてもちゃんと生き残るでしょう。日本はコロナの前から大地震とか自然災害などの打撃を受けていますから、もともとそうでなければならなかったのです。戦後日本は、産業上、経済上の事情から、労働力を集め、装置型産業を進めていく必要があったのでしょう。しかし、持続可能な経済ということを考えると、集中でなくて分散型でいけるわけです。
いまは、良いものも悪いものも簡単に移動する時代です。コロナウイルスがまさにそれです。分散型の社会構造のほうが、強靱(きょうじん)性があるということです。
1928年、「巣鴨高等商業学校」として東京で創立。戦後、千葉県市川市に本部を移し、50年に千葉商科大学として商学部商学科を開設。現在、商経学部、政策情報学部、サービス創造学部、人間社会学部、国際教養学部の5学部と大学院に3研究科がある。学生数は6327人(2020年5月現在)。
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