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再生可能エネルギーで切り開く~CO₂排出ゼロを目指して

2050年温室効果ガス実質ゼロへ リコー、挑戦の10年

2050年温室効果ガス実質ゼロへ リコー、挑戦の10年
中国・東莞市の新工場(リコー提供)

使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業ネットワーク「RE100」。2017年4月、日本企業で最初に参加したのがリコーだ。日本政府に先立って「2050年温室効果ガス実質排出ゼロ」を掲げて、自社工場や営業所などでの温室効果ガス削減に取り組んでいる。当面の目標は「2030年、15年比で63%削減」で、19年の達成率は約23%。かねて「環境経営」を掲げてきた同社にとって、挑戦の10年になる。(編集部・金本裕司)

同社が「2050年温室効果ガス実質排出ゼロ」という目標を掲げるまでには、20年を超える環境への取り組みがあった。

自社製品の回収や再資源化を目指し、「コメットサークル」という考え方を表明したのが、1994年だ。92年にブラジルのリオデジャネイロで、「地球サミット」(環境と開発に関する国連会議)が開催され、持続可能な開発や気候変動問題が、世界の大きな課題になり始めた時期だった。

同社の主力商品は、法人向けの複写機リース。5年のリース期間が過ぎれば、製品は同社に戻ってくる。「部品としてまだまだ使えるものがある。資源循環のサークルを回すことで、環境への負荷を減らすと同時に、再資源化で利益にもつながる。地球サミットを意識した考え方でした」(阿部哲嗣・サステナビリティ推進本部社会環境室長)という。

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(リコー提供)

COP21公式スポンサーが転換点

こうした環境への取り組みを整理して、「環境経営」として打ち出したのが1998年のことだ。前年には、京都でCOP3(気候変動枠組み条約締約国会議)が開催され、温暖化対策の「京都議定書」が合意された。

当時は、後に経済同友会代表幹事になる桜井正光社長の時代。「環境保全」と企業としての「利益創出」を同時に実現するという目標が強く打ち出された。

同社がさらに環境問題に前向きに取り組むきっかけになったのが、2015年のCOP21だった。地球温暖化対策の指標となる「パリ協定」が合意された会議だ。フランス政府や国連から公式スポンサーになるよう要請を受け、引き受けた。

「会議で出会った欧州の経営者らは盛んに『脱炭素』を語りました。日本の企業ではまだそんなことを言う会社はありませんでした。われわれも環境に取り組む会社として自信をもって臨んだが、世界はもっと先に行っている。目標の見直しが必要ではないか」(阿部室長)と痛感したという。

日本企業で初の「RE100」加盟

目標の見直し作業と、山下良則社長への交代、中期経営計画のスタート時期がちょうど重なり、現在の目標である「2050年温室効果ガス実質排出ゼロ」を打ち出したのが2017年4月のことだった。自社の工場・オフィス・車両などから直接排出される温室効果ガス、自社が購入した熱・電力の使用に伴う温室効果ガスを、実質ゼロにする目標だ。その目標に到達するための手段が、再生可能エネルギーの利用だ。

当時は、日本ではまだ「再エネはコストが高い」といった意見が主流だった。社内でも再エネは利用するにしても、再エネ100%を宣言する「RE100」に参加する必要があるのかどうか議論があったという。

しかし、同社では「使う側が再エネをほしいとはっきりと言わないと、供給側も出てこない。鶏と卵みたいな関係で、誰かが踏み出さないと賛同者も出ない」(阿部室長)との結論に。日本企業で最初のRE100参加につながった。

支社、新工場は、再エネ対応型に

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リコージャパン和歌山支社(リコー提供)
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同社の温室効果ガス削減の目標は2段階になっている。

最終目標は「2050年の排出ゼロ」だが、その前段として、COP21が行われた15年と比較した、30年の目標がある。当初は「30年、30%削減」だったが、今年4月に「30年、63%削減」に大幅に上方修正した。15年のパリ協定は「産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度未満に抑える」ことが目標だが、より高い目標に対応する修正だ。19年の実績は23.4%減だった。

目標実現に向け、省エネ・創エネの努力は欠かせない。

販売会社のリコージャパンの支社を建て替え、移転する際には、太陽光発電のパネルを設置し、蓄電装置の導入により再エネを作り出している。また、照明をLEDに切り替え、断熱建材・断熱ガラスなどを活用することで、省エネを進めている。支社長の車もEV(電気自動車)・PHV(プラグインハイブリッド車)を採用している。すでに岐阜・熊本・和歌山など25支社で導入した。

リコー本社の海外工場などでも、省エネ・創エネを進めている。

今年7月、中国・深圳市の2工場を集約し、東莞市で環境最先端の新工場が稼働した。2工場を合わせた使用電力と比べ、電気使用量を70%以上低減。太陽光発電の設備で全電力の10%を賄っている。

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中国・東莞市の新工場(リコー提供)

再生可能エネルギー使用率は12.9%

温室効果ガス実質排出ゼロの実現には、中心になるのは再エネの使用だ。

2030年度に、使用電力の30%以上を再エネにする目標を掲げているが、19年度は12.9%。

世界に広がる事業所で再エネ使用がどれだけ進んでいるかを地域別で見ると、欧州は51.3%、中国は27.7%。再エネの価格が比較的安いからだ。

使用電力全体の6割を占める日本は1.9%とまだまだ低い。米州も1.7%にとどまる。

同社では、目標の達成には日本と米州で再エネ導入の加速が不可欠とみている。

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阿部哲嗣・社会環境室長

Keywords
RE100

使用電力を再生可能エネルギーで100%賄うことを目標とする企業の国際的なネットワーク。「Renewable Energy 100%」(再生可能エネルギー100%)の略。英国の国際環境NPO「The Climate Group」などが運営している。2020年12月15日現在、日本から45社が加盟している。

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