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再生可能エネルギーで切り開く~CO₂排出ゼロを目指して

戸田建設の「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」 常盤橋タワーで再生エネ100%

戸田建設の「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」 常盤橋タワーで再生エネ100%
撮影・朝日教之
戸田建設社長/今井雅則

東京駅前や渋谷駅前の再開発で再生可能エネルギー100%の電力を使った工事が進んでいる。超高層ビルを建てる際の電力に太陽光発電などを使い、二酸化炭素(CO₂)の排出をゼロにしようという取り組みだ。先頭を走る戸田建設の今井雅則社長に取り組みへの考え方と建設業界の課題を聞いた。(聞き手 編集部・大海英史)

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撮影・朝日教之

東京駅前で大規模な再開発「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」(敷地面積3.1ha)が進んでいます。戸田建設はこのプロジェクトの「常盤橋タワー」(A棟、高さ約212m、地上38階、2021年6月末竣工予定)の建設工事を請け負っています。

19年9月、この工事で使う電力をすべて再生エネに切り替えました。超高層ビル工事で使う電力では、国内で初めての再生エネ100%です。

東京駅前を皮切りに、これまでに建築では渋谷駅桜丘口地区第一種市街地再開発事業(東京都)など16現場、土木では新名神高速の宇治田原トンネル東工事(京都府)など16現場、当社の社屋などではT-FIT八丁堀(東京都、現本社)など4施設で再生エネ100%の電力へ切り替えました。これは、当社が使用する電力の約4分の1にあたります。

再生エネによる電力は、主に地域電力を含めた電力会社から購入しています。また、建設現場に自ら太陽光パネルを設置し、現場事務所の照明などの電力として使っています。

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TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)常盤橋タワーの完成予想図(三菱地所作成、戸田建設提供)

渋谷駅前、新名神工事でも再生エネ100%

当社の筑波技術研究所(茨城県)では、当社が発電事業に参画している太陽光発電「さくらの里メガパワー発電所」(長崎県)の電力を新電力のみんな電力(本社・東京都世田谷区)を通じて利用しています。将来的には、このように当社の再生エネ事業の電力を自らの工事に使用していきたいと考えています。

私たちの目標は、建築や土木の工事など事業活動で使う電力の再生エネ利用率を40年までに50%、50年までに100%にすることです。すでに20年度には目標の約6%を大きく上回って約25%に達する見込みで、前倒しでできるものはどんどん進めます。

工事だけではありません。完成後に引き渡した建物で使用する電力などのエネルギーを減らすことでCO₂排出を削減する取り組みも進めています。建物で消費するエネルギーの収支ゼロを目指す「ZEB」(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)です。使用電力などを省エネで減らすことと再生エネなどでつくることを組み合わせて、エネルギー消費量を実質ゼロに近づけます。こうしたZEB案件は7件あります。

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戸田建設が工事現場に再生可能エネルギー電力を調達する仕組み(戸田建設提供)

太陽光、洋上風力発電に参入

さくらの里メガパワー発電所に参画しているように、再生エネ事業そのものにも乗り出しています。15年に参入した太陽光発電では長崎田手原メガソーラー発電所などがあり、16年からは長崎県五島市の福江島沖で「浮体式洋上風力発電」の商用運転をしています。日本は浅瀬が少ないため、海底に固定する着床式洋上風力発電より、海に浮かべてチェーンで係留する浮体式のほうが多くつくれます。浮体式は国内の年間発電量の2倍以上を賄うだけの潜在的な可能性を持っているとされています。こうした再生エネ事業を含めた環境事業は売上高の8.5%を占めており、今後はさらに拡大を見込んでいます。

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長崎県五島市沖の浮体式洋上風力発電所=撮影・西山芳一氏(戸田建設提供)

当社はリーマン・ショック後の11年度、12年度、赤字になりました。価格競争をやっても、結局は赤字になってしまう。それならば企業としての価値をもっと大切にしよう。そう考えるようになりました。ほかの建設会社とは違う価値、ほかと差異化できる価値を持とう、と。

環境問題には以前から取り組んでいました。1994年に「戸田建設地球環境憲章」を制定、2000年に日本のゼネコンで初めて「廃棄物ゼロエミッション(リサイクルなどで廃棄物を出さない)」を達成し、10年には環境省の「エコ・ファースト企業」に認定されました。

この環境への取り組みをさらに発展させ、重点的にして、社会課題の解決をビジネスに取り入れよう。「価値創造」「継続進化」という企業理念に基づいて、環境問題という社会課題に向き合い、新しい企業価値をつくっていくことを明確にしました。

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長崎田手原メガソーラー発電所(戸田建設提供)

環境産業は100兆円超の市場

では、環境でビジネスは持続できるのか。

私たちが赤字を出した11年度の国内の建設投資は約42兆円でした。そのころを底に、その後は東日本大震災の復興事業やアベノミクス、国土強靱(きょうじん)化などの防災・災害対策で投資額は増え、年間60兆円台になっています。

一方、環境産業の市場規模は11年度で約90兆円あり、いまでは100兆円を超えています。大気汚染や下水処理といった環境汚染防止、再生エネや省エネといった温暖化対策、廃棄物の処理、緑化のような自然環境保全の分野です。環境は成長分野のビジネスとして力を入れることができるのです。

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撮影・朝日教之

さらに社会的な評価も重要です。近年、金融機関などの機関投資家は企業が温暖化対策に取り組んでいるかを厳しく見るようになっています。ビルや道路などを発注するお客さまからも温暖化対策に強みを持つことが信用につながります。

私たちは国際NGO「CDP」(本部・ロンドン)による気候変動への取り組み評価で、16、18、19、20年に最高評価の「A」をいただきました。19年には再生エネ100%を目指す国際的な企業ネットワーク「RE100」に加盟し、気候変動に関する情報などを開示する「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)への賛同も表明しました。

TCFDの情報開示で、温暖化により「平均気温上昇を1.5℃に抑えた世界」の財務への影響を想定すると、当社は30年度の営業利益が19年度より増加する結果になりました。気温上昇や異常気象によるマイナスを再生エネ発電所や省エネ建築などによるプラスが上回るのです。

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「平均気温上昇を1.5℃に抑えた世界」を想定した場合、戸田建設の2030年度の財務への影響評価(19年度比、赤がマイナス、青がプラス、緑は営業利益のプラス、戸田建設提供)

重機のCO₂排出が課題

しかし、問題がないわけではありません。建設現場でのCO₂排出量は電気が30%で、パワーショベルなどの重機の燃料に使う軽油が65%を占めます。小型ショベルで電動機械も出始めましたが、根本的な解決はまだ難しく、重機を扱う機械土工会社の皆さんや国などと連携して考えていきたいと思います。

私は東京建設業協会の会長をしています。加盟279社の多くは中小の建設会社です。いま協会の中期運営計画をつくっており、ここにESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)の考え方を取り入れる方向です。

建設業は災害への対応や防災など社会的な課題解決につながる仕事です。さらに近年、温暖化による異常気象は多くの災害をもたらしており、気候変動対策への取り組みも欠かせません。

それが良い人材に来てもらい、地域の人に信頼してもらい、良いお客さんに仕事をさせてもらうという建設業の信用につながります。当社の取り組みをきっかけに建設業界、関係業界に意識を広げていきたいと考えています。

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2024年竣工予定の新本社ビル「新TODAビル(仮称)」の完成予想図を前に=撮影・朝日教之

戸田建設
1881年に戸田方として請負業を始め、1908年に戸田組と改称。23年に起きた関東大震災の復興で学校や病院を多く建て、27年の「早稲田大学大隈講堂」の建設など「学校・病院の戸田」に。戦後の63年に戸田建設に改称し、「ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル」「早稲田大学早稲田キャンパス3号館」「新名神箕面とどろみインターチェンジ」などを手がけてきた。2019年度(連結)の売上高は約5190億円、従業員数は約5500人。
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