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再生可能エネルギーで切り開く~CO₂排出ゼロを目指して

スマホ部品製造に再生エネ イビデンが水力発電からつむぐ歴史

スマホ部品製造に再生エネ イビデンが水力発電からつむぐ歴史
撮影・朝日教之
イビデン/青木武志社長

再生可能エネルギーを活用してスマートフォン向け電子部品をつくる日本メーカーとして、世界から注目された企業が岐阜県にある。揖斐川(いびがわ)の恵みを利用した水力発電で創業し、セラミックや電子部品などに事業を広げてきたイビデンだ。その背景にある考え方や歴史とは何か。青木武志社長に聞いた。(聞き手 編集部・大海英史)

撮影・朝日教之

イビデングループは1912年(大正元年)、「揖斐川電力」として設立されました。岐阜県を流れる揖斐川の恵みを利用した水力発電の会社としてスタートを切ったのです。

その後、109年をかけてセラミック関連事業や半導体用ICパッケージ基板などの電子関連事業へ進出していきます。こうした新事業に参入しつつ、一貫して二酸化炭素(CO₂)を排出しない再生可能エネルギーや環境への取り組みを進めてきました。

貯木場跡に水上フロート式太陽光発電所

衣浦事業場(愛知県高浜市)にかつて、建材に使われる化粧板をつくるため、木材を浮かべておく貯木場(池)がありました。この跡地を再生しようと当社グループで工夫をこらし、太陽光パネルを浮かべる計画を立てました。2016年、出力規模1.99MW(メガワット)の「水上フロート式太陽光発電所」をつくり、運転を始めたのです。

衣浦事業場の水上フロート式太陽光発電所(イビデン提供)

当時、米大手スマホメーカーのプリント配線板の主要な供給メーカーになっていました。私たちの水力発電や水上フロート式太陽光発電所、環境への取り組みを紹介すると、高く評価され、対象製品を再生エネ100%で製造する日本初のサプライヤー(部品供給メーカー)として発表されました。

水力発電は揖斐川上流で東横山、広瀬、川上の3発電所が稼働しています。創立100周年を迎えた2012年に大改修に取りかかり、2015年までに3発電所の発電能力を更新しました。2019年度の発電量は2015年度の約1.5倍の計16万6334MWhになります。

太陽光発電は衣浦事業場のほか、各工場の屋上に太陽光パネルを設置し、2019年度の発電量は2015年度の約2.6倍の1万6776MWhです。水力と太陽光を合わせた再生エネ発電量は計18万3110MWhになります。

2020年8月には、国際的な金融システムの安定を図る金融安定理事会(本部・スイス)が設けた「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言への賛同を表明しました。今後、提言に基づき、気候変動が事業に与えるリスクなどを分析し、財務に影響のある気候関連情報を開示していきます。

水力発電の東横山発電所(イビデン提供)
「世界の空をきれいにしよう」

再生エネだけではありません。省エネや環境に貢献する製品開発にも取り組んでいます。

オイル・ショックで省エネが注目されていた1970年代、優れた耐熱性や断熱性でエネルギー消費を抑えるセラミックファイバーを自力開発し、1974年から製造を始めました。今も燃料電池や非鉄、航空機などの産業分野で幅広く使われています。

自動車は朝エンジンをかけるときに排気管部品(触媒担体など)が冷えているため、排ガスが最も出ます。そこでセラミック繊維を活用した当社の触媒担体・シール材で排気管部品を断熱して冷やさないようにすると、排ガスを抑えることができます。

同様に「世界の空をきれいにしよう」という合言葉で開発されたのが、ディーゼルエンジンから排出される黒煙の除去フィルター「SiC-DPF」です。1999年に発売した時は世界で唯一のメーカーとして世界中の自動車メーカーに供給しました。

ディーゼルエンジンの黒煙除去フィルター「SiC-DPF」(イビデン提供)
水力発電から枝葉を広げ、ICパッケージ基板

当社の歴史は水力発電から始まり、電力を有効活用するために電気化学の分野に進み、カーバイドやメラミン化粧板、セラミック事業などを創出しました。1972年からめっき技術を応用してプリント配線板の製造を開始し、1988年に半導体用ICパッケージ基板の製造を始めて、電子関連事業を成長させていきます

ICパッケージ基板(イビデン提供)
スマートフォン向けプリント配線板(イビデン提供)

根っこには創業以来の水力発電があり、そこから関連技術の枝葉を伸ばし、新しい事業にチャレンジしていった歴史があります。1970年代には緊急合理化対策として創業以来初となるリストラを決断するなど厳しい経営危機も経験しました。「社員にあんな思いをさせてはいけない」という危機感から、新しい分野の開拓を目指すDNAがあります。

5Gなどデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に向けて最先端のICパッケージ基板の生産能力を増強するのも、そうしたDNAです。大垣中央事業場を中心に2022年度までに総額1300億円の設備投資をします。

撮影・朝日教之
大垣中央事業場(イビデン提供)
大豆たんぱくからハンバーグ

今、新たに開発を進めているのが「バイオ」です。工場内で見つかった特殊なバクテリアが植物の成長機能を活性化するというので、甘みのある大きなトマトをつくりました。いずれは効率よく植物を成長させ、植物によるCO₂吸収を増やせないかと考えています。

黒煙除去フィルター(DPF)事業で培った成型技術を応用し、大豆たんぱくを使った代替肉の開発にも成功しました。この代替肉で作ったハンバーグは味や歯ごたえも遜色ありません。

大豆たんぱくによる代替肉で作ったハンバーグ(イビデン提供)

この技術は安定的な食料供給につながり、低カロリーで健康にもよいため、SDGs(持続可能な開発目標)の「飢餓をゼロに」や「すべての人に健康と福祉を」の目標に貢献できます。さらに牛が出すメタンガスは温暖化の原因とも言われており、「気候変動に具体的な対策を」の目標にも役立つ可能性があります。

かつて、魚を焼くプレートのコーティング剤を開発したことがありました。製品として広がらず、お蔵入りしていましたが、ある時、大手自動車メーカーにそのコーティング剤を紹介したところ、熱を逃がす作用があることや「つや消しブラック」の色が出せることから、高級車のコーティングに使われました。

いつ、どこで技術が花開くか、わかりません。社員には「種はいっぱいまこう」「技術の引き出しを多く持ち、いつでも引き出せるように整理しておこう」と言っています。それがいつか、30年後かもしれませんが、事業の新しい枝葉になっていくのです。

ESGで社会や地域に貢献を
撮影・朝日教之

当社は今、ESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治)の経営に力を入れており、環境に加えて社会的な責任や企業統治もしっかりやっていこうと考えています。

Eでは、TCFDへの賛同を表明し、CO₂排出の実質ゼロを目指すカーボンニュートラルやゼロエミッションに取り組んでいきます。

Sでは、製造業はどうしても男性が多い職場になってしまいます。結婚して辞める女性も多かったため、辞めた後に戻ってきた場合には元のキャリアにつけるようにしたり、育児休業制度を充実させたりしています。

Gでは2017年に監査等委員会設置会社に移行し、役員体制をスリム化しました。取締役の半数を社外取締役とし、さらに2020年度からは執行役員をゼロにしました。電子業界の変化はスピードが速く、現場に近い幹部が責任を持ち、経営陣が迅速に決断するためです。決裁や承認を得るための稟議(りんぎ)もデジタル化しました。

当社は水力発電からスタートして新しい分野を切り開き、地域に根づいてきました。ESGを取り入れることで、事業を通じてさらに社会や地域、環境への貢献を進めていきたいと思います。

撮影・朝日教之

イビデン株式会社
1912年に揖斐川電力として設立、創立70周年の1982年に社名をイビデンに変更した。ICパッケージ基板やプリント配線板などの電子事業、セラミック事業を主力事業とするほか、水力、太陽光発電の再生エネ事業があり、大豆たんぱくによる代替肉開発などのバイオ技術、抗ウイルスコート剤の開発なども進めている。2019年度の売上高(連結)は2959億円。従業員数(連結)は1万3019人(2020年3月末)。
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