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再生可能エネルギーで切り開く~CO₂排出ゼロを目指して

カーボン・ニュートラルへ向け疾走する欧州企業(後編)

カーボン・ニュートラルへ向け疾走する欧州企業(後編)
風力発電などへの転換を強くアピールするRWEのウェブサイト(英語版)
在独ジャーナリスト/熊谷徹

熊谷徹(くまがい・とおる)
1959年東京都生まれ。82年、早稲田大学政治経済学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中にベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からドイツ・ミュンヘンを拠点にジャーナリストとして活動。著書に『ドイツの憂鬱』『新生ドイツの挑戦』『ドイツ病に学べ』『なぜメルケルは「転向」したのか』『ドイツ中興の祖 ゲアハルト・シュレーダー』など。

欧州連合(EU)は2050年までに二酸化炭素(CO₂)などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにし、カーボン・ニュートラル(非炭素化)を達成することを目指している。そうした政治の動きに合わせて欧州の製造業界でも、エネルギー源のグリーン化などによってカーボンと決別しようとする動きが急速に進んでいる。その背景には投資家や消費者の厳しい監視の目がある。

ドイツ電力業界、褐炭から再エネに転換

ドイツ政府の脱石炭政策は、この国の電力業界に大きな地殻変動をもたらしている。これまで化石燃料に大きく依存してきた大手電力会社が、発電事業の中心を再生可能エネルギーに置くことを宣言するなど、10年前には考えられなかった現象が起きつつある。

ルール工業地帯のエッセンに本社を持つRWEは、ドイツ最大の電力会社だ。19世紀に褐炭火力発電会社として創業された伝統企業は、いま大きな転換期にある。

メルケル政権は2022年末に原子力発電所を廃止し、38年末までに褐炭・火力発電所を全廃する方針だ。原子力と化石燃料は、RWEの発電ポートフォリオを支える要で、メルケル政権のエネルギー政策の転換に直撃される形となった。

このためRWEは19年に「再生可能エネルギーを中心とする電力会社に生まれ変わる」という新たな経営戦略を打ち出した。ロルフ・マルティン・シュミッツCEOによると、同社は風力発電や太陽光発電などを「基幹事業」と位置づけて拡大し、褐炭、石炭、原子力による発電を「非基幹事業」として大幅に縮小する。目標は、40年までに発電ポートフォリオからのCO₂排出量を正味ゼロにすることだ。

RWEが中心にするのは、陸上・洋上風力発電だ。欧州だけではなく、米国やアジアでも再生可能エネルギー事業を拡大する。実際、19年のRWEの再生可能エネルギーの発電比率は、18年に比べて2倍近くに増えている。

ウェブサイトで「グリーンな電力会社」を強調

19年からは会社のウェブサイトを一新して、風力発電プロペラや森林などの映像を多用し、「グリーンな電力会社」というイメージを投資家や市民に対し強くアピールしようとしている。かつてRWEは「火力発電所から大量のCO₂を排出する気候の破壊者(クリマ・キラー)」というあだ名を環境保護団体からつけられていたが、いま、そうした悪いイメージを払拭するために必死の努力を行っている。

RWEの方針転換の背景には、再生可能エネルギー発電量の増加もある。フラウンホーファー太陽エネルギー研究所(ISE)によると、20年上半期のドイツの再生可能エネルギーは、全発電量(企業などによる自家発電を除く)の55.8%に達した。RWE経営陣は電力市場のグリーン化の流れには抗えないと判断している。

投資家はRWEの決断を歓迎した。同社の株価は19年の新戦略の発表以降、20年3月までに約30%上昇した。

RWEはEUとドイツ政府が振興する水素事業にも新しいビジネスチャンスを見いだしている。シーメンスやBPなどと共同で、ドイツ北部のリンゲンで「水素クラスター地帯」の建設プロジェクトを進めている。同社は再生可能エネルギーからの電力で水を電気分解してグリーン水素を製造し、22年後半から大消費地にパイプラインで供給する。余った電力は、水素に変換して地下のガスタンクに貯蔵する。

【RWEの2018年と19年の発電量の電源別比率】

ユニパーもカーボン・ニュートラル目標を公表

発電ポートフォリオの非炭素化を進めているのは、RWEだけではない。これまで化石燃料による発電事業を経営の柱にしていた大手電力ユニパー(本社=デュッセルドルフ)も、20年3月10日の記者会見で初めて、35年までに欧州でのCO₂排出量を実質ゼロにするとともに、今後は再エネ関連プロジェクトへの投資を増やす方針を明らかにした。

ユニパーは、ドイツ第3位の電力会社。19年の売上額は658億400万ユーロ(8兆2960億円)で、約1万1500人が約40カ国で働いている。

同社のアンドレアス・シーレンベックCEOは記者会見で、「今後2040年までに世界中のエネルギー需要は飛躍的に増大する。同時に人類は、気候変動の深刻化を防ぐために、CO₂の排出量を大きく減らさなくてはならない。ユニパーは、この二つの目標を達成する上で、大きく貢献できるエネルギー企業だ」と述べた。

これまでユニパーの発電ポートフォリオは、化石燃料の電源が中心だったが、20年1月末に石炭火力発電所の閉鎖に関する行程表を発表した。シーレンベックCEOによると、同社の発電ポートフォリオからのCO₂排出量は、今後5年間で40%減る見通しだ。

水素ビジネスに関するユニパーのウェブサイト(英語版)
水素ビジネスを経営戦略の主軸に

今後ユニパーが力を入れるのが、水素ビジネスだ。ユニパーの2019年の売上額の約53%はガス事業によるものだ。同社は欧州で最大のガス輸入企業なので、すでにガスの貯蔵タンクや輸送管などのインフラを保有している。

その中でユニパーが重視しているのが、「パワー・トゥー・ガス(P2G)」というテクノロジーだ。P2Gは、再生可能エネルギーによる電力の蓄積手段の一つとして注目されている。ドイツ政府は、北部で強く風が吹くなどして、再生可能エネルギー発電設備からの電力が余った場合、これを水素やメタンガスなどに変換して蓄積することを検討している。大消費地であるドイツ南部で電力需要が高まった場合に、蓄積された水素を電力に転換する。

電力業界、CO₂削減目標を1年早く達成

私は1990年からドイツの電力業界を定点観測して、エネルギー問題についての記事を書いているが、エーオンが発電事業をやめ、RWEがグリーン発電会社になるというのは、目を疑うような変化だ。

この結果、ドイツの電力業界では交通部門などに比べてCO₂削減が進んでいる。ドイツ連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)は2019年10月29日に発表した声明の中で「ドイツの電力業界は今年1~9月にCO₂排出量を前年同期比で4000万トン減らすことに成功した。この結果、電力業界は『2020年までに1990年比でCO₂排出量を40%減らす』という目標を、今年末には達成できる」と表明した。

電力業界だけではなく交通部門なども含めると、ドイツは20年までに40%削減するという目標を達成できないことがわかっている。その理由は、交通部門のCO₂排出量が1990年からほとんど減っていないからだ。それだけに電力業界の目標達成は突出して目を引く。

ドイツ電力業界のCO₂排出量の変化

※資料=BDEW(ドイツ連邦エネルギー・水道事業連合会)1990~2019年は実績、2020年は予測、2030年は目標。
化石燃料による発電所が「座礁資産」に

電力業界がCO₂削減レースの「優等生」となった理由の一つは、再生可能エネルギーの急拡大だ。2019年の再生可能エネルギーの発電量は前年比で7.8%も増えている。2010年に比べると、実に130.4%の増加だ。

ドイツの20年上半期の電力消費量に再生可能エネルギーが占める比率は49.7%だったが、メルケル政権はこの比率を30年までに65%まで引き上げることを目指している。

EUは17年にCO₂排出権取引市場の削減効果を増すために、この市場で扱われるCO₂排出権の価格を人為的に大幅に引き上げた。この結果、化石燃料を使う発電所の収益性は近年著しく悪化している。逆に再生可能エネルギー由来の電力の価格競争力は高まる一方だ。

つまり電力会社にとっては、化石燃料を使う発電所を持ち続けると、損失を生む「座礁資産」が増える危険がある。スウェーデンの国営電力会社バッテンフォールは、20年第3四半期の業績に関する報告書の中で、ドイツで所有する石炭火力発電所の稼働率と資産価値が下がり、収益を減らす要因となったことを明らかにしている。こうした市場環境も、電力会社の非炭素化に拍車をかけるだろう。

発電事業には、発電設備の建設などに多額の投資が必要だが、化石燃料が主体のポートフォリオでは、投資家から資金を集めることが難しくなりつつある。そう考えると、ドイツの電力業界でグリーンシフトの動きが今後さらに加速することは間違いない。

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