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再生可能エネルギーで切り開く~CO₂排出ゼロを目指して

日本生命がすべての投融資にESG評価へ その背景とは?

日本生命がすべての投融資にESG評価へ その背景とは?
撮影・朝日教之
日本生命保険/松永陽介・取締役専務執行役員

日本生命保険が21年4月、保険契約者から預かった保険料を運用する投融資すべてにESG評価を取り入れる。株式や債券、不動産などに投融資する際、環境(E)や社会(S)、企業統治(G)への取り組みを見ていこうという考え方だ。国内トップの生保であり、約70兆円もの資産を株式や債券などで運用する民間最大の機関投資家でもある日本生命。その動きは株式市場や企業経営にも大きな影響を与える。なぜ全資産の運用にESG投融資の手法を取り入れるのか。その理由や背景を松永陽介・取締役専務執行役員に聞いた。(聞き手 編集部・大海英史)

撮影・朝日教之

ESG投融資やSDGsの考え方は、日本生命の資産運用の理念に近く、根底にある考え方は同じです。私たちは中長期の資産運用をしており、長い目で企業や経済を見ようという視点があります。持続可能な社会を目指す点では同じ方向を向いているのです。

日本生命には運用の3原則があります。「安全性」「収益性」「公共性」です。環境(E)、社会(S)、企業統治(G)はもちろん公共性と合致しますが、近年は収益性や安全性の面でも重要になっています。すなわち、ESGに資する投融資は長い目で見ると収益性や安全性にも優れるため、3原則とESG投融資には親和性があるといえます。

国連責任投資原則がきっかけ

始まりは2006年、「国連責任投資原則」(PRI)の発足です。E、S、Gの課題を投融資の意思決定に組みこむことが提唱され、ESG投融資が世の中に広がりました。

Keywords
ESG投融資

環境・社会・企業統治を重視した経営をしている企業を選び、株式などを買う投資をしたりお金を貸す融資をしたりすること。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の英語の頭文字からESGと呼ばれる。環境では二酸化炭素(CO₂)の排出量削減や再生可能エネルギーの利用など、社会では労働環境の改善や女性活躍の推進など、企業統治では不祥事を防ぐ経営などを重視している。
世界のESG投資額は、環境問題や社会課題に向き合う企業が中長期的に成長するという視点から、欧米を中心に増えている。国際団体GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)の調べでは、2018年には世界全体で30兆ドル(約3150兆円)を超えた。日本は欧米に比べて出遅れていたが、16年の4740億ドル(約50兆円)から18年には2兆1800億ドル(約230兆円)へと急増している。
※1ドル=約105円で計算

ただ、日本生命は約70兆円の資産を運用しています。規模が大きく、市場での動きも大きくなるため、機動的に大きく動いていくには少々難しい面があります。

一方、子会社に資産運用会社のニッセイアセットマネジメントがあります。ここは資産運用の規模が約14兆円で、日本生命本体より先進的な取り組みをしやすい特徴があります。

まず同社が06年のPRI発足と同じ年に署名し、08年には投資判断のためのESG評価に取り組み始めました。それから今まで長期にわたって投資先企業のESGの評価を蓄積してきました。このような資産運用会社は日本ではほかにないと思います。

蓄積した経験を生かすべく、日本生命も16年度にPRIに署名しました。新たな中期経営計画が始まる翌17年度から本格的にESG投融資に乗り出したのです。

ESG投融資、2000億円の計画が8000億円超に
撮影・朝日教之

ESG投融資には大きく分けて、次の四つの手法があります。

「テーマ投融資(インパクト投資を含む)」(ESG関連のテーマに投融資をする)
「インテグレーション」(財務情報だけでなく、ESGなどの非財務情報も考慮する)
「エンゲージメント」(投資先企業と対話し、課題解決を働きかける)
「スクリーニング」(企業や業種を投資先から除外(ネガティブ)したり、重点的に投資(ポジティブ)したりする)

私たちのESG投融資の特徴の一つは、どれか一つの手法に偏らず、バランスよく対応していることです。また、E・S・Gの各領域をバランスよく進めていることも特徴の一つといえるでしょう。さらに、日本生命だけでなく、ニッセイアセットマネジメントや大樹生命、ニッセイ・ウェルス生命などグループでしっかり取り組むこととしています。

最後に、重要なスタンスとしては、拙速に進めるのではなく、3原則にのっとって収益性を見極めたうえで取り組んでいるほか、即時・一律に同じ基準で判断するのではなく、国・地域ごとに実態に合わせて判断していくことがあげられます。

ESG投融資の基本的な考え方(日本生命提供)

「テーマ投融資」は17~20年度の中期経営計画で当初2000億円の計画でしたが、すぐに達成したので7000億円に増額しました。それも約3年でクリアし、いまは8千数百億円になっています。

このうち、環境が3分の2を占めます。環境分野に特化した債券「グリーンボンド」、太陽光や風力発電プロジェクトへの融資などです。社会分野は3分の1です。途上国の病院プロジェクトなどのインフラ整備、水不足に対する淡水化事業などがあります。

世界各地での日本生命の「テーマ投融資」の例(日本生命提供)
英国での洋上風力発電プロジェクトへの融資(写真提供・ファイアボルト社)
トルコでの病院開発運営プロジェクトへの融資(出典・ルネサンスグループ)

オーストラリアでの海水淡水化プラント運営プロジェクトへの融資(出典・AquaSure Pty Ltd.)
ESGについて約300社と対話

「エンゲージメント」については、年間約800社と対話していますが、このうち約300社とESGに関する対話をしています。日本生命は東京証券取引所第1部の上場企業数の7割程度となる約1500社に投資していますから、その5分の1とESGに関する対話をしていることになります。また、昨年度は36社と気候変動に特化した対話も実施しました。

そのような中で新型コロナウイルスの感染拡大が起きました。歴史上、パンデミック(感染爆発)が起きるとそれまで徐々に起こっていた変化が加速していきますが、コロナ禍でもそうです。

社会の変化では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速しつつあります。リモートワークなど働き方や暮らしのデジタル化が一気に進むでしょう。

環境でも気候変動への危機感が増しました。“黒い象”という言葉があるように、誰の目にも明らかなリスクへの対処をおろそかにしていると、大きな被害が起こるという認識が急速に広がっています。こうした変化に伴い、投資先の企業との対話がより重要になっています。

撮影・朝日教之
石炭火力発電事業への新規投融資をストップ

ESG投融資は今までは社会課題解決の側面が強かったように思います。私たちは保険契約者の利益を常に第一に考えますので、従来は資産運用の収益性を見たうえで同じならばESG評価が高い企業に投資しようというスタンスでした。

ところが、最近、ESGが資産運用の収益性に大きな影響を及ぼすようになったのです。ESGは長い目で見て企業の持続可能性にかかわるとされてきましたが、最近はESG評価によって株価などの市場評価に大きな差が出るようになりました。企業がESGに取り組んでいないと株価が下がるなどして、私たちの資産が劣後する恐れが出てきたのです。

たとえば、「ネガティブ・スクリーニング」によってESGの基準に反するようなプロジェクトや企業には投資されないようになってきました。その一つが石炭火力への投資です。日本生命も18年度に、気候変動に与える影響の大きさを考慮し、新規の石炭火力発電事業への投融資には原則取り組まないことを決定しました。ただし、一律に投資対象から外すネガティブ・スクリーニングには、慎重であるべきだとも考えています。

日本生命が考える「ESG投融資の潮流と今後の方向性」(日本生命提供)
拙速に変えず、地道に根づかせる

こうした変化から、ESG投融資を進めるなら全資産にESG評価を取り入れよう、そう判断したのです。

これは全資産の運用をがらっと変えるということではありません。株式でも債券でも企業の業績や財務、将来性に基づいた適正価値を評価しており、この基本スタンスは変わりません。そこにESGを「インテグレーション」する、つまりESG評価を取り入れる、ということです。

いくら公共性があっても資産運用として安定したリターンがなければ、投融資として根づきません。拙速に変えていくのではなく、急がば回れの地道な取り組みで、一過性のブームではなく、持続的な投融資になっていくと考えています。

生保には投融資で企業を支えるという金融の側面があります。ESG評価が高くないから株式を売ります、というだけで社会が良くなるわけではありません。そこで重視するのが「エンゲージメント」、対話です。

株主や投資家として企業に提案してESGを改善してもらい、資産運用にもプラスになる。対話によって社会課題解決の動きを底上げし、物事を良くしようという考えです。

一人ひとりの暮らしが向上してこその投融資

20年3月、機関投資家の諸原則を定めた「日本版スチュワードシップ・コード」が再改訂されましたが、これを議論する金融庁の有識者検討会に委員として参加しました。ここでもESGが主なテーマとなり、投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すことが確認されました。

投融資には、企業が成長し、経済が発展し、国民生活に還元されて一人ひとりの暮らしが向上するという大きな目的があります。この目的がしっかりしていないと、私たちの社会の前提である民主主義や資本主義がダメになります。ところが、短期的な利益至上主義が行き過ぎてしまった部分があり、その警鐘としてESGやSDGs(持続可能な開発目標)が出てきたのではないでしょうか。

SDGs達成に向けた日本生命の目指す姿(日本生命提供)
本店東館で再生エネ100%

日本生命自身の取り組みとしては、SDGs達成に向けて当社が目指す三つの姿を掲げています。貧困や格差を生まない社会の実現、世界に誇る健康・長寿社会の構築、持続可能な地球環境の実現です。

働きながら子育てできる環境を整備しようと、ニチイ学館と協働で全国84カ所に企業主導型保育所を展開しています。また、子会社のライフケアパートナーズで、企業主導型保育所と企業・子育て世代の従業員をマッチングする事業も展開しています。

「Gran Ageプロジェクト」では認知症保障保険をつくり、保険金に加え、認知症の理解促進・早期発見・重症化予防に資するサービスとともに売り出しています。ヘルスケア事業で糖尿病予防プログラムのサービスも提供しています。

CO₂排出では、大阪市にある本店東館の電力を再生可能エネルギー100%にするなど、太陽光発電をできる限り取り入れています。不動産は国内で4番目の貸し床面積を保有しており、投資用不動産では環境認証をとっているほか、コロナ禍で換気の間隔を30分に1回からさらに縮めたり、タッチせずにエレベーターに乗れるようにしたりしています。

当社の企業活動は「共存共栄」と「相互扶助」の精神が前提であり、SDGsが目指す社会を実現する活動そのものです。私たちは投融資や自社の活動を通じ、その目的のために取り組みたいと考えています。

屋上に太陽光パネルを設置した日本生命本店東館=大阪市(日本生命提供)

日本生命保険
1889年(明治22年)創業の国内最大手の生命保険会社。契約者の相互扶助を目的とする「相互会社」で、株主が存在せず、契約者一人ひとりが構成員(社員)となっている。2015年に三井生命保険(現・大樹生命保険)と経営統合し、同保険を子会社に。19年度(連結)の保険料等収入は5兆7193億円、本業の利益にあたる基礎利益は6958億円。従業員数(19年度末)は7万4557人(うち営業職員は5万3154人)。清水博社長。
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